【第2回:前編】健康寿命をのばして生涯現役!ベテラン理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~国際的視野を持つ人材育成を目指す広田美江さん~

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リガクラボの連載「健康寿命をのばして生涯現役!ベテラン理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法」。長きにわたりお仕事をされていて、現在も生涯現役を目指して活躍されているベテラン理学療法士の方々に、前編では現在のお仕事(セカンドキャリア)について、後編では日々実践している健康管理法についてお話を伺っていきます。

今回は定年退職後も自らのキャリアアップに邁進され、「国際的視野を持つ理学療法士の人材育成」をライフワークの目標とし、意欲的に活動されている広田美江さんにご登場いただきます。

PROFILE

広田 美江さん(ひろた よしえ)

広田 美江さん(ひろた よしえ

独立行政法人国立病院機構 別府医療センター リハビリテーション科。
1961年宮城県生まれ。養成校卒業後、大分県の国立病院機構に入職。結婚し一男一女をもうけた後も、沖縄県、福岡県など5カ所の国立病院に勤務、30年にわたり理学療法部門の管理職業務を務めた。子育てが一段落したタイミングでJICA(国際協力機構)シニアボランティアへ挑戦。ペルー国立障がい者リハビリテーションセンターで2年間障がい者スポーツ推進事業に携わる。定年退職後は、再雇用制度を利用し、急性期医療に従事。

広田さんの現在のお仕事(セカンドキャリア)

広田さんは独立行政法人国立病院機構別府医療センターにて勤務された後、定年退職後も再雇用制度で急性期医療に従事されつつ、後進育成も意欲的におこなっていらっしゃるんですね。現在、どのような思いでお仕事に取り組まれているのでしょうか?

広田さん:「国際的視野を持つ理学療法士の人材育成」が私のライフワークの目標であり、最終的には現在おこなっている事業を、国際共同研究までに発展させることが夢です。これらを実現させるためには、「国際協力」と「臨床研究」という2点において自身のキャリアアップを図りつつ、活動の輪を広げていくことが大切だと考えています。

1963年(昭和38年)に日本初の理学療法士作業療法士養成校が開校され、1966年(昭和41年)に、日本初の理学療法士が誕生しました。当初、日本の理学療法は、アメリカ人理学療法士によって教育がおこなわれていました。そのため、初期の理学療法士は、英語で授業を受け、アメリカやイギリスに留学する人も多くいました。このように日本の理学療法の礎は、グローバルな教育から始まり発展してきました。

また、私が理学療法士になった頃は2000人程度だった理学療法士の数は、現在では20万人とも言われています。これは単に人数が増えただけではなく、日本の理学療法が魅力のある誇らしい仕事であることの証とも言えます。

私はこれまで日本が受けた教育の恩返しとともに、日本の素晴らしい理学療法を世界に届けたいと思っています。そして、これからの日本の若い理学療法士に「夢」や「希望」、「未来」を与えたいと考え、「国際的視野を持つ理学療法士の人材育成」をセカンドライフの目標として取り組んでいます。

ICUで勤務中の広田さん。現在は再雇用制度を利用して、急性期医療の現場で仕事をされている

日本と海外の理学療法をつなげるグローバルな目標ですね。その目標実現のために必要と考えられている「国際協力」についてもお聞かせください。以前、JICA(国際協力機構)のシニアボランティアとして活動されたそうですが、どのような思いで挑戦されたのでしょうか?

広田さん:私が長年勤務している国立病院機構は、広域を対象とした高度または専門医療など、日本の政策医療を実施しています。幸運なことに、私は在職中に19分野すべての政策医療に関わることができました。しかし、国立病院機構の役割である「診療」「臨床研究」「教育研修」「情報発信」の医療提供が、理学療法の分野では十分な力を発揮できていないと常々感じていたのです。

そこで、何事にも積極的に取り組む向上心のある理学療法士を育てていくためには、まず私自身が欲を捨て、ギブ・ギブ・ギブ&ギブの環境に身を置くことが必要だと考えました。それがJICAのシニアボランティアにチャレンジした大きな理由です。

JICAのシニアボランティアでは、具体的にどのような活動をされたのですか?

広田さん:2014~2015年の2年間、日本・ペルー友好国立障害者リハビリテーションセンター(以下、INR)で活動しました。活動内容は、「脳損傷部における障がい者スポーツ事業」を活性化することでした。

まずは「第1回ペルー障がい者スポーツ指導員養成講習会」を開催しました。うれしいことに、この講習会は現在もINRで毎年おこなわれ、ペルー全土から医師や理学療法士が一堂に会します。そして、講習会を開催するにあたり、当初の3年間、毎年10数名の日本の大学教員と学生を障がい者スポーツ短期ボランティアとしてペルーへ派遣しました。

卓球のボールを転がしておこなう障がい者スポーツ「卓球バレー」の様子。最初は用具が揃わずテーブルも代用品だったが、ペルーの方々と協力して用具を作っていった

ペルーの医師や理学療法士の方々の、障がい者スポーツへの関心の高さが伺えますね。

広田さん:そうですね。ほかにも、日本とペルーのリハビリテーションの様子や入院生活、施設の風景などの写真を集めた「LOVE&PEACEリハビリテーション」と題した写真展を、ペルーで1カ所、日本では11カ所で開催し好評を博しました。特にこの写真展を見た多くのペルーの障がい者の方たちは、日本の高い理学療法技術、文化や風土にも憧れを抱き、「日本に行ってぜひリハビリテーションを受けたい」と強く懇願されていました。

その後も私はINRの医師と理学療法士と協力し、現在もJICAのプロジェクトマネージャーとして、ペルーの子どもたちに明るい未来を与えるため「ペルーにおける障害児スポーツ指導力強化および普及促進プロジェクト」の活動をおこなっています。

ペルーの障がい者スポーツ事業のメンバーと

ボランティア活動を通じて、ペルーの方々が日本に興味を持ってくださり大変うれしいですね。次に「臨床研究」についてですが、「共同研究をみんなで考える会」を発足されたとお聞きしました。こちらを発足された経緯を教えていただけますか?

広田さん:2021年度より国立病院機構の仲間を集い、「共同研究をみんなで考える会」を発足させました。また、私自身、臨床研究を指導できるだけの知識も技術もないため、2020年より九州大学大学院人間環境学府博士課程に進学し、運動疫学を学んでいます。

臨床業務では数年おきに異動を余儀なくされる環境にいたため、臨床研究活動の継続が難しく、研究に関する情報交換や研鑽をおこなう機会が乏しい現実を目の当たりにしてきました。そのため、質の高い臨床研究、教育研修を推進する理学療法士が互いに切磋琢磨しながら成長できる場とネットワークが必要と考えたのがきっかけです。

ネットワークができることは、臨床現場で働く理学療法士にとっても心強いのではないでしょうか。具体的にはどのような活動をされているのですか?

広田さん:国立病院機構は、国民の健康と日本の医療を守る日本のトップグループ病院です。理学療法の分野では4つの柱のうち「診療」や「教育研修」といったところは熱心におこなわれてきました。しかし、職員の転勤が始まってからは「臨床研究」や「対外的な情報発信」は、伸び悩んでいる傾向にありました。

私は常々、国立病院機構内に臨床研究活動の情報交換や研鑽をおこなう場所がなくなったことを残念に思っていました。そのため、若い理学療法士の皆さんを応援するために、異動があっても臨床研究の追体験ができて、ノウハウが学べる体制を作りたいと考えました。

そこで、目標であった全国14の施設を対象とした多施設共同研究を開始しました。そのほかに英語論文抄読会もおこない、今後は英会話のスキルアッププログラムも提供していきます。また2023年度から3年計画で、年4回のセミナーを通じて、臨床研究の人材を育成するプログラムを開催する予定です。

次へ:おわりに
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