フルマラソン参加者とユニバーサルランの参加者が並走する様子。これが当たり前の風景になってほしいと語る山田さん(2024年10月撮影) 誰もがスポーツを楽しめる社会を目指して【後編】-「ユニバーサルラン」から広がるインクルーシブなまちづくり
理学療法士のサポートによって、ランナーの皆さんも安心して楽しめますね。参加者からの声がけやご意見で、参考になったこと、うれしかったことなどはありますか?
山田さん:まずは、勤務先病院の重い障害のある患者さん方が、電動車いすや介助で参加してくださっていることが何よりうれしいです。患者さんたちの「参加してみたい」という思いに応えることができました。
また、ある難病の患者会では、当事者の皆さんがサポーターの方々とともに毎年参加してくださっています。以前関わっていたある難病の患者さんは、一昨年娘さん同伴で、車いすに乗ったまま初参加され、昨年は娘さんに見守られながら歩行器で歩いて参加して2往復完歩され、とても感激しました。また、脳梗塞になられた方からも、ユニバーサルランのエントリーを機にウォーキングするようになった、という声がありました。当日参加するためには、それなりの準備をしてきてくださるので、自発的な身体活動の高まりを刺激できるように思います。
参加者からは「安心して走れました」「こういう種目ができてよかった!」という声をいただくことが多いです。一方で、運営についていただいた様々なご意見は市と共有し、たとえばスタンプカードの導入やコース運営の見直しなど、次につなげています。
今後、ユニバーサルラン種目をどのようにしていきたいですか? 展望などがありましたらお聞かせください。
山田さん:今後も仲間たちと連携し、運営側との対話を継続しながら、誰もが当たり前に参加でき、自発的な身体活動とエンパワメント(※)につながるような「機会」を提供していきます。
以前から障がい者スポーツに関わってきて、“スポーツ参加は社会参加”であると感じてきましたが、障がい者スポーツを振興するだけでは、地域共生につながりにくいことも実感してきました。少子超高齢化の社会では、国民の「スポーツ実施率」向上が重要課題でもあり、地域でも障害や体力の有無に関係なく、誰もが気軽にスポーツを楽しめるような仕組みやきっかけが必要です。
既存の事業でも運営体制を見直し、一定の配慮のもと敷居を下げ、間口を広げ、開けやすい扉にリフォームすることで、これまで縁のなかった人たちにも「する・見る・支える」で参加する「機会」が創出されます。そしてより多様な人たちの自発的な参加や交流を通じた相互理解とエンパワメントにより、また新たな社会参加へとつながっていく、これがユニバーサルランの目指す「スポーツを通じたインクルーシブなまちづくり」ではないかと考えます。こうした“ユニラン文化”の灯をともし続け、地域や社会に浸透化を図る上で、リハビリテーション専門職ならではの発想も活かされるのではないかと思います。
※エンパワメント:社会的に不利な状況に置かれた人々の自己実現を目指し、その人の有するハンディキャップやマイナス面に着目して援助をするのではなく、長所、力、強さに着目して援助すること。サービス利用者が自分の能力や長所に気づき、自分に自信が持てるようになり、ニーズを満たすために主体的に取り組めるようになることを目指す。
フルマラソン参加者とユニバーサルランの参加者が並走する様子。これが当たり前の風景になってほしいと語る山田さん(2024年10月撮影) ※この記事は2026年4月8日時点での情報で作成しています。
※この記事は、以下を参考に作成しています。
身体障害者ケアガイドライン~地域生活を支援するために~(厚生労働省)
おわりに
後編では、ユニバーサルラン種目設立のきっかけや経緯、理学療法士の視点がどう活かされているかなどについてお話しいただきました。
専門職の知見を活かした行政への働きかけをはじめ、コロナ禍の代替イベントを好機に変えるなど、情熱を持って新種目創設を果たした山田さん。約7年間にわたる活動のお話は、大変心を打たれるものでした。これからも山田さんや新潟県理学療法士会の活動を応援させていただきたいと思います。
2026年10月11日に開催予定の第42回新潟シティマラソンは、4月8日よりエントリー受付開始となっています。今年も全ランナーが安全にスポーツを楽しみ、イベントをきっかけにインクルーシブなまちづくりが広がることを期待します。