【前編】労働者のメンタルヘルス~自分で抱え込まず、相談してみませんか?~
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仕事や職業生活の中で不安や悩み、ストレスを感じていませんか。
経済や産業が大きく変化する中、労働者の仕事や職業に関する不安や悩み、ストレスを感じている割合が年々高くなっています。
今回リガクラボでは、企業のストレスチェックの分析支援や、メンタルヘルス休職者の復職(リワーク)支援に携わった経験を持つ川村 有希子さん(理学療法士)に、労働者のメンタルヘルスについて伺いました。
川村さんから解説していただいた内容は、前編と後編の全2回でご紹介します。前編では、労働者のメンタルヘルスの状況やメンタル不調の症状、相談先など、川村さんにお話を伺います。
【特集】労働者のメンタルヘルス
メンタルヘルスの不調 症状を確認してみよう!
労働者のメンタルヘルスケアの重要性は高まっていますが、実際、メンタルヘルスの不調はご本人や周囲でも気付くのが難しいことも多いようです。 メンタルヘルスが不調な際には、どのような症状があるのでしょうか。
川村さん:人によって症状は様々ですが、まず前提として、メンタルヘルスの不調は、必ずしも個人の「心が弱いから」というものではありません。様々な要因から、体のリズムを整える自律神経の不調をきたし、脳内の不安をつかさどる部位が過剰に反応したり、それらの活動を抑制する脳内物質が分泌されにくくなっていたりと、「脳や自律神経がうまく機能しない状況」である可能性も考えられています。例えば、以下のような症状などがあります。
※この画像は、「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」(厚生労働省)を参考にリガクラボにて作成
労働者のメンタルヘルスとは?
メンタルヘルスという言葉は良く耳にしますが、そもそもメンタルヘルスとは何か教えてください。
川村さん:世界保健機関(WHO)の定義では、「メンタルヘルスとは、人が自身の能力を発揮し、日常生活におけるストレスに対処でき、生産的に働くことができ、かつ地域に貢献できるような満たされた状態(a state of well-being)である」と述べています。
また、厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルス不調を「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と定義しています。
労働者のメンタルヘルス不調は、仕事内容や組織風土、人間関係、プライべ―ト等の多様なストレスによって生じ、不調をきたす要因は、人によって様々です。(詳しくは、後編をご覧ください。)
自分だけではなく、職場の環境などもメンタル不調の要因になり得るのですね。労働者のメンタルヘルスケア対策は社会的にも重要度が増していますが、なぜ社会的にもメンタルヘルスケアが大事なのでしょうか。
川村さん:2015年からストレスチェック制度が義務化された背景には、近年うつ病者や自殺者などの精神障害による労災補償請求件数および保証支給決定件数が、右肩上がりで増加してきたことがあります。ストレスチェックが開始される以前は、残念ながら労働者を雇用する事業者側でのメンタルヘルス対策は、あまり多くはありませんでした。国としても、労働者のメンタルヘルス不調は労働災害の大きなリスクファクターであるととらえ、早期段階からの対策の重要性を事業者側にも浸透させる必要性があり、制度が開始されました。
さらに、少子高齢化による労働人口確保が重要となっているという社会背景もあると考えます。一人ひとりがいきいきと働き、高い生産性を発揮して活躍していくことが求められる時代の中で、メンタルヘルス対策は、早急に対処すべき課題の一つであると思います。
※この画像は、「平成30年度『過労死等の労災補償状況』」と「令和4年度『過労死等の労災補償状況』」(厚生労働省)を参考にリガクラボにて作成
現状や制度は?
最近の労働者のメンタルヘルスの現状を教えてください。
川村さん:現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスになっていると感じる事柄がある労働者の割合は82.7%である※1と報告されています。
また、警察庁の自殺統計原票データに基づき厚生労働省が作成した統計情報※2によれば2022年度に勤務問題を原因・動機の一つとする自殺者数は2,968人で、自殺者全体の13.6%にあたります。その原因・動機の詳細別では、以下の順が公表されています。
- 職場の人間関係(26.5%)
- 仕事の疲れ(24.4%)
- 職場環境の変化(19.8%)
- 仕事の失敗(11.8%)
小さな不安や、これまでと違うちょっとした体の不調を感じ始めたら、一人で対処せずにできるだけ早めに相談するなども大切ですね。コロナ禍を機に浸透したテレワークは、働きやすさの改善という利点と共に、職場内のコミュニケーションの過疎化など、悩みを抱えた労働者が孤立してしまう課題も生じさせています。
実際、悩みを抱えている方やメンタル不調の症状例に当てはまっている方は、どのようなところで相談ができるのでしょうか。
川村さん:相談窓口は、様々ありますので自分に合ったものを選択して相談してみましょう。
50名以上の従業員のいる事業場では、産業医が選任されているため、産業医へ相談することが可能です。
会社の方に知られるのが不安という方の場合は、下記のような資源を活用することもオススメです。下記では、電話やSNSでも気軽に相談ができますので、悩みを抱えている方は利用してみてはいかがでしょうか。
上記のサイトは、相談窓口だけでなく、職場のストレスや疲労蓄積度が簡易的にセルフチェックできるコンテンツも公開しています。現在、あまりメンタルヘルスの問題を感じていない方でも活用できるので、定期的にチェックし、ご自身の変化の把握やメンタル不調の予防に繋げてほしいです。
気軽に相談できるのは良いですね。50人未満の中小企業で働かれている場合は、ストレスチェックの制度や産業医、産業カウンセラーがいない場合もあるのですか。
川村さん:はい。50人未満の中小企業は、ストレスチェックの実施や産業医の配置などが任意となっているため、配置されていない場合もあります。そのような場合でも、個人向けのカウンセリングサービスや心療内科等の医療機関での相談が利用できることを知っておくとよいでしょう。日本ではあまり浸透していませんが、アメリカでは労働者自身が自分を守り適切にメンタルヘルスマネジメントを行うために、気軽にカウンセラーを利用する風土が浸透しています。
また、最近ではスマートウォッチで心拍変動などを活用したストレスモニタリングやセルフメンタルヘルス対策(瞑想や認知行動療法、ジャーナリング等)を行えるアプリなどがありますので、それらを活用し、日頃からご自身のメンタルの状態と客観的に向き合っておくのも、一つの方法だと思います。
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