【前編】労働者のメンタルヘルス~自分で抱え込まず、相談してみませんか?~
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ストレスチェック制度とは?
川村さん:50人以上の事業所で義務となっているストレスチェック制度は、労働者のメンタル不調を未然に防止することを目的に2015年に施行された制度です。労働者のストレス状況について検査を行い、ご自身のストレス状況の気付きや職場環境の改善にも役立つことができます。
ストレスチェック制度で「高ストレス者(回答した評価点数の合計が高い者や基準の要件に満たす人)」に該当した従業員には、事業場が何らかの対策をとることが推奨されています。
職場環境がストレスのもととなっている場合、ストレスチェックに正直に答えにくいのではないでしょうか。
川村さん:この制度は、あくまでも「労働者を守ること」に主眼が置かれた制度となっており、回答する従業員への不利益となる対応は禁止されています。例えば、事業場内で従業員の結果を取り扱うことが許可されている担当者(産業医・産業保健師等の実施者と、それらをサポートする実施事務従事者)以外は、基本的に本人の同意なく個々の結果を確認することが禁止されています。
また、実施事務従事者となる職員は人事権を持たない職員であることが義務付けられており、かつその職員が誰であるかは、原則、従業員に公開することとされています。
安心して回答しましょう。
ストレスチェック制度では、プライバシーを守られつつ、ご自身のメンタルヘルスの状況を把握することができるのですね。
川村さん:そうですね。プライバシーが守られる一方で、上司や人事部は、本人からの結果共有への同意がないと誰が高ストレスの対象者であるかが不明のため、対策を行いづらい現状もあります。
※この画像は「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の概要」(厚生労働省)の資料を参考にリガクラボにて作成
そのため、高ストレス者として事業場が用意した対策を受けたい場合は、自ら「自身が高ストレス者であること」を事業場に対し開示することへ同意する必要が多くあります。
ただし、ストレスチェック制度では、これらの結果を給与や昇進といった人事考課等へ活用することや従業員が不利益を被る対応を行うことは、事業場に対し禁止されています。
「ご自身が高ストレス者であることを開示することでキャリアに影響が出てしまうのではないか?」と感じられる場合もあるかもしれませんが、その点が守られていることを知っていただいた上で、ご自身の考えに沿う場合には、事業場が用意した対策を選択肢の一つとして活用することも良いのではないかと思います。
川村さんからのメッセージ
本記事を通して、メンタルヘルスの不調に気付くことの大切さや身近に相談先がある事を知った方も多いのではないでしょうか。今、メンタルヘルスの悩みを抱えている人に対して、川村さんからのメッセージをお願いいたします。
川村さん:冒頭でも述べたように、メンタルヘルス不調は、必ずしも個人の「心が弱いから」というものではなく、様々なストレスによって、脳および自律神経等の人体などへの作用が起き、そのような症状が表れている状態と考えられます。つまり、「気持ちの問題」だけでコントロールできないことも多いということです。
「ストレス」は、「自身の心や体への刺激」であり、良いストレスも悪いストレスもあるということも知っていただきたいです。実は「誕生日」や「結婚」といった、一般的には良いものとされるようなイベントでさえも、ストレスに繋がることがあること※3が分かっています。様々な要因が複雑に絡まり、たまたま自分では分からないところでストレスを感じている場合もありえます。
決して自分で抱え込まず、自己判断せず、早めに他者や専門家に相談をしてみてください。
※この記事は、2024年10月9日時点での情報で作成しています。
以下を参考に作成しています。
※1 「令和5年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」(厚生労働省)
※2 「令和4年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(厚生労働省)
※3 Thomas H. Holmes, et al: The social readjustment rating scale. Journal of Psychosomatic Research. 213-218, 1967.
おわりに
前編では、理学療法士としてヘルスケア領域を専門とされている川村さんに労働者のメンタルヘルスの概要や相談先、制度などを詳しくご紹介いただきました。
「メンタルヘルスの不調は、必ずしも個人の『心が弱いから』ではない」という言葉が印象的でした。
今回の記事をきっかけに、症状が当てはまる方や少し調子が良くないなと思う方は、他者や専門家に相談してみませんか。
後編となる次回は、セルフケアを中心にご紹介します。自律神経を整え、不安を感じやすい脳内神経伝達物質の分泌を抑制する身体活動や運動の効果に関して、川村さんにご紹介いただきます。お楽しみに。
PROFILE
川村 有希子(かわむら ゆきこ)
日本産業理学療法研究会 副理事長
大学病院等にて理学療法士臨床および大学研究機関出向を経験後、複数企業・団体を経て、企業の健康経営支援や復職支援に携わる。2020年~(独)労働者健康安全機構神奈川産業保健総合支援センターにて、企業へのゼロ災対策支援事業を運営。
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