【後編】労働者のメンタルヘルス~今日から実践!セルフケア~

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労働者のメンタルヘルスケア対策は、近年、社会的にも重要性が増しています。
前編では、労働者のメンタルヘルス不調の症状例や相談先、会社のストレスチェック制度の仕組みなどを紹介しました。
後編である今回は、ストレスが起こる生理的メカニズムや自分でできるセルフケア、ポイント、注意点などを理学療法士の川村さんに伺います。

なぜ、メンタルヘルス不調が起こるの?

労働者のメンタルヘルス不調は、職場の人間関係や環境が主な原因なのでしょうか。

職業性ストレスによるメンタルヘルス不調は、職場の人間関係や環境だけが原因となるわけではなく、実は、個人的要因(年齢や性別、性格など)や仕事以外の要因(家庭や家族の要求)など、様々な要因が複雑に絡まってメンタルヘルス不調に繋がっているケースもあります。

※この画像は、「米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)職業性ストレスモデル」を参考にリガクラボにて改変

ある日突然、疾病(うつ病や不安障害など)が起こるのではなく、それよりも前に身体化症状や睡眠障害などの症状が表れていることもあります。メンタルヘルス不調の症状として、気分の症状や胃腸の不調などはすぐに思いつきやすいですが、他にも、以下のような症状もあります。

  • やる気が出ない、イライラする、不安に駆られるなどのうつ症状(気分の症状)
  • ぐっすり眠れない、何度も夜中に起きてしまう、朝起きられないなどの睡眠障害
  • 胃腸の調子が悪い、肩こりや片頭痛、なんだか疲れやすいといった身体化症状

疾病になる前に日頃からご自身の心や体を客観的に捉えて観察しておくことが大切です。

自分の心や体を客観的に確認するには、どうすれば良いのでしょうか。

例えば、以下のようなチェックリストを日頃から使い、変化を観察していただく方法があります。1~8までの項目を答えていただき、選んだ項目の数字を全て合計することで今の身体症状による負担がどの程度なのか見ることができます。

出典:以下の論文を参考にリガクラボにて作成
Gierk B, et al: The somatic symptom scale‒8(SSS‒8): A brief measure of somatic symptom burden. JAMA Intern Med 174: 399‒407, 2014
松平浩, ほか: 日本語版Somatic Symptom Scale‒8(SSS‒8[身体症状スケール])の開発. Jpn J Psychosom Med 56: 931-927, 2016

メンタルヘルス不調は、心が弱いから!?

メンタルヘルス不調は、必ずしも個人の「心が弱いから」という訳ではないと前編でお話されていましたが、どのようなメカニズムでメンタルヘルス不調が起こっているのでしょうか。

最近の研究では、メンタルヘルス不調には脳の器官や機能などが関連していることが明らかになっています。そのため、ヘルスケア分野では、個々の「気持ち(心)」だけが問題ではなく、様々な要因が脳機能に対して、どのような状態に作用しているのかという観点で検討、研究されています。要因としては、脳内の炎症や、遺伝子、ウイルスとの関連なども最近は研究が進んでいます。

近年考えられているメンタルヘルスの要因例

例えば、脳の器官の一部である「偏桃体」は、不安や恐怖などの情動に関わる部位であると言われています。ストレスを受けることにより偏桃体が作用すると、交感神経(自律神経の一部)の活動を活性化し、「恐怖」や「驚き」と関連するとされる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンなどの分泌が促されます。交感神経の活動により、心拍数や血圧の上昇などが起こり、体は緊張感が高まった状態になります。強いストレスを受ける機会が多い生活では、常に緊張した状態が続き、リラックスしづらい状態になっている可能性があります。

また、神経伝達物質であるセロトニンは、メンタルヘルスと重要な関係性を持っている「幸せホルモン」と考えられています。セロトニンはノルアドレナリンなどの分泌を制御する作用があり、交感神経と副交感神経(自律神経の一部)の活動を適切なバランスで調整し、精神を安定させると考えられています。セロトニンが低下すると、攻撃性が高まったり、不安やうつなどの精神症状を引き起こしたりするといわれています。

メンタルヘルス不調には、様々な要因が関係しているのですね。その他に、身体化症状(眠れない、背中や腰の痛み、関節の痛み等)もあるとのことですが、なぜそれらの症状が現れるのでしょうか。

身体化症状には、先ほど話した神経伝達物質も関係しています。セロトニンは、睡眠とも関連が強く、睡眠を促すホルモンのメラトニンの材料にもなっています。そのため、セロトニンの分泌が不足することで、眠れないなどの症状にも繋がります。

また、「痛い」と感じさせる神経伝達物質を抑制する作用もあると考えられています。背中や腰、関節の痛みは、一見メンタルヘルス不調と関係がなさそうに見えますが、実はメンタルヘルス不調に気付く大事な症状です。

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メンタルヘルス不調に対するセルフケア
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