- 骨盤底筋群トレーニング
ママの身体と心のガイド【第1回】妊娠中の身体はどう変わる?
妊娠中に尿失禁・便失禁が起きやすい原因について教えてください。
お股トラブルも、ホルモンによる影響と姿勢による影響が強いです。それに加えて、骨盤底筋群への負荷や腹圧の関係性が加わってきます。
ホルモンによる影響では、前述したリラキシンの影響で骨盤底を支える靭帯・結合組織が柔らかくなり、尿道や肛門を支えにくくなることと、プロゲステロンという女性ホルモンの作用で、内尿道括約筋や内肛門括約筋(自分ではコントロールできない種類の筋肉)の収縮力が低下すると考えられています。
姿勢の変化では、子宮が大きくなることで横隔膜が押し上げられ、腹圧のコントロールができなくなったり、重さで骨盤底筋群に負荷がかかることがあります。また、膀胱や直腸が物理的に圧迫されやすくなるので、尿意や便意時のコントロールが難しくなることも原因として挙げられます。
実際に尿失禁・便失禁が起きている場合、どのような対策をとるのがよいでしょうか。
実際に起きている場合には、原因を減らすように日常生活上での工夫をしたり、骨盤底筋群を守る運動をしましょう。
尿道や肛門括約筋の支持力を高め、尿もれを防ぐようになります。素早く動かす練習と5~10秒締める練習をしましょう。
- 姿勢の工夫
長時間の立位や、片足立ちで靴下や下着を履く動作はやめましょう。しゃがんだり何かを持ち上げる時には股関節を意識して背中はまっすぐにしましょう。
- 尿意や便意
我慢せずに早めにトイレへ行きましょう。
- 腹圧のコントロール
咳やくしゃみが出る時には、骨盤を少し前傾させる姿勢(骨盤前傾位)にして、骨盤底を先に締めるよう意識しましょう。また、物を持つ時や動作時には息を止めずに吐きながら行いましょう。
- 生活習慣の改善
排便を正しい姿勢で行う、長時間トイレ座位を避けるなど、骨盤底筋群への負荷を減らしましょう。できれば便秘も続かない方が良いですね。
尿もれや便もれが悪化したり痛みを伴ったり、血液が混ざる場合には速やかにかかりつけの産婦人科を受診しましょう。
尿失禁・便失禁が起きないように、どのような予防ができるでしょうか。
症状を予防するには、妊娠中から骨盤底筋群を守り、自分で鍛えながら日常生活上での工夫をしていくことが大切です。症状が出ていなくても、前述した内容を行うことで予防につながります。特に骨盤底筋群のトラブルは腹圧との関連性もあるため、呼吸のコントロールが大切です。起きたり立ち上がったりするときには息を吐きながら行うことで、骨盤底筋群への圧力を避けることができます。物を持つ時には特に必要です。妊娠中は息を止めたり、こらえたりしながら動作を行うことは避けましょう。なので、便秘は避けたい症状でもあります。
また、急激な体重増加は骨盤底への負荷にもなるので、適切な体重コントロールも心がけると良いですね。
妊娠中の女性へのメッセージをお願いします。
妊娠中はホルモンの影響による変化が出やすいことに加えて、身体的変化が出てきます。お腹が少しずつ大きくなることはとても嬉しいことでもありますが、ボディイメージが崩れ不安になったり、身体が重くてしんどい気持ちになることがあるかもしれません。痛みが生じるとなおさらです。
身体がしんどいと心にも影響が出やすくなるので、簡単な運動を継続してリフレッシュしたり、時にはお友達とたくさんおしゃべりして気晴らしすることもとても大切です。その時のスイーツは許してしまいましょう(笑)。
腰部痛などの筋骨格系の痛みは予防が一番です。姿勢を少し気をつけるだけで和らぐこともあるので、意識して生活してみてくださいね。限られた妊娠期を快適に過ごすために、無理のない範囲でできる工夫を取り入れてみましょう。
産婦人科の母親学級で、産前の女性に向け講師を担当する佐々木さん
訪問リハビリテーションにて、姿勢分析を行う佐々木さん 終わりに
第1回では、妊娠中の骨盤まわりの痛みや尿失禁などの不調についてお話を伺いました。それぞれの原因に応じた適切な対処が必要であること、そして予防の大切さを改めて知ることができました。
第2回も引き続き、妊娠中に起こりやすい様々な不調について原因や対処法、予防法を佐々木先生にご紹介いただきます。お楽しみに。
PROFILE
佐々木 聡子(ささき さとこ)理学療法士
専門分野:ウィメンズヘルス
2000年に理学療法士免許取得後、総合病院でICUや急性期/回復期病棟に従事。自身が産後トラブルを経験し、産後女性の健康や環境について興味を持つ。2011年から佐々木産婦人科で妊婦教室を担当、現在も産前産後のリハ外来や出産後の全褥婦の身体ケアを行っている。2019年から勤務している訪問看護ステーションかがやきでは、産後ケア事業部を立ち上げ、医療保険/自費で産前産後の女性のケアを看護師・助産師とチームで実施している。助産師向けの研修会講師や地域の各教室、TV取材に多数対応。健康増進・参加認定理学療法士、pfilAtesTM(骨盤底筋エクササイズ)インストラクター、経営学修士(MBA)を保有。
株式会社Shine 産後ケア
佐々木産婦人科