ママの身体と心のガイド【第3回】出産後の身体は時間とともにどう変わる?

タイトルとURLをコピーしました。

産直後に恥骨痛・仙腸関節痛・尾骨痛が起きる原因について教えてください。

これらの痛みはそれぞれ、骨盤支持組織の緩みと分娩時の器械的負荷が関わっています。

➀恥骨痛

ホルモン(リラキシン)の影響で恥骨結合周囲の靭帯と、恥骨結合という左右の恥骨を結んでいる軟骨組織が緩みます。分娩時、赤ちゃんの頭が産道を通る際に恥骨結合が過度に伸ばされ、微細な損傷を受けるとされています。このため、動作時に左右の恥骨部分が過度に動きやすく、痛みが生じやすいです。

➁仙腸関節痛

同じようにリラキシンの影響で仙腸関節周囲の靭帯は緩んでいます。分娩時、胎児の通過により骨盤輪(骨盤を構成する骨が、仙腸関節と恥骨結合で連結された輪状の構造)が広がり、仙腸関節に剪断力・回旋ストレスが加わるため疼痛が起きやすいです。出産後も関節の支持性が低いため、立ち上がり・片脚荷重での痛みが起こりやすいです。

➂尾骨痛

分娩時に赤ちゃんの頭が骨盤出口を通過する際、尾骨が後方に強く圧迫・過伸展されます。その際に尾骨靭帯・筋の付着部(肛門挙筋など)が引き伸ばされ損傷することもあり、痛みの原因の一つになっています。産後は授乳・抱っこによる座位時間が増えるため、尾骨への直接圧迫で痛みが持続しやすい環境にもなりがちです。
結局は、分娩時に主にどの関節に負荷がかかったかで症状が分かれます。

実際に痛みが生じている場合、どのような対策をとるとよいでしょうか。

➀恥骨痛に対して

骨盤ベルトを用いて、恥骨結合を中心に仙腸関節も含めて安定させましょう。ベルトは後ろから前に向かって巻くと効果的です。
起き上がりや寝返りの際に特に恥骨が動きやすくなるので、太ももの間にクッションを挟んでから動作すると安定します。恥骨部分までしっかりと挟みましょう。左右の脚は同時に動かすようにして、バラバラな動きは避けましょう。恥骨が痛いと股関節の内側に過度に力が入ることもあるので、太もも内側の筋肉を軽めにマッサージすると良いでしょう。起き上がれないほどの痛みがあるときは、恥骨結合離開が考えられるので、整形外科を受診してより安静にする必要性があります。

➁仙腸関節痛に対して

同じように骨盤ベルトを用いて安定性を高めましょう。前から後ろに向かって巻くと良い場合が多いです。日常生活上では、座位の際に左右の座骨に均等に体重をのせて座りましょう。バスタオルを逆三角に折り曲げてお尻の下にひくと良いでしょう。授乳クッションをもちいて、過度に前傾姿勢にならないように気を付けましょう。

➂尾骨痛

座位姿勢に気を付けましょう。U字クッションを用いて、尾骨への直接圧迫を避けましょう。バスタオルでU字を作って座るのも効果的です。座位での授乳が痛くてきつい際には添い寝での授乳も考えると良いでしょう。

恥骨痛・仙腸関節痛・尾骨痛が起きないように、どのような予防ができるでしょうか。

出産直後のこの時期は、不安定さが特に目立っている状況です。これらの疼痛を予防するには、

➀骨盤を安定させる

動作を行う際には息を吐きながら行い、体の奥にあるインナーマッスル(腹横筋や多裂筋)を意識して骨盤を安定させましょう。すぐに家事復帰など動かないといけない環境の場合には骨盤ベルトを巻いて家事を行いましょう。

➁正しい姿勢・動作を意識する

左右の脚の位置に気を付けましょう。お姉さん座り(床に足を斜めにして座る)や端坐位(椅子に座る姿勢)の際の足組はやめましょう。大股歩きや片脚支持位(下着を穿く、靴下を履く際)は避けましょう。

➂負担を分散させる

長時間の同じ姿勢は避け、姿勢変化を取りましょう。

出産直後に尿もれや逆に尿が出にくくなる方がいると述べられていますが、実際に起きたらどのようにすればよいのでしょうか?

出産直後に尿もれや尿が出にくくなるのは、解剖学的・神経的要因が強い時期のためのものです。

➀尿閉に関して

分娩で赤ちゃんの頭が産道を通過する際、膀胱や尿道周囲が圧迫され、むくみや一時的な機能障害が起こりやすくなります。分娩時に骨盤神経を圧迫することもあり、一時的に排尿反射にかかわる神経の伝達が鈍くなることがあります。また、会陰部の痛みや腫れ、分娩時の疲労や羞恥心など心理的要因で排尿反射が抑制されることもあります。

尿閉は、出産直後の入院中に多く、退院時には回復することがほとんどです。排尿の回数が少ないと、膀胱がより広がってしまい収縮力が低下することもあるので、尿意が感じにくくても3~4時間に一回はトイレに行きましょう。完全に尿意がない場合には必要に応じて導尿(細い管を使って尿を出す医療処置)が行われます。

➁尿もれ

こちらは分娩時の骨盤底筋群の影響が強く関与しています。分娩時の会陰切開や会陰裂傷による部分損傷が原因となり、骨盤底筋群が十分に収縮・閉鎖できなくなることがあります。また、分娩時の神経圧迫により、膀胱や尿道の感覚・運動が低下し、排尿制御が不安定になりやすい環境です。

対策として、尿は溜め込みすぎず、時間をみてトイレに行くようにしましょう。ゆっくりと、深い呼吸(腹式呼吸)をしながら、軽く骨盤底筋を締める運動を早期から行いましょう。神経圧迫による影響であれば1カ月健診時には落ち着いていることがほとんどです。その頃にまだ尿もれが継続しているようであれば、理学療法士と一緒に骨盤底筋群の機能回復を行っていきましょう。

前へ:
分娩時から時間の経過に伴う身体のトラブル
次へ:
産直後の女性へのメッセージ