ママの身体と心のガイド【第4回】育児期に現れる身体トラブルとそのケア
-
1
2
産前・産後の女性の心身に起こる変化や不調とその対策について紹介する本シリーズ。
第3回では、出産直後に現れやすい心身の不調について詳しくお伝えしました。
今回は、産後数週間から数か月にかけて起こる心身の変化に焦点を当てます。出産による身体的ダメージの回復が進む一方で、慣れない育児やホルモンバランスの変動、睡眠不足などが重なり、身体的・精神的な負担が増す時期です。
この期間に多く見られる症状やトラブルの特徴や予防策について、前回に引き続き理学療法士の佐々木さんに具体的にご紹介いただきます。
産後数週間から数月間で起こるトラブルにはどのようなものがあるでしょうか。
産後4〜6週を過ぎると、妊娠・出産でゆるんでいた靭帯の支持性が回復し始め、分娩に関する身体のトラブルは軽減していきます。しかし家事や育児が本格化し、身体の使い方による新たな不調が現れやすくなります。
代表的なのが腱鞘炎です。赤ちゃんの体重が増え、抱っこや授乳時に手首や親指を酷使することで、炎症が起き痛みを伴うようになります。腰痛や肩こりも多く、授乳時の前かがみ姿勢や抱っこ時の片側抱きなどにより筋肉の緊張や姿勢の崩れを招きやすくなります。また、赤ちゃんの成長・発達に伴い、お母さんの育児に関する動作も変化します。例えば、赤ちゃんの成長に伴い床からの立ち上がり動作が増えると、膝関節痛を訴える方も少なくありません。妊娠中に引き伸ばされた腹筋群や一部の筋力低下が完全に回復していない段階でもあることにも影響を受けます。骨盤底筋が十分に回復していないと尿もれが続くことがあります。睡眠不足やホルモン変化、孤独感が重なると産後うつのリスクも高まります。
見た目は元気でも身体はまだ回復途中です。自分の身体を振り返る余裕はまだまだないかもしれませんが、お母さんの身体も大切です。無理をせず、必要に応じて理学療法士など専門家に相談しましょう。
産後に腱鞘炎を発症しやすい原因について教えてください。
産後は、赤ちゃんの抱っこや授乳、沐浴などで手首や親指を繰り返し使う機会が増えます。特に親指の付け根を動かす腱(筋肉と骨のつなぎ目)に大きな負担がかかり、炎症が起こりやすくなります。手首を強く曲げた姿勢のまま赤ちゃんを支えると、腱とその通り道である腱鞘の間に摩擦が生じ、痛みが出やすくなります。特に出産前後はホルモンの影響で水分がこの周囲にも溜まりやすくなっており、滑りが悪くなる傾向にもあります。手首の位置を確認してみてください。90度に曲げて力が入っていませんか?赤ちゃんの首が座らない頃は不安定で力が入りがちです。靭帯のゆるみは回復傾向ですが、手首のみに過剰に力が入り、一部分の繰り返し動作が重なることで、腱鞘炎が起こりやすい状態になるのです。
授乳や抱っこが欠かせない中で、痛みを軽減しながら生活する方法はありますか?
授乳や抱っこは、赤ちゃんとの大切な時間ですが、手首や肩、腰などに負担がかかりやすい動作でもあります。まず意識したいのは姿勢です。背中を丸めず、できるだけまっすぐに保ちましょう。椅子や床に座る際は、両方の座骨(座った時に座面に当たる骨)を感じながら体重を支えることで骨盤が立ち、腰や仙腸関節への負担が軽減します。柔らかいソファでは体が沈み込むため、クッションや座布団を挟んで安定した座面をつくることが大切です。
また、授乳クッションを使うと腕や手首の負担が減ります。授乳クッションが無い場合は座布団などでも大丈夫です。手首を強く曲げず、赤ちゃんの体を自分の方に引き寄せるように抱くのがポイントです。抱っこの際は、できれば、頭の位置を左右交互に変え、片側ばかりで抱かないようにしましょう。スリングや抱っこ紐を使うと腕や背中の負担を分散できます。腰痛がある場合は片足を少し前に出して骨盤を立てる姿勢を意識すると安定します。全般的に長時間同じ姿勢を続けず、合間にストレッチや肩回しを行うことで血流が促され、疲労や痛みの軽減につながります。
産後に腱鞘炎が起きないように、どのような予防ができるでしょうか。
抱っこの時、手首の位置を確認してみましょう。極度に手首を内側に曲げていませんか?なるべく肘関節側に赤ちゃんの頭を置いて、両肘関節は自分の体側に近づけるようにしましょう。手関節は「添えるだけ」のイメージで、抱っこした時に誰かと「じゃんけん」ができるくらいリラックスできていると良いでしょう。赤ちゃんを自分の体に近づけるように支えることが大切です。
母乳の場合、赤ちゃんの向きを左右入れ替える時の手首の向き・角度も気を付けましょう。また、手首や肩関節に力が入りすぎてしまう場合が多いです。前回説明した腹部の力を意識して、腹式呼吸をしてインナーユニット(腹部筋)を働かせるイメージで、息を吐きながら動作を行いましょう。
また、家事や育児の合間には、手首や指を軽く伸ばすストレッチを取り入れ、血流を保つことも有効です。痛みを感じたら無理をせず、早めに整形外科や理学療法士へ相談し、手の使い方や生活動作を一緒に見直すことが、長引かせないための第一歩です。
-
1
2