ママの身体と心のガイド【第4回】育児期に現れる身体トラブルとそのケア

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産後数週間から数か月間、腰痛が起きる原因について教えてください。

産後の腰痛は、育児や家事などの日常動作での姿勢や体の使い方が大きく関係します。産後2ヵ月程度すればホルモンの影響による靭帯のゆるみは落ち着いてきますが、腹部筋の回復はまだ途中の方が多いです。妊娠中の身体の使い方が残り、お腹に力が入らず、背中から腰にかけて力が入りやすい環境です。赤ちゃんを抱き上げたり授乳したりする際、背中を丸めて前かがみになる姿勢が続くと、腰や背中の筋肉が常に緊張し、疲労が蓄積します。また、床や低い位置にいる赤ちゃんを抱え上げる際に過度に腰を折り曲げていると、重力の影響で腰に特に負担が増えます。これらの影響で腰部痛が起きる事があります。

実際に腰痛が起きている場合、どのような対策をとるのがよいでしょうか。

産後の腰痛があるときは、まず無理をせず休むことが大切です。痛みを我慢して家事や育児を続けると、筋肉の緊張が強まり回復が遅れてしまいます。動作のたびに痛みを感じる場合は、一時的に骨盤ベルト等を使い、腰を安定させるのも有効です。腹部の筋肉が十分に使えないと腰に負担が集中するため、腹式呼吸を用いて軽く息を吐きながら動作をすることで、腹筋に力が入りやすくなり、腰の筋肉の緊張が和らぎやすくなります。入浴後の身体が温まった時に、腰部のストレッチを行うこともおすすめです。

まれではありますが、「妊娠授乳期関連骨粗鬆症」といって背骨に圧迫骨折が生じていることもありますので、寝返りもできない・起き上がり動作できないような強い痛みを生じたら、すぐに整形外科へ受診しましょう。

産後の腰痛が起きないように、どのような予防ができるでしょうか。

先に述べたように、育児動作中の姿勢や動作を見直すことが予防につながります。赤ちゃんを抱き上げるときは、腰を曲げずに膝を曲げてしゃがみ、体に引き寄せるように持ち上げましょう。片腕や片側の腰に偏った抱っこは、筋肉のアンバランスを生むため、左右交互に使うことを心がけます。授乳の際は、背中を丸めずに背もたれを使い、赤ちゃんを自分に近づける姿勢を意識しましょう。

腹筋運動やストレッチが大切だと分かっていても、実際はなかなか時間が取れないものです。抱っこ中や調理などの立位の際は「臍(へそ)の位置を確認する」、「歯磨きしながら骨盤底筋群を引き締めてみる」などの、【~ながら運動】を心がけてみましょう。抱っこ中の軽めのスクワットも良いでしょう。

産後の女性へのメッセージをお願いします。

育児や家事に追われる毎日の中で、身体も心も休む間がない方が多いと思います。赤ちゃんの成長は嬉しい反面、自分の体のことは後回しになりがちです。ですが、お母さんの体調もとても大切です。肩こりや腰痛、疲れを「仕方ない」と我慢せず、少しの時間でも自分の身体を振り返る時間を持ってみてください。深呼吸をする、姿勢を整える、それだけでも十分です。家にいるとすべきことに追われてしまいますが、家事は完璧を目指すより「ま、いっか」と手を抜いて過ごすことも大切です(笑)。疲れたらご飯は宅配を頼むのも全く問題ないですよ。赤ちゃんとの今しかない生活を楽しめるように、お母さんの身体も大切に過ごしてくださいね。

訪問リハビリテーションにて、動作指導を行う様子
赤ちゃんを抱っこする際の姿勢指導をする佐々木さんと利用者さん

おわりに

今回は、出産後数週間から数か月にかけて起こりやすい身体の不調について、その原因や特徴、対処法や予防法を中心にご紹介いただきました。育児が始まると、どうしても赤ちゃん優先の生活になりがちですが、お母さん自身の身体の回復にも目を向けることが大切ということがわかりました。日々の中でできるちょっとした工夫やセルフケアを通して、ご自身の心や身体にも目を向けてみてください。
次回は、産後に起こりやすいメンタルの変化や、パートナーやご家族の心身のサポートについてご紹介いただきます。どうぞお楽しみに。

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産後数週間から数月間で起こるトラブル

PROFILE

佐々木 聡子(ささき さとこ)理学療法士

佐々木 聡子(ささき さとこ)理学療法士

専門分野:ウィメンズヘルス

2000年に理学療法士免許取得後、総合病院でICUや急性期/回復期病棟に従事。自身が産後トラブルを経験し、産後女性の健康や環境について興味を持つ。2011年から佐々木産婦人科で妊婦教室を担当、現在も産前産後のリハ外来や出産後の全褥婦の身体ケアを行っている。2019年から勤務している訪問看護ステーションかがやきでは、産後ケア事業部を立ち上げ、医療保険/自費で産前産後の女性のケアを看護師・助産師とチームで実施している。助産師向けの研修会講師や地域の各教室、TV取材に多数対応。健康増進・参加認定理学療法士、pfilAtesTM(骨盤底筋エクササイズ)インストラクター、経営学修士(MBA)を保有。