ママの身体と心のガイド【第5回】産後の心の不調とパートナーにおける変化
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産前・産後の女性の心身に起こる変化や不調とその対策について紹介する本シリーズ。
第4回では、産後数週間から数か月にかけて起こる心身の変化について詳しくお伝えしました。出産後は身体の変化とともに心の不調も現れやすくなります。
今回は、産後うつの原因や予防法、そしてパートナーやご家族の心身の変化について、前回に引き続き理学療法士の佐々木さんにわかりやすく解説していただきます。様々な要因が重なることで、「産後うつ」になるリスクは高まります。ひとりで抱え込まず、周囲のサポートを得ながら毎日を送るためのポイントをお伝えします。
第4回で身体的な症状のほかに心理面の症状(産後うつ)が出ることもあると伺いました。産後うつになりやすい原因について教えてください。
出産後はホルモン変動や睡眠不足、育児への不安など、心にも変化が生じやすくなります。出産直後はエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンが急激に低下し、気分の落ち込みや涙もろさを感じやすくなります。これはマタニティブルーズと呼ばれ、出産後の多くの女性に見られる一時的な反応です。この後は徐々にホルモンは安定してきますが、夜間授乳などによる睡眠不足や孤立感、育児への責任感が重なって、育児中は思っている以上に気持ちの上下があり、不安定になりやすいです。身体の痛みや疲労も心理面に影響します。こうした状態が続くと産後うつへと進行することがあります。「ホルモンの乱れ」と「生活環境の変化」が重なる時期(産後1〜3か月)は特に注意が必要といわれています。
出典:「病気がみえる Vol.10 産科 第2版」309ページの図表を改変(株式会社メディックメディア, 2009)
産後、自分で不安に思うことが増えたり、しんどさを感じる時はどうしたら良いですか?
不安が大きくなって涙もろくなったり、急に気分が落ち込む時は「頑張らなきゃ」と無理をせず、まずは休むことを優先しましょう。家事や育児を一人で抱え込まず、家族や友人、専門家である助産師・保健師などに気持ちを話してみてください。話すだけで心が落ち着く場合もあります。赤ちゃんと離れて自分の好きなことをしてみるのも良いでしょう。私は第一子の育児中に、思うように動けない自分にイライラし、帰宅後の夫に娘を任せてコンビニへ立ち読みをしに行き、一人時間を取った経験があります(笑)。今となれば何てことない行動ですが、育児に必死だった当時は、それだけでも心が落ち着く「ひとり時間」でした。
産後うつとならないように、どのような予防ができるでしょうか。
産後うつを防ぐには、心と身体の両面を見ることが大切といわれています。運動を行うと、セロトニンやエンドルフィンといった「幸福ホルモン」が分泌されます。これらは気分の安定や意欲の維持に関与しており、うつ症状の予防や軽減に影響していることが分かっています。
産後は軽いストレッチや呼吸運動で体を整えることで、心の安定に効果的ともいわれています。ベビーカーを使用して赤ちゃんやパートナーと一緒に散歩することも良いでしょう。運動が苦手な方でも、外の空気に触れて、近所を散歩するだけでも大丈夫です。
また前項でも述べたように、「話すこと」も大切です。家族や友人とおしゃべりをしたり、パートナーに楽しかったことやしんどかったことも含めて話してみると良いでしょう。
出産を機に、パートナーやご家族の心身にはどのような変化が起きる可能性がありますか?
出産はお母さんだけでなく、パートナーや家族にとって大きな転機です。生活リズムや役割が一変し、喜びの中にも心身の負担が生じやすくなります。特にパートナーは、仕事との両立、家族を支えなければという責任感から、睡眠不足やストレスを抱えやすくなります。実際に出産後3〜6か月の男性の約1割が抑うつ傾向を示しているといわれています。1)また、祖父母など支援する家族も、慣れない環境や世代間の価値観の違いから疲れを感じることがあります。
1)Tokumitsu K., Sugawara N., Maruo K., Suzuki T., Yasui-Furukori N., & Shimoda K. (2020). 日本人男性における周産期うつの有病率:メタアナリシス.
https://doi.org/10.1186/s12991-020-00316-0
パートナーやご家族が心身の不調を感じているとき、家庭内でできる対処法はありますか?
「気分が落ち込む」「理由も分からず涙が出る」「眠れない」「食欲がない」などの状態が2週間以上続くときは、ホルモン変動や一時的疲労を超えたうつ状態の可能性があります。早めに相談をしましょう。まずは産婦人科や助産師、地域の保健師が身近な窓口です。最近では各市町村で「産後ケア事業」が展開されています。産後のレスパイトケアとも言われ、休養だけでなく、授乳支援や身体や心の相談も受けられます。また、地域で産後の体操教室やヨガ教室など、気軽に身体を動かせる場も増えてきました。身体を整えることは気分の安定にもつながります。無理をせず、専門家や地域のサポートを上手に活用していきましょう。パートナーの笑顔は見られていますか?「笑顔の有無」が一番簡単に確認できる心のサインかもしれません。これはお母さん自身のみならず、お父さん(ご主人)も同様です。お互いの笑顔を確認することも大切ですね。
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