ママの身体と心のガイド【番外編】 産後ケアの現場を取材してきました!
理学療法士にインタビュー
まずは、産後ケアを実施した理学療法士の山﨑愛美さんにお話を伺いました。
この事業ではどのような内容を担当されていますか。
めぐみ助産院では、横浜市産後母子ケア事業を利用してデイサービスとして日帰りで来院される方と、ショートステイとして宿泊される方がいらっしゃいます。これらの方々から希望があった場合、もしくは助産師さんから理学療法士によるケアを受けてもらったほうがよいのではないかとお話があった場合で、なおかつご本人が希望された際に、自費ケアとしての介入をおこなっています。横浜市の産後ケア事業では、産後に心身の不調がある方や育児に不安がある方が対象となるため、ご本人の希望に合わせてケアや日常生活の動作指導、運動指導をおこなうように意識しています。
理学療法士が産後ケア事業に関わることの価値や可能性を、どのように感じていますか。
産後ケアというと、一般的にメンタルヘルスやレスパイトが強調されがちですが、理学療法士としては、レスパイトはもちろんのこと、お母さんの身体の回復や育児を円滑に行うためのリカバリー支援も重要と考えています。さらに、産後ケアの中でも、能動的にお母さんが健康行動をとるきっかけになるような関わりの仕方ができると良いなと思っています。
産後ケア事業に携わるようになったきっかけ
産婦人科勤務の傍ら、産後リハビリテーション研究会という任意団体で勉強会や講座を開催していました。横浜市助産師会が積極的に理学療法士のことを理解してくださっていて、講座の依頼を受けることがあり、その連携を通じて、めぐみ助産院院長の市川さんから理学療法士を産後ケアに取り入れたいといったお話を受けました。職種との連携は、団体同士での連携もとても重要だと感じています。
今後、理学療法士がより活躍できる産後支援の場面は、全国にどのように広がっていくでしょうか。
比較的新しい取り組みのため、はじめは様々な取り組みが広がり、その中から次第にベストな形が残っていくのではないかと考えています。そうした過程の中で大切にしたいことは、産後ケアはチームでおこなうといった前提のもと、他職種の方に、産後ケアの中で理学療法士がどのようなことができるのかという理解をしてもらうことが重要だと考えます。理学療法士の得意なことや役割を、他職種が理解しているからこそ、「これは理学療法士に任せると良いのではないか」と提案、選択が生まれ、理学療法士の活躍の場が広がっていく、そのような形が理想だと考えています。また一方で、社会的に認知されることも大切で、産後のママ自身が体の痛みや尿漏れ等の不調で悩んでいるときに、「理学療法士に相談しよう」という選択をしてもらえるようになってほしいと思っています。
助産師にインタビュー
次に、助産師の井上愛美さんにお話を伺いました。
理学療法士が産後ケア事業に加わったことで、どのような変化がありましたか。
ママが身体のメンテナンスをしてもらえるということは、赤ちゃんではなく自分の身体を労わってもらえる、関心を向けてもらえるといった嬉しさや心の安定に繋がっていると思います。妊娠中や産後は身体の不調が出てくるものなので、その相談役を理学療法士が担ってくれるということは、ママにとっては、専門家に相談できる安心感とより専門的な知識が得られること、助産師にとっては「体のことは、理学療法士に聞いてみましょうか」と役割分担ができることがメリットだと思います。
理学療法士との連携を通じて、「これは助産師だけでは気づきにくかったな」と感じたことはありますか?
筋肉のかたさや左右差、関節の動きなどの理学療法士の専門知識は、助産師が気づきにくい点を補完してくれています。また、妊婦さんは尖腹(せんぷく)といって、反り腰などの姿勢が原因でお腹の赤ちゃんが前に突き出る現象が起きることがあります。そのような場合にも、姿勢や筋骨格のアライメント、関節の動きについて理学療法士からフィードバックをしてもらえて、役割分担ができて良いなと思っています。理学療法士から「この方、お腹が張り気味ですよ」などと伝えてもらうこともあり、40分しっかりと向き合ってケアをしてくれる分、ママから私たち助産師とは少し違う言葉を引き出しくれることがあります。その情報を共有してもらえて、私たち助産師も助かっています。
産後ケア事業の現場に理学療法士が加わることについて、どのように感じていますか。
素直に、嬉しいです。どんどん関わってもらいたいと思っています。日本では、昔から、産後すぐの女性でも赤ちゃんをおんぶし、育児をしながら家事をおこなう風習があり、女性が家庭を支え男性が外で働くという文化が根強く残ってきました。そのため、産後の母親に対するケアやメンテナンスに目を向ける意識や機会が、少なかったように思います。だからこそ、理学療法士が母親の身体のケアに関わることは、産後の母親自身の身体を大切にしていくという意識の向上やきっかけにとても意義のあることだと感じています。
韓国や欧米の一部では、「産後1カ月は絶対安静」とされるなど、産後ケアが当たり前に行われているところもありますが、日本ではやっとそのような考え方が普及し広がってきているところです。今後、産後ケアが「スタンダード」かつ「希望すれば利用できる環境」になればいいなと思います。また、ケアを受けることが当たり前の世の中になることを願っています。
おわりに
妊娠中や産後のママたちは、身体のケアがとても大切です。今回取材した、助産院でショートステイ利用中の方への理学療法士によるケアでは、ママの身体の痛みや違和感に対して、根本原因にアプローチしていく理学療法士ならではの視点とケアが印象的でした。理学療法士が産後ケア事業に関わる取り組みは、少しずつではありますが、全国各地で広がっています。
お住まいの地域で実施されている産後ケア事業を探したい場合、お住まいの市区町村や保健センターのウェブサイトをご確認ください。