発達障害のある人が生き生きと働くには【後編】-お子さんに業務を円滑に進める相談のコツや支援制度を伝えよう
発達障害のある方の就労を取り巻く環境の課題
ここまで、就労を目指す発達障がい者の側が工夫できる点を紹介してきましたが、発達障害のある方を受け入れる社会や企業側にもまだまだ課題があります。
発達障害のある方の就労支援に関する情報発信の強化
障害者雇用が社会的な課題として進んできているものの、十分な情報発信がされていなかったり、受け入れ側の企業がきちんと障害の特性を理解できていなかったりすることもあります。こういった課題を解決していくためには、支援側が情報発信を強化していく必要があると考えています。例えば、特別支援学校高等部が、公開研究会などを通して実践や実績等を発信していくことが重要でしょう。特別支援学校のセンター的機能として、高等学校や、中学校、小学校に対してアドバイスや情報提供をおこなっていく役割も期待されます。
学校教育と就労支援の連携強化
特別支援学校の高等部では、発達障害のあるお子さんが、職場実習、インターン等を活用しながら「キャリアデザイン」という形で自分の課題を「見える化」します。そして課題や達成したことなどについて学校の教員、保護者と共有を図ります。
特別支援学校に限らず、一般の高等学校でもこうしたツールを活用し、就労に向けての準備の段階で課題や目標を「見える化」し、本人と関係者で定期的に振り返りをする習慣を設定することが重要です。
私が現場で支援していた時は「朝起きられない学生には、入眠のルーティン(寝る前のストレッチ等)を作り、生活リズムを少しずつ整える」「実習で挨拶ができなかった学生には、毎朝必ず職員室に寄って担任に挨拶をするルーティンを作る」「長い時間同じ姿勢での作業ができず疲れてしまう生徒には、校内実習で疲れる前に手を挙げて伝える習慣と、定期的に深呼吸やストレッチをするという習慣を作る」といった目標や実践をおこなったりしました。
そのうえで、そうした場で本人から課題や目標、できたこと、足りなかったことなどについてアウトプットしてもらう練習を繰り返しおこないます。このように、早いうちから就労後も周囲に相談できるスキルの基礎を身につけることが大切です。
また、職業訓練に力を入れている特別支援学校の高等部などに、理学療法士が関わりを持てるようになっていくことも大切だと思います。理学療法士は、発達障害のある方が、就労を継続していくうえで知っておきたい、リフレッシュする運動や感覚過敏の対処法などを具体的に伝えられます。
社会全体のインクルーシブな環境づくり
発達障害のある方は、18歳までは一般の高校や特別支援学校などで教育が受けられ、放課後等デイサービスでも支援が受けられます。しかし、高校卒業と同時にそれらの支援は切れてしまいます。就労してからも適切な支援が継続して受けられるような仕組みづくりが必要だと考えています。さらにそこに理学療法士や作業療法士なども含めて、様々な人が関わる社会的な支援の在り方を考えていくことが大切です。
なお、一般の高等学校にも、知的な遅れはなくても発達障害の特性を持つ方は多く在籍しています。しかし現状、一般の高等学校に理学療法士などはほとんど支援に入っていません。今回の記事をきっかけに、今後関わりが増えれば良いと考えています。
最後にこんな実例をお話ししておきたいと思います。小学校の通常学級に、発達障害のお子さんが一人在籍していました。最初は、周りの子どもたちは「困った子だな」、「変わった子だな」という見方をしていました。しかし、先生がそのお子さんに対して、困ったことがあったら聞くように指導していったところ、「困ったことがあったら先生に相談できる」「わからないことがあったら聞けばいい」という心理的安全性が他の子どもたちの間でも高まっていきました。その結果、そのクラス全体の成績が上がり、子どもたちは困っているクラスメイトを自発的に助けられるようになりました。
このように、発達障害の有無に関わらず、多様な人がいることを受け入れて、共生していけるように社会全体が変わっていくことで、誰もがより安心して、自分らしく働けるようになっていくと思います。
※この記事は2026年1月28日時点での情報で作成しています。
※この記事は、以下を参考に作成しています。
おわりに
全3回にわたり、発達障害のある生徒の指導を長年おこなわれてきた竹田智之先生に、「発達障害のある方が生き生きと働くには」というテーマでお話を伺いました。
職場での相談の型を身につけたり、ジョブコーチといった支援制度を活用して、業務を円滑に進められるように工夫してみましょう。また、まずは発達障害がある方たちの外面からはわかりにくい特性を、一番身近な支援者である保護者の皆さんが理解していくことも大切ではないでしょうか。
この連載記事が、発達障害のある方、その保護者の方々の就労支援のヒントとなり、当事者以外の皆さんにも発達障害のある方への関わり方などを考えるきっかけになれば幸いです。
PROFILE
竹田 智之(たけだ ともゆき)
横浜市教育委員会事務局 学校教育部
特別支援教育相談課 主任指導主事
2006年横浜国立大学教育人間科学部学校教育課程卒業、2008年横浜国立大学教育学研究科修士課程修了、2009年より横浜市立新治特別支援学校常勤講師として勤務。2012年日本リハビリテーション専門学校卒業。理学療法士としての病院勤務、教諭としての特別支援学校勤務を経て、2019年横浜市教育委員会事務局に出向。特別支援教育相談課指導主事として勤務。理学療法士、特別支援学校教諭のキャリアを生かして、障害のある子どもたちの支援を長年おこなっている。