【第2回】発達障害を知ろう!発達協調運動症は、どんなことに困っているの? 事例から支援と制度を知ろう~運動篇~

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発達障害のひとつとして、「運動が苦手」「手先が不器用」などの症状があり、それにより日常生活で困っている子ども達がいます。

前回の記事では、発達障害の一つのタイプとして、発達性協調運動症(DCD)があり、どのような疾患なのか、成長過程での症状、支援などを概略的にお伝えしました。第2回である今回は、発達性協調運動症(DCD)がある子どもとご家族の悩みに対してどのように関わられたのか、理学療法士の深澤さんにお話を伺います。

発達性協調運動症(DCD)がある子ども達は、運動の不器用さが原因で日常性生活のどのようなことに困りますか?具体的な事例を教えてください。

深澤さん:運動は、大きく分けて、「粗大運動」と「微細運動」の2つがあります。粗大運動は安定して姿勢を保つことや全身を使う大きな動きで、微細運動は手を使った動きなど、主に手と指を使う細かい動きです。

日常生活で困る運動は、粗大運動もしくは微細運動のどちらかが苦手により起こることがあります。
粗大運動の苦手さの具体例は、「授業中、姿勢を保ち続けるのが難しい」、「ボール運動が苦手」、「なわとびが苦手」、「着替えが苦手で時間がかかる」、「真似して踊るのが難しい」などが挙げられます。
微細運動の苦手さの具体例は、「箸がうまく使えない」、「ひもを結べない」、「字を書くことが苦手」、「消しゴムをうまく使えない」、「食べこぼしが多い」などが挙げられます。
実際の支援では、子ども達の課題に対して、どのように解決していくか、子どもとご家族と一緒に考えて実践していきます。一例をご紹介します。

PROFILE

Mくん (7歳・男の子 小学1年生

・ゲームが好き、妹に優しい。学校の授業では、音楽が好きだが、体育は苦手。
・診断名:注意欠如多動症(ADHD)、発達性協調運動症(DCD)
・階段が不安定、よく転ぶ、じっとしているのが難しい、よく物にぶつかる、箸が上手く使えないなどの症状がある。
・身体を動かすことが大好きだが、体育などの運動になると「やりたくない」など発言が多く聞かれ、課題を避ける傾向がある。

Mくんの今までの経過を教えてください。

深澤さん:生後8か月でつかまり立ちと伝い歩き、生後18か月で歩けるようになったようです。
就学前に医療機関への受診につながり、理学療法の処方(運動のアセスメント※と運動発達支援の指示)が出たため、担当しました。
※アセスメント:身体的な状態や日常生活の動作などを評価し、適切な治療を立てるためのプロセス。

幼児期の様子はいかがだったでしょうか。

深澤さん:ご両親は、幼少期から歩きはじめが遅いことやよく転ぶことなど、心配な点があったとお話しされていました。
ただ、それが相談する必要がある状態なのか分からなかったそうです。

深澤さんは、理学療法士としてMくんとそのご家族にどのように支援をし、関わられたのでしょうか。

深澤さん:ご家族には心配なことなどついて聞き取りを行いました。
家族のニーズは、「転びやすいため、怪我が心配」、「運動会での組体操に参加をして楽しんでほしい」、「なわとびや鉄棒などの体育が苦手なため、できるようになってほしい」などを挙げられました。
Mくんには、本人に上手になったら嬉しいことを聞きましたが、当初は「特にない」と答えていました。

そこで理学療法の目標は、「なわとびが1回飛べること」、「組体操の一人技ができること」、「転ばないで歩けること」とし、その他のご家族のニーズは他職種と共有しました。
アセスメントでは、運動発達段階と得意・苦手な動きを把握しました。また、日常生活の動作について聞き取りも行いました。
支援は、第1回にご紹介しました、「個人」「課題」「環境」に分けて考えます。

【第1回】発達障害を知ろう!運動が苦手・手先が不器用なのは、発達障害?~子どもの「できた!」を育む支援を~

「なわとびが1回飛べること」を例にして説明します。

  • 個人:ジャンプの練習をする、縄を回す練習をする
  • 課題:前方に置いた縄を飛ぶことからはじめる(できる課題または少し頑張ればできる課題に調整する)
  • 環境:飛びやすい縄に変える(持ち手に重さがあるもの、柄が長いもの、足に当たっても痛くなりにくいものなど)

Mくんは、運動課題を避ける傾向があったため、課題の難しさを「できていること」や「少し頑張ればできること」に調整をし、目標を細かく設定しました。
スモールステップで練習をすることで、徐々にできることを増やし、自信をつけてもらう方針で実施しました。

小さな成功体験から徐々に自信に繋げることが大切なのですね。理学療法を受けたことでMくん自身が変わったことや周囲の変化などはありましたでしょうか。

深澤さん:個別の理学療法の中で、Mくんはなわとびを1回飛ぶことができ、ご家族や理学療法士に誉められ、とても嬉しそうにしていました。
なわとびが飛べたことがきっかけで、Mくん自身少しずつできることが増えていることを実感してくれたようで、新しい課題に向き合った時も、「やってみる」などの前向きな発言が増え、他の運動も楽しんで意欲的に取り組めるようになりました。
家族も「運動に限らず、自分から進んでやることが増え、少し積極的になったような気がします。」とお話されていました。
運動面だけでなく、心理面にも好循環がうまれました。肯定的な関わりや適切なサポートを通じて図のように正の連鎖を繰り返していくことが大切です。

図は以下の本を参考に作成しています。

新田 收、「発達性協調運動障害の評価と運動指導 障害構造の理解に基づくアプローチ」(ナップ、2018年11月16日発行、P272)

運動会や体育の課題に取り組む子ども達には、それぞれの特性があるということを知ることができましたが、周囲の大人や支援者が心掛けることやできることはありますか。

深澤さん:今回、運動会で「組体操の一人技ができること」も目標になっていました。
運動会での組体操は、学校側が子どもに合わせ、できていることに焦点を当て、参加ができるようにする工夫など、調整をしてくださったようです。
その他、転ばないで歩けるように全身運動は継続中です。
ご家族にも、課題の調整方法や、環境や道具の工夫について情報共有をし、他の場面で同じようなことがあった場合の参考にしていただきました。

運動会や体育の課題などは、課題の難しさを調整したり、環境の調整をしたりすれば、子ども達は「楽しく参加できる」ことが多いと感じます。
「運動課題を達成しなくてはならない」、「やらなければいけない」となると、本人も周囲も苦しくなってくることが多いようです。
課題の調整方法には、以下のような視点があります。

出典:楠本泰士、ほか「神経発達症リハビリテーション 発達の気になる子どもへのアプローチ」(三輪書店、2023、P158)

運動の介入は、自分の身体を使うことが今より嫌いにならないこと、できれば好きになること、その上で、今取り組んでいる課題を少し頑張ること、課題の難しさや環境を調整し、道具を工夫することで、できた経験を積み重ねていくことが重要だと感じています。
私の地域では、ご家族から保育園、幼稚園、学校等に相談いただけると、子ども達の特性に応じて配慮してくれることが多いようです。
今回のMくんの事例のように、障害に応じた合理的な配慮が進んでいくと良いなと思います。

Mくんの事例をお話しいただきありがとうございます。M君のご家族は、幼少期の発育が相談する必要がある状態なのか分からなかったとお話がありましたね。
Mくんのご両親のように迷われている保護者の方はどのようなところで相談ができるのでしょうか。

深澤さん:私の地域では、地方自治体の発達に関する相談窓口があり、最初に相談する場所となっています。
相談先は、地方自治体の地域差がありますが、相談先に関しましては、以下のようなところがあります。

  • 地方自治体の発達又は福祉関係に関する相談窓口
  • 保健センター・保健所
  • 発達障害者支援センター
  • 子育て支援センター
  • かかりつけの小児科
  • 療育機関(児童発達支援センター等) など

相談される場合は、まず地方自治体のホームページなどでの確認や地域の小児科の医師にご相談することをお勧めします。

受けられる支援や制度を教えていただけますでしょうか。

深澤さん:専門的な発達支援が受けられる場所は、療育機関(児童発達支援センター、児童発達支援事業所等)や保険医療機関などがあります。
医療機関では、医師が必要性を判断し、医師の指示のもと言語聴覚療法、作業療法、理学療法、心理検査・支援などが実施されます。

また、児童発達支援事業所等は、療育手帳や受給者証の交付により利用が可能となります。
受給者証の申請に必要な書類は、各自治体によって異なるため、まずは、市区町村の発達に関する相談窓口へ相談するのが良いと思います。

専門的な発達支援を受けるための各機関への直接ルート ※各自治体によって異なります。
次へ:おわりに
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