ママの身体と心のガイド【第1回】妊娠中の身体はどう変わる?

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妊娠・出産というライフイベントの中で、女性の身体は妊娠中から産後にかけて大きく変化していきます。その過程で、腰痛や肩こり、骨盤まわりの不調など、さまざまな身体のトラブルが起こることがあります。
一見同じように見える症状でも、妊娠中と産後では体の状態が異なるため、原因や対処法も同じとは限りません。だからこそ、それぞれの時期に起こりやすい変化や不調を正しく理解し、必要な支援やケアにつなげていくことが大切です。

本シリーズでは、産前・産後の女性の心身に起こる変化や不調とその対策について、産前産後の女性のケアに取り組んでいる理学療法士の佐々木聡子さんにお話を伺います。第1回では、妊娠中に起こりやすい身体のトラブルを中心にご紹介します。

まず、妊娠中に起こるトラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。

妊娠中にみられる、命に直接関わるものではないものの、日常生活に不快感をもたらす症状は「マイナートラブル」と呼ばれます。
妊娠中はホルモンの変化(リラキシンやエストロゲンなど)と姿勢変化が生じることが主な原因となって、マイナートラブルが生じやすい状態になります。例えば、腰部痛や骨盤まわりの痛み(恥骨や尾骨・仙腸関節痛など)、足のしびれ、手首周囲の痛み、ふくらはぎのつり(こむら返り)、肩こりや背部痛、肋骨周囲の違和感などの痛みに関することや、足のむくみや便秘、静脈瘤(りゅう)もこれにあたると思います。また、尿失禁や便失禁、ガス漏れなど骨盤底筋群に由来するお股トラブルも発生しやすくなります。
また、精神面ではホルモンの影響や身体的変化、社会的役割の変化に対して不安に感じやすい状態になる事もあります。

妊娠中に腰痛・恥骨痛・尾骨痛が起きる原因について教えてください。

妊娠すると身体は分娩に向けて少しずつ準備を始めます。妊娠初期から、卵巣や胎盤などより分泌される女性ホルモン、リラキシンもその一つで、靭帯や腱・関節包などコラーゲン繊維を含む結合組織に作用して、少しずつ組織の伸張性を高めます。伸張性が高まるということは関節が緩くなるイメージです。特に骨盤周囲はたくさんの靭帯で覆われているため、ゆるみが強く感じやすくなる場所です。また、お腹のふくらみと共に、身体の重心位置がつま先側へ変化するため、倒れないように無意識に姿勢を変えようとします。その姿勢の変化で腰部痛や恥骨痛などが発生しやすくなります。座る姿勢によっても影響があるので、尾骨痛も生じやすくなります。

実際に痛みが生じている場合、どのような対策をとるとよいでしょうか。

生じる痛みとして多いのが腰部・骨盤まわりの痛みですね。靭帯組織が緩んでいる=支えが弱く、不安定になっている状態なので、姿勢による影響が強いことがあります。長時間同じ姿勢を取らずに時々姿勢を変えることが大切です。赤ちゃんの成長でお腹が前に出ることで、腹筋群が使いにくくなり、背中や腰の筋肉が過剰に使われると、筋肉や筋膜が原因となる痛み(筋筋膜性疼痛)が生じやすくなります。立位や座位で痛みを感じたら、横になって休み、重力から身体を解放することで症状が和らぐ場合があります。骨盤ベルトを使うと負担を軽減してくれるので有効です。腹帯も、お腹をやさしく支えてくれるため、日常生活での動作が楽になることがあります。

また、姿勢の変化によって筋肉の使い方も変わり、過剰に働く筋肉と使いにくくなる筋肉が出てきます。その結果、血液やリンパなどの体液の流れが滞りやすくなります。ストレッチや軽い運動を取り入れて体液の循環を促すことで、むくみや筋肉の張りをやわらげることができます。ストレッチなどして循環の改善をしてみましょう。
痛みが徐々に悪化したり、いつまでも変わらない場合は整形外科を受診してみることも必要かもしれません。

腰痛・恥骨痛・尾骨痛が起きないように、どのような予防ができるでしょうか。

妊娠中のマイナートラブルは予防できる症状もあります。特に腰部・骨盤まわりの痛みに関しては予防が一番です。
お腹の中の筋肉は、インナーユニットといって4つの筋肉(横隔膜・腹横筋・骨盤底筋群・多裂筋)がうまく協調しあい、妊娠していない時にはトラブルなく働いています。ティッシュboxをイメージしてみてください。4つの筋肉が協調して働く様子は、四方から支えられた箱をイメージするとわかりやすいでしょう。妊娠中はこの4辺が崩れてしまうのでトラブルが起きやすくなっています。

まずは立っている時の姿勢と座っている時の姿勢に気を付けましょう。立っている時は、身体重心の変化に伴って、バランスを取ろうとして身体を反らし、かかと重心の姿勢をとることが多いです。これは腰やふくらはぎの筋肉を過剰に使うことになるので、なるべく土踏まずから足の親指あたりに重心を感じるように立ってみましょう。座った時にはお尻の二つの骨(座骨)を感じるように座るとトラブルが少なくなります。背伸びをして胸郭を動かしたり、腹式呼吸をして、骨盤底筋群と横隔膜を動かすことも大切です。

腹帯をするとお腹の重みのサポートをしてくれるので、腰痛予防につながることもあります。

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