ママの身体と心のガイド【番外編】 産後ケアの現場を取材してきました!

タイトルとURLをコピーしました。
    1 2

産前・産後の女性の心身に起こる変化や不調とその対策について紹介する本シリーズ。最終回となる今回は番外編として、編集部が産後ケアの現場を取材しました。助産院を利用している方に対して理学療法士が実施した個別ケアの内容と、現場で働く理学療法士・助産師の方のインタビューをお届けします。

産後ケアのサービスを利用する現場を取材

今回、取材に訪れたのは神奈川県横浜市鶴見区にあるめぐみ助産院。

めぐみ助産院がある横浜市では、産後に心身の不調がある方や育児に不安がある方を対象に、基本的に母子が一緒に過ごす空間で、助産師などのアドバイスを受けながら育児方法を学ぶことができる場として、横浜市産後母子ケア事業(ショートステイ・デイケア)を実施しています。また、外出が困難な状況にある方の居宅に助産師が訪問する「産後母子ケア事業(訪問型母子ケア)」も提供しています。

産後3か月で、この制度を活用して、3泊4日の母子ショートステイで滞在されている利用者さんに取材にご協力いただきました。滞在3日目にちょうど、月に1回、理学療法士が行う自費ケアが開催されると知り、お申込みされたそうです。

「産後ケア」とは?

産後ケアは出産後の母子の身体的な回復と精神的な安静、母親自身のセルフケア能力の育成、母子とその家族の健全な育児などを支援します。自治体が実施する公的な支援制度、自宅でのセルフケア、家族や友人からのサポート、病院・助産院での自費ケア、整体など、あらゆる支援を含む広い概念です。

「産後ケア事業」とは?

産後ケアの中でも、市町村が、出産後1年以内の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援体制の確保を行う事業のことを「産後ケア事業」といいます。日本全国の自治体が実施しており、主に出産後の母親を対象に、休養や相談、育児支援などを提供しています。

ここに理学療法士が加わることで、産後の身体の不調に対する体操やストレッチ、育児動作における痛みの対処方法などの指導が受けられるといったメリットがあります。

国は、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援体制の充実をより充実させるため、2024年に「産前・産後サポート事業ガイドライン及び産後ケア事業ガイドライン」を改定しました。その際、産後ケア事業の実施者に理学療法士が明記され、関わりが促進されることになりました。

本シリーズでこれまでご紹介したとおり、出産後の女性の心と体は、妊娠・出産による大きな変化や負担からの回復期にあります。ホルモンバランスの変動や睡眠不足、授乳や育児による疲労などが重なり、身体的にも精神的にも不安定になりやすい時期です。

そのため、この時期にママの身体のためのケアを受けることは、ママ自身の健康の回復や、育児を前向きに行うための大切な支えとなります。

その事例として、産後ケアでは、デイケアやショートステイの他にも、骨盤ケア(骨盤ベルトの着用方法や体操の指導)、母親のマイナートラブルに対するケア、アロマテラピー、育児相談などもあるようです。

今回取材した理学療法士が行う自費ケアは、基本的には1回40分の個別ケアとのこと。ここからは、その内容を詳しくお伝えします。

まずは丁寧な情報収集からスタート。
出産後の身体の回復状況や、育児を行う中で感じる生活上の困りごとについてお伺いします。抱っこや授乳、家事の動作などの中で感じる身体に不調について、今回は、「腰にピリッとした痛みが走ることがある」「肩こりがつらい」といった利用者さんの訴えがありました。これらの訴えについて理学療法士の視点で、現在の症状やこれまでの疾患歴など、一つひとつ詳細を確認していきます。

続いて身体の確認では、実際に身体に触れながら、筋肉の左右差や張り、こわばりのある部位を確認し、その原因と予後、対処法を探ります。今回のケースでは、筋肉のかたさや左右のバランスに着目し、必要な部位にモビライゼーション(動きを引き出すような手技)を行い、筋肉の緊張をほぐしていました。妊娠や出産で引き伸ばされた筋肉は、働きが低下し骨盤の関節がゆるむ要因になることもあるため、筋力を戻す運動をするとよいことや、授乳動作で肩のハリが生じているので肩甲骨を回すストレッチをするとよいことなど、ママが自分でできるセルフケアも伝えます。

肩のハリについて聞き取り
聞き取りしながら赤ちゃんの様子にも目配り

さらに動作指導では、日常的におこなう赤ちゃんのお世話の中で負担になりがちな姿勢や動作について、一つひとつ丁寧にアドバイスをしていました。寝ている赤ちゃんを持ち上げて抱っこする時の動作や、授乳時の姿勢、抱っこ紐のフィッティング確認まで、実際に動きながら確認・調整を行い、産後のママにとってすぐに役立つ内容です。

赤ちゃんを持ち上げて抱っこする時の動作をアドバイス
抱っこ紐のフィッティング確認

最後に、利用者さんに気になっていることを質問すると、赤ちゃんが決まった方向ばかりに頭を傾ける向き癖があるのではないかと相談がありました。ママに介入しながら赤ちゃんの様子も観察していた理学療法士の山﨑さんは、月齢に応じた一般的な発達の状態と照らし合わせながら、ママが過剰な心配をしないようにアドバイスを行い、ママ自身が赤ちゃんとの関わりの中で気になることをよく観察できるような遊び方を提案していました。こうした不安に寄り添う声かけやアドバイスがママの安心につながりますね。

赤ちゃんが真ん中を向く遊びを実演

次のページでは、産後ケア事業に携わる理学療法士と助産院で産前産後のママを支える助産師のインタビューを掲載します。

次へ:理学療法士にインタビュー
    1 2