【第7回:前編】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~機能訓練指導員として高齢者に向き合う二宮智貴さん~

リガクラボの連載「生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法」。長きにわたりお仕事をされていて、現在も生涯現役として活躍されているベテラン理学療法士の方々をピックアップし、現在のお仕事(セカンドキャリア)や、生涯現役を目指すために実践している健康法などをご紹介します。
第7回は、複数の病院や施設に関わってきた経験を活かし、現在は特別養護老人ホームで機能訓練指導員として勤務されながら、足と靴の問題にも取り組む二宮智貴さんにご登場いただきます。前編では二宮さんのお仕事についてお話を伺っていきます。
【特集】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法
PROFILE

二宮 智貴(にのみや としたか)
大学卒業後、川崎リハビリテーション学院を1986年に卒業し免許取得。その後、いくつかの病院や施設を経験して、60歳で定年退職し現在の特別養護老人ホーム ひかりの丘に就職。幅広い分野であらゆる疾患を経験し、特に運動器疾患や神経難病・終末医療・足部疾患・装具などに興味を持つ。特に足と靴の問題は、ライフワーク。日本靴医学会など、各種学会・団体に所属している。
二宮さんの現在のお仕事(セカンドキャリア)
二宮さんの現在のお仕事について伺います。二宮さんは、いくつかの病院や施設をご経験されたあと、現在は特別養護老人ホーム ひかりの丘にてご活躍されています。現在の主な仕事内容について教えてください。
二宮さん:特別養護老人ホーム ひかりの丘にて、機能訓練指導員として従事しています。機能訓練指導員は、介護福祉施設などで日常生活を営むのに必要な機能の低下を防止して維持するための訓練をおこなう職種で、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、看護師といった特定の資格を持つ者が務めることができます。
私の場合は、特別養護老人ホームに入所されている方とショートステイをご利用される方を対象に、それぞれの方の状況に応じたリハビリテーションの計画書を作り、それに則した機能訓練のメニューをおこなっています。メニュー自体は、病院でおこなうのと同様、基本的なものが中心です。
機能訓練指導員として、理学療法の知識と技術を提供していらっしゃるのですね。これまで複数の病院や施設に関わっていらっしゃいますが、現職と異なるところはありますか?
病院では、高齢者から小児まで幅広い世代の病気や障害をお持ちの患者さんに対して、理学療法をおこなってきました。特別養護老人ホームの場合、対象者は高齢者ですが、基本的には病院在籍時の理学療法と同じ認識で対応しています。
様々な疾患を経験するうちに、脳血管疾患や運動器疾患、神経難病、終末医療、足部疾患、装具などに注目するようになりました。日本靴医学会をはじめ、足病・義肢装具、転倒予防、ターミナルケア関係の学会・団体にも所属しています。中でも足と靴の問題は、私にとってライフワークだと思っています。
診断名が同じでも、同じ状態、病態の人はいません。丁寧にみていくことで、一つひとつの症例から多くの学びが得られます。また、疾患を持った人間は、一人ひとり異なる個人ですから、得られるものも百人百様です。
足と靴の問題についてはライフワークとして取り組まれているということですが、そのきっかけと、具体的な取り組みについて教えてください。
二宮さん:私は理学療法士として働き始めて間もない頃から、職員や患者さんの履物について疑問を感じていました。履物が原因と思われる、色々な足の変形や問題を目にしたためです。
例えば、周囲の職員は、「どうせ仕事で履くんだから安いものでいい」と、サイズが合っていない靴やクッション性にもホールド性にも乏しい靴を何の疑問もなく履いていました。患者さんは、サイズの合っていない介護シューズや安い靴、麻痺のある方は障がい者用の靴を履いていましたが、高価なので履きつぶした状態になるまで履いていました。どちらも履く人にとって、決して良い状況ではありません。そして、この状況は、現在もほぼ変わっていないように思います。
そこで、職員には、踵がしっかりしてホールド性・クッション性のあるもの(多くはスニーカータイプ)を薦めて、私が中敷きやアーチサポートを作って「改造」してあげます。患者さんにも個人の状態に合わせて同様の改造をおこなっています。そうすると、明らかに歩き方や快適さが向上します。
履物を本人に合わせて改造することで、歩行や動作時の衝撃が緩和され、関節の変形や痛みも緩和されます。それだけでなく、安定性が良くなり、余分なエネルギーを使わないため疲れにくくなります。特に腰痛や外反母趾は、靴の良し悪しが大きく作用します。高齢の女性で、足指がひどく変形した方が多くいますが、先がとがった靴やヒールの高い靴を常用していた人がほとんどです。
しかし、足と靴の問題は、ほとんど取り上げられることなく、現在まで続いています。少なくとも日本では、足と靴の問題はこれまでほとんど看過されてきたように思います。服や化粧には気を配っても、日常の履き物が足に与える影響は、あまり重視されていません。ましてや全身に影響があることは、医療の現場でさえも十分には認識されていないのではないでしょうか?
日本は先進国ですが、足と靴については、私は「後進国」だと思っています。今はオファーがありませんが、かつては地域の市民センターや看護学校での講義もおこなっていました。私もまだまだ発展途上ではありますが、これからもさらに勉強を進めて、足と靴の問題と対策を伝えていきたいと思っています。
ちなみに今も、職員や入居者の方には、足や靴の指導をおこなっていますよ。