【第7回】シカクの人物図鑑 糟谷明範さん:医療と地域社会の間にある壁をなくしたい。誰もがいていい“村づくり”をおこなう理学療法士

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「シカクの人物図鑑」シリーズでは、理学療法士としてお仕事をされていて、その他にも素敵な特技をお持ちの方、別のフィールドでも活躍されている方などをピックアップして紹介していきます。

第7回となる今回は、理学療法士として地域の医療を身近なものにし、子どもから高齢者までが違いを越えて、自然に過ごせる“村づくり”に向けてさまざまな活動をおこなう、株式会社シンクハピネス代表取締役の糟谷明範さんをご紹介します。

シカクの人物図鑑:プロフィール

糟谷 明範(かすや あきのり

■年齢:38歳

■現在のお仕事:
①株式会社シンクハピネス/代表取締役
②一般社団法人CancerX/理事
③たまケアLive/代表

■今のお仕事を始めるまでの経歴:
2006年 社会医療法人財団大和会 武蔵村山病院 入職
2010年 社会医療法人社団健生会 立川相互病院 入職
2011年 株式会社国立メディカルケア 訪問看護ステーション国立メディカルケア 入職
2014年 株式会社シンクハピネス 設立
2015年 たまケアLiveの代表に就任
2020年 一般社団法人CancerXの理事に就任

■最近あったちょっと気になること:
先日、2021シーズンからFC東京のユニフォームがニューバランスになることが発表されました!今から楽しみです!!

■SNS

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新しい医療・福祉の形を目指して。地域で暮らす人々とともに歩み、寄り添いながら活動する糟谷明範さんの人物図鑑

はじめに、糟谷さんの現在のお仕事について教えてください。

糟谷さん:株式会社シンクハピネスの代表取締役、一般社団法人CancerXの理事、そしてたまケアLiveの代表をしています。

シンクハピネスでは医療・福祉事業、そしてライフデザイン事業という2つの柱で、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、カフェを展開し、地域のみなさんと村づくりをおこなっています。

CancerXでは、「がん」と言われても動揺しない社会を目指し、3つのキーワード(Collaborate/Change/Cross out)を軸に、医・産・官・学・民など分野や立場を超えて、関わり合って課題を共有し、ともに解決を目指しています。そして、たまケアLiveでは、医療福祉の専門職と地域住民がつながるための場を提供するために、ワークショップなどを開催しています。

活動の内容を伺うと“医療と地域のつながり”を大事にされているのだなと感じました。シンクハピネスは、どのような思いで設立されたのですか?

糟谷さん:シンクハピネスを設立したのは、ある違和感がきっかけでした。理学療法士1年目に感じ、以来、経験を重ねていくにつれて違和感は大きくなっていったんです。

それは、医師や理学療法士などの専門職と入院している患者さんが、「世話をする人/される人」という関係性になっているということ。医療のプロフェッショナルとして伝えなければいけない場面もあるので、上から目線になってしまうことは少なからずあると思います。けれど、病院から離れてしまえば、患者と専門職ではなく“人と人”。この感覚は大切にしたいと思っていたので、病院での専門職と患者との関係性にずっと違和感を持っていました。

あるとき、患者さんにこう言われました。「いつもリハビリをしてくれてすごく感謝しているわ。でも1つだけわかって欲しいことがあるの。私たちもあなたたちに気を遣って、リハビリを受けているのよ」と。

また、訪問看護ステーションで働きながら地域の方と繰り返し話をするうちに、健康な人たちは医療に関心がある人が少なくて、いざ病気や障害を抱えたときには相談先がわからず、困っている人がたくさんいるということを知りました。

当事者やご家族が持っている「生きるため・暮らすための選択肢」は、それほど多くないと思います。なので、病気や障害を機に好きなことを諦めたり、仕事を辞めてしまったりする方を目の当たりにしました。

医療とまちの間には壁がある。そんな地域社会の空気を変えたいという思いから、訪問看護、訪問リハビリテーションという医療を軸としたシンクハピネスを立ち上げたんです。

医療と地域をつなげるという考え方は、患者さまとの会話から生まれたものだったのですね。設立にあたって何か苦労されたことはありますか?

糟谷さん:シンクハピネスを立ち上げる前の話になりますが、地域住民が集まって、まちづくりについて意見を交換する機会があったんです。そのときに集まっていたみなさんに医療のことを伝えたいと強く思っていて、「僕は理学療法士です、何か困っていることはありませんか?」と質問したんです。

そうしたら、1人の方に「あなたたちは病院の人間でしょ。地域のことなんかわからないくせに、そんなことを言うんじゃないよ」と言われてしまったんです。すごく悔しかったのですが、でも確かにそうだなとも思いました。

医療のことは知っているけれど、地域のことはよく知らない。病院や施設にいるときは、その街の朝の顔、昼の顔、夜の顔、まったく知らずに仕事をしていましたし、知りたいという思いにもならなかったんです。ここでも、医療とまちには大きな壁があると痛感させられました。

そこで、シンクハピネスで訪問看護ステーションを立ち上げた1年半後に、カフェ事業であるthe town stand FLAT(以下、FLAT STAND)をオープンさせました。

なるほど…当初は順風満帆なスタートというわけではなかったのですね。カフェ事業はどのような目的で始められたのでしょう。

糟谷さん:FLAT STANDは医療従事者がやっているとは謳わずに運営することにしたんです。最初から従事医療者として接したら壁ができてしまう。そこに暮らしている1人の人としてお店に立ち、話をしていく中で、実は僕ら医療従事者なんだって言うと、何かあったときやちょっと変化があったときにみなさん相談に来てくれるんです。

そして、このFLAT STANDから、地域との関係づくりのために、まちの人たちと一緒に活動を始めました。医療・福祉の専門家として人やまちに何ができるか考え動く、そしてそこで暮らす1人の人として、人やまちに何ができるかを考え動く。医療と地域という2つの視点を持って動くため、シンクハピネスでは医療・福祉事業とライフデザイン事業という2つの事業部を設けたんです。

将来的には、FLAT STANDの周りには診療所や訪問看護ステーションなどの医療施設だけでなく、八百屋さんや本屋さん、お菓子屋さんなどを呼んで、子どもからお年寄りまでさまざまな人が対等な立場で暮らし、困ったときに助け合える関係性をつくることを目指しています。FLAT STANDが、その入口としての役割を担えたらいいなと。

地域の人々がお互い対等な関係で助け合うための2本柱なのですね。それぞれの最近の具体的な業務内容を教えていただけますか?

糟谷さん:医療・福祉事業部のLIC訪問看護リハビリステーションでは、看護師7名、理学療法士4名、言語聴覚士1名、事務員2名が在籍しており、ライフデザイン事業部のlife design village FLATでは、主任介護支援専門員3名、事務員1名が在籍しています。

いずれも前述の通り、「医療福祉の専門職として人やまちに何ができるか、そこで暮らす1人の人として人やまちに何ができるか」を行動指針として、どんな人でも地域で生活ができる社会を目指しています。

最近の訪問看護での取り組みは、急性期から慢性期、どんな状態であっても暮らし方を選択できる、または、選択しても良いんだと思える地域社会にするために、近隣病院との相互研修や、食や栄養管理を通じた地域とのネットワークづくり、ポケットエコーの活用、オンラインの在宅看護実習などをおこなっています。

また、居宅介護支援事業所では、ケアマネージャーの学びの場や地域の暮らしの中にある互助と共助を仕掛ける場として、研修会の開催や事務所スペースの地域への開放などをおこなっています。

特に、FLAT STANDはカフェ運営のほかに、マルシェ、ワークショップや展示、セミナーなど、さまざまな用途で地域のみなさんに使っていただいています。最近では12月6日にフリーマケットを開催しました。また、来年1月には「勝手に書き初め」や「新春!『デコ熊手ギャラリー』」というイベントを開催予定です。

書き初めはカフェの中に筆と半紙を置き、来てくださったお客さんが誰でも好きなことを書いて、掲示してくださいね、というイベントです。デコ熊手はデコレーションした熊手を1週間展示するという企画です。地元府中の作家さんやつながりのある方々が中心となり、開催しています。毎年出展者が増えていて、昨年は50人近くの作家さんに出展いただきました。

病院時代に経験した理学療法士としての経験が、現在の訪問看護・訪問リハビリテーション業務で役立っていると感じることはありますか?

糟谷さん:病院時代、訪問看護ステーション時代に、医師や看護師、介護福祉士、ケアマネージャー、管理栄養士など医療福祉の専門職と、当事者である本人と家族も一緒にチームという意識でリハビリテーションをおこなっていたことです。

リハの時間だけ関わるのではなく、24時間365日を考え、必要な時に必要な人が介入できるように、その瞬間瞬間の自分の役割を考えながら動いていたことが、今の仕事にも役立っていると感じますね。

シンクハピネスでの活動で、何か新しい発見はありましたか?

糟谷さん:5年間動いてきて見えてきたことがいくつかあります。1つは、5年前に感じた違和感はまだまだ存在しているということ。そして、僕自身、週1回カフェに立ってコーヒーを淹れていますが、たくさんの方達と話をするうちに、まちには医療以外のたくさんの課題があることを知りました。子育てや教育、居場所、食品ロス、モビリティ、ジェンダー、就労などです。

これらを知ったときに医療の視点だけ見ていては、僕らが目指す社会にはならないと感じました。これらは僕らの専門ではありませんが、5年間一緒に動いてきた地域の方はいろいろな得意分野を持った方がいました。この場所を村と称して、このような地域の方達と一緒につくっていけば、困りごとが少なくなっていくかもしれない。そう思って始めたのが、“村づくり”です。

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