【前編】佐藤弘道さんインタビュー 脊髄梗塞の後遺症と向き合う体操のお兄さん~発症を乗り越えてステージに立つ、その思いとは~

体操のお兄さんとして、日本全国の多くの方たちに親しまれている“ひろみちお兄さん”こと佐藤弘道さん。2024年6月に脊髄梗塞を発症、その後は闘病、理学療法などのリハビリテーションを経て、様々な活動に取り組まれています。
リガクラボでは、7月17日の「理学療法の日」の特別企画の一環として、佐藤弘道さんのインタビューをお届けします。発症から闘病生活、これらの経験を経たことによる気持ちの変化や子育て世代への思いなど、多岐にわたりお話しいただきました。
全3回のうち前編では、佐藤さんが脊髄梗塞を発症してから理学療法を受けての変化や、どのような思いで活動を再開されたのかを伺っていきます。
【特集】佐藤弘道さんインタビュー 脊髄梗塞の後遺症と向き合う体操のお兄さん
同じようにリハビリを頑張っている方の励みになりたい
脊髄梗塞発症当初は、大変なショックを受けられたことと思います。そこからどのようにして、理学療法を頑張ろうと思えるまでになったのでしょうか。
佐藤さん:昨年6月に脊髄梗塞を発症して、下半身がまったく動かなくなりました。入院して4日後には理学療法士さんが病室に来てくれて、早速リハビリテーションが始まりました。足先を筆で触ってもらい、触れられている感覚があるかを確認したり、足の指を曲げ伸ばししたりしました。すると、たまたま足の指が動かせたんです。「このまま全部の神経が繋がって元に戻ってくれたらいいのに……」と思いながら、自分でもトレーニングをおこなうようになりました。
しかし脊髄梗塞について自分でも調べていくと、さまざまな記事に、手強い病気で元通りに身体が回復する見込みがないことが書かれていました。「元の生活はもう無理だろうな」「これからは車いす生活なんだろうな」と、悪い方へ悪い方へと考えてしまいました。精神的に落ち込み、「屋上へはどうやっていけばいいんだろう……」など、そんなことまで考えてしまったんです。
そんな心理状態ではありましたが、入院してから「体調不良」ということでお休みしていた生放送のレギュラー番組を続けて休むことになりました。2週連続で「体調不良でお休みします」は通用しないと思い、所属事務所の担当者とも考えた末に、今の状況を発表するしかないとなりました。当初はパソコンでメッセージを打ってほしいと言われていたんですが、「自分の言葉で脊髄梗塞を発症したことを皆さんに伝えたい」と思いました。そこで妻に便箋とペンを買ってきてもらいました。メッセージを書いているうちに気持ちがプラスに変わって来て、「発表したら(復帰を目指して)やるしかない」という気持ちになりました。そして手書きのメッセージをSNSで発表したんです。
すると、驚くほどたくさんの応援メッセージをいただきました。LINEのメッセージは300件くらい来ていて、SNSも読み切れないくらいの量でした。しかも、1つもネガティブなメッセージが無かったんです。「こんなに支えてくださっていたんだ。もう前向きになるしかない!」と、そこから急にリハビリのやる気が出ました。
理学療法を続けられる中で、くじけそうになることもあったかと思います。そんなときは、どのように乗り越えられたのでしょうか?
佐藤さん:とにかく歩けるようになりたい、そのためにはどんなこともやると決意してリハビリに取り組んでいましたが、鬱々とした気分になることもありました。そんなときに同じ病気の方や患者さんのご家族から「今では世界を旅行してます」「息子もリハビリを頑張っているから、弘道お兄さんも頑張って!」などのメッセージをいただき、良い結果を教えてもらったことで、さらにプラスになって、とても励まされました。
そんなこともあって、同じようにリハビリを頑張っている方たちのプラスになるようなことをしたいと思うようになりました。頑張ってトレーニングをすれば「脊髄梗塞にかかっても、歩けるようになるよ」というメッセージになります。そのためにも自分が「回復の成功例、症例を作っていきたい」と強く思うようになったんです。
また、リハビリテーション専門の病院に入院していたころの話ですが、90歳くらいの方がすぐ横で筋トレをしていたんです。さらに向こう側では、必死に車いすから立って歩く練習をしている方がいる。そんな周りの方たちが頑張る姿を見ていたら、自分がやっていることなんてまだまだだな、もっと頑張れるな、と思いました。
理学療法を受けてどのような変化がありましたか? また、理学療法士とのエピソードがあれば教えてください。
佐藤さん:理学療法士の方たちの存在は、大きいですね。最初に入院した病院を退院してから、今はリハビリテーション病院に通院しているのですが、そこでだいぶ自分自身の気持ちが変わりました。
僕を担当してくれた理学療法士の皆さんは「天使のような悪魔の人」という感じで、優しく迎えてくれたあとにすぐ身体の弱点を探してくるんです(笑)。「はい、これはできないですね。頑張りましょうね!」と言って、次回までに少しは克服しなくては!と思えるような、やる気を出させてくれるんです。そんな指導を繰り返し受けていくうちに、自分の足で立って、歩けるようになるまで回復できました。
佐藤さん:理学療法士は筋肉や骨など身体の構造からわかるようにトレーニング方法を教えてくれるので、とても助かっています。僕は高校卒業後に体育大学へ進みましたが、当時理学療法士の存在を知っていたら、その道を目指したかったと思うほど、身体のプロフェッショナルで素晴らしいと思います。
