【前編】佐藤弘道さんインタビュー 脊髄梗塞の後遺症と向き合う体操のお兄さん~発症を乗り越えてステージに立つ、その思いとは~

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「今日はいい一日だった」と思えるように毎日を過ごすことが大事

脊髄梗塞にかかる前と今で、日常生活において視点が変わったことなどはありますか?

佐藤さん:病気にかかってから、一日の終わりに「今日はいい一日だったな」と思って眠りにつきたい、そう思うようになりました。

とはいえ、いくら前向きに頑張ろうと思っていてもくじけそうになることはよくあります。そんなときは、とにかく休むようになりました。NHKの番組「おかあさんといっしょ」で体操のお兄さんをしていたころは、春と夏の甲子園がある時期だけ仕事が休みで、あとはフル稼働していたのでほとんどオフがありませんでした。ですが今は、一日くらいはそんな日があってもいいと、割り切れるようになったんです。

闘病中から今日まで、ご家族の存在は佐藤さんにとって大きな支えになっていると思います。 心に響いた言葉などご家族とのエピソードをお聞かせください。

佐藤さん:妻と二人の息子には、とても感謝しています。病気にかかってから、誰一人僕の前で泣くこともなく、家族全員が常に笑っていてくれて「大丈夫、大丈夫!」「とうちゃんなら大丈夫!」と言ってくれたんです。また、僕が落ち込んでいるときにも「生きてるだけでいいじゃない!」とニコニコ笑っていてくれたことが、とてもうれしかったですね。

また入院中も「退院したら食べたいものリスト」をスマホで送ってきたり、一日一回は大声で笑えるようにと考えてくれたり、いろいろと連絡してくれました。病人の立場からすると、暗い空気にならないように家族が明るく振舞ってくれたことが、本当にありがたかったです。

活動を通して脊髄梗塞をたくさんの方に知ってほしい

脊髄梗塞発症後、熱心に理学療法に取り組み、急速に回復される様子には私たちも驚きました。今年2月の熊本城マラソンへの出場は、多くの方に勇気を与えたと思います。こちらに出場されることにした経緯や参加して感じられたことを教えていただけますか。

熊本城マラソンに参加した佐藤さん。ファンマラソンのスタート地点にて

佐藤さん:脊髄梗塞を発症したとき、飛行機の搭乗直前に身体に異変が起きて、機内で調子が悪くなって……という経過だったため、飛行機にはトラウマがあったんです。正直、熊本に行くのはちょっと怖いと思っていました。しかし、少しずつ克服していかなくてはという気持ちもありました。

熊本城マラソンには、ここ数年ずっと出場させていただいていました。マラソンのスポンサーをしている会社の方とは個人的にもお付き合いがあったのですが、僕が脊髄梗塞で倒れたときには会社の皆さんで千羽鶴や応援メッセージボードなどを作って送ってくださいました。そんなこともあって、退院したこと、歩けるようになったことを直接報告したいと思い、熊本のマラソンへの参加を決意しました。

ゲストランナーの皆さんと佐藤さん
ゲストランナーの皆さん、熊本県PRマスコットキャラクター〈くまもん〉と佐藤さん

佐藤さん:熊本城マラソンでは、一緒に出場している皆さんが「ひろみちお兄さん! 写真撮っていいですか?」と声をかけてくださるのと、まだ走れなかったこともあって、気がついたら最後尾になっていました。しかし、最後尾にはスプリングを装着した義足のチームの方たちがいらっしゃって、一緒にお話ししながら完走することができました。

熊本城マラソンの出場をメディアにも取り上げていただきましたが、こういった活動を通して脊髄梗塞のことを知ってもらいたいというのが、一番の思いです。今後もいろいろな場で脊髄梗塞の経験について発信していきたいと思っています。

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