【後編】佐藤弘道さんインタビュー 脊髄梗塞の後遺症と向き合う体操のお兄さん~「運動嫌い」の人はいない。家族と一緒に運動習慣を身に付ける方法とは~

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体操のお兄さんとして、日本全国の多くの方たちに親しまれている“ひろみちお兄さん”こと佐藤弘道さん。2024年6月に脊髄梗塞を発症、その後は闘病、理学療法などのリハビリテーションを経て、様々な活動に取り組まれています。

リガクラボでは、7月17日の「理学療法の日」の特別企画の一環として、佐藤弘道さんのインタビューをお届けしています。中編では、復帰後の活動や、これからの佐藤さんの目標、読者へのメッセージなどについてお話しいただきました。最終回となる後編では、運動習慣を身に付ける方法、子どもが運動に前向きになるコツなどについて伺っていきます。

「おかあさんといっしょ」の仲間とステージに出演

今年の3月にNHKの歌番組「うたコン」に出演されました。佐藤さんのルーツである「おかあさんといっしょ」の皆さんと歌い、踊る姿を見て大変感銘を受けました。ご出演の経緯やお気持ちなどをお聞かせください。

佐藤さん:最初に声をかけていただいたとき、「僕は”歌のお兄さん“ではないんだけど、キャスティング間違ってるのかな?」と思いました(笑)。実は「うたコン」のキャスティング担当のディレクターの方たちが、僕が出演していたころの「おかあさんといっしょ」を見ていた“ひろみちチルドレン”だったんです。歌手でもない僕が出るのはどうなんだろうと思いましたが、熱心に声をかけていただいたので出演させていただくことにしました。

NHKの「うたコン」出演時の佐藤さん

佐藤さん:「うたコン」のステージには、僕が「おかあさんといっしょ」で体操のお兄さんを担当していた頃、歌のお兄さん・お姉さんを務めていた速水けんたろうさん、茂森あゆみさんや、その後、歌のお姉さんを務めた、はいだしょうこさんたちと一緒に立たせていただいて、とてもうれしかったです。歌の振付はできないものもありましたが、昔の仲間と一緒だったので、不安を感じることなく、楽しくステージに立つことができました。

また、司会者の谷原章介さんの計らいで「みんなでリハビリ頑張りましょう!」というメッセージを送ることができました。「おかあさんといっしょ」のファンの方たちにも、病から回復しつつある姿を見せることができて、よかったと思います。

「おかあさんといっしょ」の歴代の歌のお兄さん、お姉さんたちとの共演を果たした

日常生活の動きに「プラスワン」で、運動習慣を身に付けよう!

運動習慣は健康維持のために欠かせないものだと思います。しかし、運動が苦手な方や嫌いな方もいらっしゃいます。運動習慣を身に付けて、続けていくためのコツがあれば教えていただけますか。

佐藤さん:僕はそもそも「運動嫌い」な人はいないと思っているんです。「運動が嫌い」だと思っている方は、「“スポーツ“が苦手」なんだと思います。元々スポーツという言葉の語源は「気晴らし」や「楽しみ」といったものなのですが、人と競い合ったり、点数をつけられたりすることで苦手意識を感じて嫌いになっているのではないでしょうか。身体を動かすことは、気持ちいいですよね。

運動習慣は、ジムに通わなくても身に付きます。駅まで歩く、掃除をするなどの日常生活の動作も運動になっています。何より楽しみながらやることが大事です。また、40代、50代になってくると、運動をしないと肥満などによって健康障害も出てきます。忙しくて運動する時間がないと思っている方も「普段よりも大きく腕を振って歩く」「早足で歩く」「エレベーターを使わずに階段を使う」など、“プラスワン”の運動を続けることが大事だと思います。

一方で、運動を頑張りすぎてしまう方もいらっしゃるかと思います。佐藤さんもご自身のトレーニングや理学療法などで、頑張りすぎてしまうことはあるのでしょうか? 

佐藤さん:運動を熱心にしている方は、自分を追い込みすぎてしまうことがありますよね。すると身体に痛みが出てしまうことがあります。僕も自主トレでオーバーワーク(身体に負荷をかけすぎている状態)になったりします。そういう時、理学療法士の方が「今日はちょっと足が張っていますね」と言ってマッサージでケアしてくれるなど、リハビリテーションの専門家が身近にいてくださるので助かっています。

現在もパーソナルトレーナーと二人三脚でトレーニングを続けている

佐藤さんが現在取り入れられている運動や、生活習慣があれば教えてください。また、理学療法をお休みしたい……と思う日はありますか?

佐藤さん:リハビリテーション専門の病院へ通う以外に、自宅でも自主トレをおこなっています。歩けるようにはなりましたが、今の課題は継ぎ足(交互に足を出す)ができないことなんです。自分にとっては生活すべてがリハビリだと思うので、靴下やパンツをはくときに、なるべく座らないで履く、ドライヤーで髪を乾かしながら、継ぎ足の練習をする、お風呂掃除を毎日するなど、できることを日々続けています。

もちろん、リハビリしたくないなと思うときもあります。脊髄梗塞を発症してから、精神的に落ちてしまった時期もありました。ですが、そんなときは、休むことも大事だと思います。頑張りすぎて自分を追い込んでしまうよりも、今日を楽しく過ごしたいという気持ちが今は強いんです。

ご自宅でもできる範囲で、積極的に自主トレに励んでいる

佐藤さんが脊髄梗塞から目覚ましい回復をされた背景には、長年体操に取り組まれて、日頃から身体を鍛えてこられたこともプラスになったとお考えでしょうか。

佐藤さん:主治医から「ほかの患者さんとは回復力が違う」と言われました。小さいころから身体を動かすことが好きでずっと続けてきたので、それは良い影響を与えているんだと思います。木登りをしたり、細い道をあえて歩いてみたりしたことで、身体の動かし方や「こう動かすとこう反応する」ということが身に付いています。トレーニングをする上では、そういった積み重ねが少しは回復に役立っているなと思います。

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