暮らしの中で健康になるまちづくり【後編】-実践事例とまちづくりのこれから

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超高齢社会を生きる私たち。実は今、“暮らしの中で健康になるまちづくり”が、注目されています。

理学療法士として活躍されたのち研究の道へと進み、現在は暮らしの中で「健康になるまちづくり」に取り組まれている、千葉大学予防医学センターの井手一茂さんにお話を伺いました。

前編では、井手さんが理学療法士として活躍された後、なぜ研究職を目指されたのか。そして、研究対象としている「健康になるまちづくり」のイメージについてお話を伺い、ハード面だけでなく、ソフト面やICT技術の導入も関わってくるというお話を聞かせていただきました。

後編では、実際のプロジェクトを例に取り、より具体的に「健康になるまちづくり」の姿に迫ります。

具体的な実例について

井手さんの所属する千葉大学予防医学センターにて、「健康になるまちづくり」として実際に取り組まれた事例を教えてください。

井手さん:2018年に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の助成事業「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」に採択された、「WACo : Well Active Community」は、千葉大学が主導したプロジェクト(2018〜2023年)です。

基本的に、私たち千葉大学予防医学センターは人とのつながり、つまり、社会的な交流を持たせるという点をとても大切にして、まちづくりをしてきました。また、建築を専門とする先生方もいらっしゃるので、まちのデザインについてもこだわっています。

いくつか、WACoのプロジェクトレポートに掲載している事例をご紹介します。

電動カート導入による外出支援

超高齢社会において高齢者の移動支援は重要な課題である。ヤマハ発動機株式会社との共同研究(共同研究期間:2021.6.1~2026.3.31)では、時速20キロメートル未満で公道を走る電動カート(グリーンスローモビリティ)を利用した移動支援を実施。電動カート利用者で新たな交流や明るい気持ちを感じるなどの心理社会的指標が良好に変化しており<1>、心理社会的な指標が良好になった方たちは要支援・要介護リスクも低下していた<2>

<注釈1>
田村元樹、井手一茂、花里真道、中込敦士、竹内寛貴 、塩谷竜之介、阿部紀之、王鶴群、近藤克則. 地域在住 高齢者におけるグリーンスローモビリティ導入による外出、社会的行動、ポジティブ感情を感じる機会の主観的変化: 前後データを用いた研究. 老年社会科学 45(3) 2023, 225-238.
2023年10月25日発表プレスリリース「高齢者の移動支援における新たな可能性の検証 電動カート(グリスロ)は”動く交流の場”!?-利用者では「外出」約1.9倍、さらには「こころ」、「人とのつながり」まで2.1~5.2倍に-」

<注釈2>
渡邉良太、斉藤雅茂、小林周平、井手一茂、福定正城、近藤克則.電動カート導入による高齢者の主観的変化と要介護リスクの関連:1 年間の縦断研究.日本公衆衛生学会雑誌.早期公開.https://doi.org/10.11236/jph.25-001
2025年8月26日発表プレスリリース「電動カートがきっかけで高齢者の要介護リスクが低下?~「楽しみ」「明るい気持ち」「生きがい」の増加で、要介護リスク低下の傾向~

日常生活の「資源出し(ごみ出し)」をきっかけとした地域交流促進

地域住民が資源を持ち寄り、気軽に集えるコミュニティスポット「互助共助コミュニティ型資源回収ステーション」の設置にアミタホールディングス株式会社と取り組んだ。この仕組みにより住民同士の交流が自然に促進され、利用者は要支援・要介護リスクが低下していた<3>

<注釈3>
Abe N, Ide K, Kawaguchi K, Kumazawa D, Kondo K. Association between community-based resource collection site use and functional disability risk among older adults: A Quasi-experimental study. PLoS One. 2025 Oct 15;20(10):e0332327. doi: 10.1371/journal.pone.0332327.
2025年11月7日発表プレスリリース「互助共助コミュニティ型資源回収ステーションの利用で高齢者の要介護リスクが約15%低下」

TOKIWALK~ときわだいらの森を歩こう

松戸市、UR都市機構、千葉大学予防医学センターの3者で、高齢化率が高い常盤平団地にて、地域内の22箇所のチェックポイントを歩いて巡る健康プログラムを設置、運営。現地サインの二次元コードからアクセスすると、チェックイン情報が記録され、利用状況に応じて達成度の表示や健康コラムの取得などのフィードバックが得られる。収集したデータからは、「プログラムを日常生活の一部に組み込んでいらっしゃる方もいそうだ」と読み取れた。歩幅を計測してできるチェックポイントもある。

商業施設における健康プログラム

イオン株式会社・イオンモール株式会社との共同研究として、スマートフォンのアプリを活用したウォーキングプログラムへの参加が歩数の増減に関わるかを検証。結果、参加により約1,200歩の歩数増加がみられた。特に都市部と郊外、大型モール、女性、高齢者で、歩数が多く増加する可能性が示された<4>。ポイント付与を活用した歩行促進が期待される。

<注釈4>
Matsuoka Y, Yoshida H, Hanazato M. A Smartphone-Based Shopping Mall Walking Program and Daily Walking Steps. JAMA Netw Open. 2024 Jan 2;7(1):e2353957. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.53957.
2024年1月31日発表プレスリリース「スマートフォンアプリを活用したショッピングモールでのウォーキングプログラムに参加で歩数増を確認」

出典:「WACo -Well Active Community- プロジェクトレポート 2018-2024」(Well Active Community 共創コンソーシアム)

井手さん:「歩きに行こう」と思って行動する人は、少ないと思うんです。しかし、人との交流だったり、買い物だったり、なにか楽しいことがあるから行こうと行動する人は結構多いんですよね。

また、今注目されているのが、一緒に食事をとることです。「共食」とも言われますが、これが人の健康に寄与しているとされていて、健康日本21(第三次)でも地域等での共食する人を増やすことが目標に掲げられています。

私たちは今、千葉県四街道市さんと岩渕薬品株式会社さんと一緒に、自然に心も体も健康になる四街道をつくる「四つ葉プロジェクト」に取り組んでいます<5>。その一環で、四街道市立図書館で実施した取り組みが、「朝飯図書館」です。開館前の図書館でゆっくり勉強や読書をする「朝活図書館」という取り組みがあるのですが、そこで朝ごはんを提供します。千葉大学予防医学センターと岩渕薬品株式会社さんが設置した「健康まちづくり共同研究部門」を軸に2024年から始めて、今年で2年目です。

朝飯図書館を手伝うボランティアメンバー

井手さん:皆さん、健康になろうと思って図書館に来るわけではないけれども、身体活動の機会になる。地域の方もボランティアとして参加してくださっており、地域の見守りにもつながってきていると感じています。

今年はお米の手配が難しかったのですが、四つ葉プロジェクトでつながったお米の会社にお勤めの地域の方が寄付してくれました。本当にありがたいです。

<注釈5>
井手一茂,河口謙二郎,近藤克則,片桐大輔,中込敦士: 産官学民連携で取り組む四街道市における健康まちづくり:コレクティブ・インパクトのコンセプトに沿って整理した初年度の成果と課題.日本公衆衛生雑誌 2025; 72(10): 808–818. doi:10.11236/jph.24-120

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