楽しくフレイル予防、健康体操教室の一コマ 【第8回:前編】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~訪問リハビリテーションで患者さんの在宅生活を支える伊藤清弘さん~
利用者一人ひとりに寄り添う訪問リハビリテーションは、これからさらに重要度を増していきそうですね。伊藤さんは、福祉用具もご専門でいらっしゃいますが、どういったサポートをされているのでしょうか?
伊藤さん:福祉用具は在宅で生活する要介護者の自立を支えるとともに、介護者の負担軽減にもつながる、なくてはならない存在となっています。主な福祉用具としては、ベッド、車いす、手すり、ポータブルトイレなどが挙げられます。
これらを適切に選定するために、まず重要となるのが観察と評価です。利用者の方がどこに手をついて移動しているのかといった動線を実際に確認し、動作を観察しながら、どこに困難があるのかを丁寧にヒアリングしていきます。次に、レンタルや購入をする前にデモ機などで試しに利用してもらいながら試行錯誤を重ね、必要に応じて長さの調整や設置場所の修正等をおこなっていきます。
そして最後に重要なのが操作指導です。福祉用具は「モノ」であり、正しい使い方を指導して初めて本来の役割を果たします。例えば、ベッドのギャッジアップ(背もたれや膝の角度の調整)の方法や、車いすでの適切な姿勢、移乗の方法などをしっかり説明することが不可欠です。また、利用者のご家族自身が用具のスペックを理解し、実際に試してみることも忘れてはなりません。特にマットレスの種類による感触の違いや、車いすの座面の感覚などは、体験してこそ理解できる部分が多くあります。
導入の際にもっともハードルが高いのがリフトです。難病や脊髄損傷、重度の脳血管障害のある方の場合、吊り具の装着に手間がかかることもあり、利用者や介護者に受け入れてもらうまでに苦労することがあります。しかし、一度受け入れていただければ、その有用性を実感され、日常生活に欠かせない用具として活用されるようになります。
福祉道具を適切に選定、導入するには、豊富な知識だけでなく、多角的な視点や経験が必要となるのですね。また、住宅改修にも関わられていると聞きました。どういったきっかけで取り組まれるようになったのでしょうか?
伊藤さん:住宅改修の活動は、「退院前訪問」から始まりました。私が退院前訪問に取り組み始めたのは、介護保険制度が始まる約10年前、1990年のことです。当時は診療報酬上の評価もなく、制度としての位置づけもありませんでした。しかし、ある脳卒中片麻痺の患者さんとの出会いをきっかけに、現場に足を運ばずにはいられなかったのです。
その方は、入院中の理学療法によってご自身で歩けるようになり、病棟内では安定して移動できるまでに回復されました。自信を持って退院されたものの、外来で再会した際、「家ではほとんど椅子に座って過ごしています」と話されました。理由は明確でした。自宅には段差や敷居があり、動線も複雑で、安心して歩ける環境ではなかったのです。
病院の平坦なフロアで「歩ける」ことと、段差のある自宅で「生活できる」ことは、まったく別の問題でした。そのとき私は、「退院前に生活の場を見なければ、リハビリテーションは完結しない」と強く感じました。これが、制度化以前から手探りで始めた退院前訪問の原点です。
私の住環境支援は、急性期病院での退院前訪問と、生活期における訪問リハビリテーションという2つの実践を軸に続いてきました。急性期では、病院で回復した機能を在宅生活へとつなぐ橋渡しを担い、実際の生活空間を想定しながら必要な環境調整や福祉用具の提案をおこないます。一方、生活期では、フレイルや加齢に伴う病態の変化を踏まえ、実生活の中で課題を見いだし、より具体的な住環境整備へと結びつけていきます。
かつて従事した舞鶴市の「すこやか住まい相談」という事業では、一級建築士と理学療法士がペアで訪問し、専門的助言と改修補助を組み合わせた支援を10年以上継続してきました。この経験を通して建築分野についても学び、住宅の図面を作成できるまでに専門性を高めてきました。これまでに訪問した住宅は約1,000軒にのぼります。
住宅改修というと、手すりの設置が主な仕事と思われがちですが、理学療法士の役割はそれにとどまりません。対象者の動作を丁寧に分析し、生活動線を確認しながら安全な方法を検討します。また、疾患の進行や身体機能の変化を見据えた改修計画を立てること、本人だけでなく家族の生活も視野に入れることも重要です。さらに、改修後のフォローアップを通して実際の生活に適しているかを確認し、必要に応じて調整を重ねていきます。
訪問リハビリテーションでは日々の関わりがあるため、変化に応じて随時修正できる点にも大きな意義を感じています。住環境の提案は単なる環境整備ではなく、その人のこれからの暮らしを共に描く営みだと考えています。その人らしい生活を支える理学療法士でありたい。その思いを胸に、これからも住環境支援に取り組んでいきたいと思います。
楽しくフレイル予防、健康体操教室の一コマ ご自宅でもその人らしい生活ができるよう、利用者目線でサポートされているのだと感じます。最初のキャリアとなった市立舞鶴市民病院でのご経験も、現在のセカンドキャリアに生きているのではないでしょうか。
伊藤さん:1984年に入職した市立舞鶴市民病院では、脳神経外科と整形外科の急性期から慢性期医療に従事しました。介護保険が始まる前で制度が整わない中、早期退院となる患者とその患者家族の退院後の生活をめぐり、医師とは衝突したこともありました。
試行錯誤しながら経験を重ねるうち、「在宅へのビジョンを示し、患者や家族に在宅のイメージを持ってもらう」がモットーになり、現在のセカンドキャリアへと自然とつながっていきました。
急性期から在宅まで、40年間仕事が続けられたことに感謝しています。また、体調管理をしてくれた妻にも感謝は尽きません。
「理学療法」は楽しい、そして奥深いです。まだまだ学ぶことも多く、一生かけて探求するに値すると思っています。果たしてどこまでやれるか、日々挑戦!です。
おわりに
「その方の生活の場を見なければ、リハビリテーションは完結しない」との思いから訪問リハビリテーションに従事されている伊藤さん。理学療法士は「身体機能に働きかける技術者」との視点を持ちつつ、福祉用具や住宅改修に至るまで、自ら課題感を持って道を切り開いていらっしゃいます。
訪問リハビリテーションのニーズやその役割が広がっていくなかで、利用者の日々の生活やその後の人生までをサポートしたいという伊藤さんの思いは、利用者やそのご家族をはじめ、多くの方の心の支えになるのではないでしょうか。
後編では、伊藤さんの健康管理法について伺っていきます。お楽しみに。
※本文中の発言は、インタビューに応じてくださった方の個人の見解を尊重して掲載しています。