【第1回】東日本大震災から10年~理学療法士として今伝えたいこと:災害時の車いす避難

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東日本大震災から今年で10年が経ちました。今週から5回にわたって、東日本大震災を振り返り、私たちが今伝えたいことを掲載していきます。

近年、在宅で介護保険サービスを利用されている高齢の方が増えています。その中には、災害時に何かしらの移動支援が必要となる可能性が非常に高い方が多くいらっしゃいます。

そこで今回は、車いすを利用されている方やそのご家族、避難時に支援される方に向けて、車いすでの避難について紹介します。お話をうかがったのは、徳島文理大学の柳澤幸夫さん(理学療法士)です。

車いす避難の問題点と対応

まずは、私たち(筆者ら)が実施した調査の結果をご覧ください。
※Nはアンケートの回答者数です。

これらの調査結果からわかることは、適切な避難方法・経路を知らない方が多く、また、避難経路自体も適した整備がなされていないということでした。

避難経路の一部は自治体により整備が可能と考えられますが、すべての避難経路の整備には多額の費用も必要となり、困難です。そのため、介助が必要な方が現状の避難経路でも避難する場所まで移動ができるように、複数名(2~3名)で避難支援することが求められます。

事前の心構えの大切さ

複数名での避難支援を可能とするための取り組みのひとつとして、私たちがおこなっているのが「車いす避難サポーター養成講座」です。読者のみなさんに事前の心構えとして役立てていただけるよう、その内容を元に車いす避難について紹介していきます。

車いすで避難をする際、路上には多くの障壁が存在します。路上に平時からあるものでも車いすの前輪が引っかかると、車いすごと転倒することにつながります。例えば、気づかないような小さな段差でも前輪が引っかかったり、また路上にある用水路の溝蓋(グレーチング)や神社、寺の敷地内の砂利に、前輪が沈み込んでロックがかかったりすることなどが転倒の原因です。

これらは平時の車いす移動でも問題となる部分であり、高台避難の一部には神社や寺の敷地内の経路が含まれています。また、有事の際には路上の液状化、がれきの散乱、階段の昇降等、車いすには障壁となるものに遭遇することが想定されます。

災害時の障害物例

移動支援に必要なスキル

車いす避難サポーター養成講座では、これら6つの障害物を乗り越える車いす移動支援が体験できるキットを作成しています。車いすの基礎等を学ぶ講義と、支援方法を学ぶ実技で構成し、理学療法士の視点で車いすの基礎知識や平時からの介助方法のスキル、車いすの転倒へのリスク管理などをお伝えしています。

実技では実際に路上にある車いすにとっての障壁、また有事の際に発生する可能性のある障壁を体験して、車いす避難支援が安全にできるスキルを身につけることを目的としています。

養成講座で実技を体験した参加者が難しいと感じた箇所は、「車いす乗車者への配慮」と「2人介助による階段昇降」が最も多く約60パーセント、「車いす2人介助」、「車いすキャストアップ」と続きます。また、「車いすの基本操作」自体が難しいと答えた方もいました。「車いす乗車者への配慮」は実際に体験しないとわからないので、ぜひ乗る側を体験してみてください。

「車いす2人介助」や、「2人介助による階段昇降」は、車いすを支える位置によっては少し力を必要とします。より力のある方にその位置を担当してもらうなど、役割分担の工夫が必要です。事前に練習してコツをつかんでおくと、いざ避難するときの助けになるでしょう。

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