【第1回】東日本大震災から10年~理学療法士として今伝えたいこと:災害時の車いす避難

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車いす避難を実践してみよう!

ここで、災害時に想定される障害物の乗り越え方を2つ紹介したいと思います。

まず、1つ目はグレーチングの乗り越え方です。グレーチングとは用水路等の上に敷かれている網目状の溝蓋で、路上のあらゆるところにあります。そこに車いすの前輪がはまってしまうと、タイヤがロックされて、車いすの転倒につながります。

前輪がグレーチングに落ちるのを防ぐには、網目に沿って車いすを押すのでなく、斜めに走行しましょう。普段はグレーチングを避けて通っているかもしれませんが、災害時は急いでいたり、焦っていたりして足元を見落としてしまうので、注意が必要です。

2つ目はがれきの乗り越え方です。地震により、路上にがれきが散乱することが想定されます。そのときは、最低2名の支援者が必要です。

がれきの上を通れないのは、車いすの前輪が障害物に引っかかるからです。タイヤの大きな後輪は、ある程度の障害物を乗り越えることができるので、後輪を上手く利用すれば進みやすくなります。そのため、車いすを後方から押す係と、側方から前輪を持ち上げる係で役割分担をおこなってがれきを乗り越えましょう。

車いす避難のために用意しておくこと

  • 避難時のルートを決めておきましょう
  • 照明器具を用意しましょう
  • 移動支援具を用意しましょう

いざという時に備えて今から準備できることは、まずはご自宅から避難場所や避難所までの経路を事前に把握することです。そして避難時のルートを決めておきましょう。

一度車いすを使用して走行すれば経路の特性が把握できます。また、経路の周囲に倒壊の可能性があるものが見つかれば、別の経路を考える必要も出てきます。災害が発生するのは昼夜を問わないので、経路の前方が見えるように照明器具も用意しておくとよいです。

また、車いすに移動支援具を用意しておくと、役立ちます。一例ですが、大人用抱っこ紐などが便利で、私の研究室では「ちょい楽ばんど®」という製品の有効性評価に協力したことがあります。

バンドなどを使って負担を減らしましょう!

ベッドなどの上で布部分を広げて、介助が必要な方の身体の下に敷いてベルトを留めたら、足元側からベルト部分をくぐって相手を抱え、持ち上げます。手だけで体を抱えるのと比べ、持ち上げるときに腰の負担が減り、なおかつ連続歩行できる距離が延びることがわかっています。バンドは丸めて小さくなるので、車いすの後方にあるポケットにも入れておくことができます。

このような移動をサポートするものは、限られた時間で避難しなければならないときにとても有効です。

◆有効性に関する試験結果について(ちょい楽ばんど®を使用した場合)

  • 腰部への負担…13.4パーセント軽減
  • 歩行距離…11.8パーセント(51.6メートル)増加
    ※60キログラムの人が18キログラムの人形(体重の30パーセント負荷)を抱いて6分間歩行した場合
ちょい楽ばんど®

助け合いの心で

最後に、理学療法士(特に訪問リハビリテーションに関わっている方)は、地域で在宅療養をされている方の身体的特性、移動能力、居住地域の位置情報などを把握していますので、他の職種の方と連携して個別避難計画を立案するなど、避難対策に貢献できます。災害時の避難でわからないことがあれば、理学療法士に相談してみましょう。

車いす避難をスムーズにするためには、各自治体や地域の医療・福祉施設、自主防災会などと連携し、避難しやすい街づくりをおこなうことも必要です。防災・減災対策として、ソフト面では車いすのことが理解でき、有事の際にすぐに手が差し伸べられる人材を地域でたくさん育成しておくこと、ハード面では避難所・避難場所、避難経路などの整備計画を立て、進めていくことがとても重要だと考えます。

そのためにも、まずは、身近にいる避難時に支援が必要なご家族の避難について理解を深め、避難方法やルートを確認しておきましょう。

平時に準備しておきましょう!

今回は車いすで避難するためのスキルなどをご紹介しました。車いすであってもいざという時の操作方法や起こりうる障害物を知っていれば、緊急のときに落ち着いて行動する助けになります。ご家族に車いすを利用されている方がいる場合は、ぜひ家族全員が車いすの操作方法の確認や役割分担をおこない、2人以上で介助する練習をしておいてください。

そしてご家族に支援の必要な方がいないご家庭でも、ご近所の支援が必要な方の存在を話し合ってみるなど、助け合う心を忘れず、いざという時に備えましょう。
次回はハザードマップの活用術についてご紹介します。

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