【第3回】発達障害を知ろう!姿勢が悪いなどには、理由がある!?~身体篇~
発達障害がある子ども達は、一人ひとりの特徴に合わせて環境や関わり方などを工夫することで、日常生活が過ごしやすくなります。
第2回では、発達障害のひとつである発達性協調運動症(DCD)がある子どもとご家族の運動に関する悩みに対して、関わり方や相談窓口をご紹介しました。第3回である今回は、発達障害の身体症状のお悩みついて、原因や気を付けてみるポイントなど理学療法士の深澤さんに伺います。
【特集】発達障害を知ろう!
ご家族や支援者の相談事は?
深澤さんは、発達障害がある方々やご家族、支援者などからの相談にのる機会が多いと思いますが、どのような相談事があるのでしょうか。
深澤さん:相談事は、「姿勢や運動」、「身体の相談」、手先の動きを含む「日常生活の動作」、「生活面の課題」など多岐にわたります。
それらの相談事は、運動の苦手さ、手先の不器用さに関わるものでも、必ずしも発達性協調運動症(DCD)と診断されているわけではありません。自閉スペクトラム症(ASD)や、注意欠如多動症(ADHD)、知的発達症(ID)などの子ども達の運動の不器用さの相談にも対応することがあります。
発達性協調運動症(DCD)の診断にかぎらず、発達障害がある子ども達の中には、運動が苦手、手先が不器用な子が多くいるのですね。 実際、どのような相談事があり、対応をされているのでしょうか。
今まで受けた相談の中で、幼児期から学齢期の発達障害の子どもの「姿勢や運動」、「身体」の相談例をご紹介します。
- 姿勢が崩れやすい
- 転びやすい
- つま先立ちでいることが多い
- 体幹が弱い
- いつも口が開いていて、唾液が垂れてくる
- ダンスがうまくできない
- ドタバタ歩く
- 走り方がぎこちない
- 縄跳び、鉄棒、跳び箱ができない など
相談事に対しては、今現在、日常生活にどのような困難さがあるか、将来どんなことに困るのか、という視点で対応しています。
「姿勢や運動」「身体」の相談事には、さまざまな悩み事があるのですね。事例をご紹介していただけますでしょうか。
PROFILE
Sくん (6歳・男の子 幼稚園と児童発達支援事業所を利用 )
・診断名:自閉スペクトラム症(ASD)
・家族は、Sくんの姿勢が崩れやすく、姿勢が悪いこと、ペタペタ歩くこと、立ってズボンが穿けないことなどが気になっている。
Sくんのご家族が気になっているように、発達障害がある子ども達は姿勢の崩れや姿勢が悪いなどの症状を伴いやすいのでしょうか。
深澤さん:「姿勢が崩れやすい」や「姿勢を保てない」などの相談は多く伺います。姿勢を保つための「感覚」と「身体」の3つの視点をお伝えします。
一つ目は、バランスの影響です。垂直と平行を感じ取る平衡感覚といった感覚が上手く働いていない場合があります。視覚、平衡感覚やバランス感覚(前庭感覚)、身体の感覚(体性感覚)が影響しています※1。
二つ目は、筋肉の張りを調整する力の影響です。筋肉の張りを調整する小脳などの部分がうまく働かないことで、筋肉の張りの状態をうまく調整できず、低い緊張(低緊張)になると言われています※1。
三つ目は、深層筋と表在筋の影響です。深層筋と表在筋の調整が上手く働かないことがあります※1。
その他、姿勢は、課題、環境の影響も受けます。
例えば、勉強や食事の時の姿勢の崩れは、課題が難しく頑張っているとき、書くことに集中していて姿勢まで注意が向かないとき、課題が難しすぎて嫌になっているときなどです。
そのため、身体の視点を軸に、そのほかの影響もみていきます。
姿勢が崩れやすい子どもに対して、どのような支援が必要なのでしょうか。
深澤さん:まずは、いつ、どこで、どんなときに姿勢が崩れやすいのかを確認していく必要があります。
第2回でも出てきました「環境」、「課題」、「個人」の視点でお話しします。
「環境」の視点は、例えば机や椅子のサイズと身体の大きさを合わせたり、滑り止めを敷いたり、姿勢保持目的のクッションを使用するなどの対応があります。
また、授業であれば座る席を前にして集中しやすくすることや、食事であればテレビを見ながら食べないなどがあります。
「課題」の視点は、子どもにとって課題の難しさは適切か、確認をすることがあります。授業であれば内容が難しすぎないか、食事に用いる道具は発達段階に合っているかなどです。
「個人」の視点は、姿勢を維持するための筋力や筋の出力があるのかどうかという視点です。椅子に座っている以外の時間で、日々の活動量を増やしたり、未学習な動きの学習、腹筋群や背筋群など筋出力を発揮できる運動を取り入れたりします。長い目で身体を育てていく視点です。
周囲の態度としては、良い姿勢を求めすぎないことも必要です。
我々大人も常に良い姿勢を保つことは難しく、同じ姿勢を長い時間とることはとても大変です。
身体を育てていく長期的な視点を持ちつつ、今現在の姿勢が崩れている原因には、声掛けをして短い時間シャキッとすればOKくらいの感覚で見守っていくことも必要です。
長期的な視点で身体を育て、見守るという考えも大切なのですね。
Sくんのご両親は、姿勢の他にペタペタ歩くことが気になっているようですが、どのような症状が関連しているのでしょうか。
深澤さん:一例として、関節が柔らかい症状や足の土踏まずがみられない扁平足のような症状があることが原因の場合があります。
これも先ほどお伝えした、低緊張の症状が関わっていることが多いようです。足で体重を支えきれず、足のアーチが崩れやすくなるようです。
土踏まずが扁平となると、動きにくさや疲れやすさ、将来、足の痛みにつながる可能性があります。私が相談に対応している成人の知的発達症の方には、足の悩みを抱えている方が多くいます。将来を見据えた身体の健康のために、足の筋肉の発育や靴選びの視点も大切だと考えます。
ペタペタと歩くのには、理由があるのですね。保護者や支援者はどのようなことを日頃から気をつけてみれば良いでしょうか。
深澤さん:まず簡単にできることとして、靴の履き方に気をつけることです。
「踵をトントン」して、「ベルトをしっかり留める」など、靴をしっかりと履くところから始めるのが良いと思います。
子どもが上手にベルトを留められない場合は、仕上げは大人がしてあげると良いです。
また、靴や上履きの選び方も大切です。
靴の選び方は、踵がしっかりしている、ベルトなどでしっかり留められる、中敷がとれる(サイズが確認しやすい)などがポイントです。
踵の傾きなどの症状が強い場合は、ハイカットシューズを勧めることがあります。
また、症状がかなり強い場合は、医師が診断し、オーダーメイドのインソールが処方される場合もあります。
自宅でできることとして、「足指でタオルを掴む運動」、「足指でお手玉を掴んで離す」などの足指を使う運動も良いかもしれません。
Sくんに対しては、どのような支援を行ったのですか?
深澤さん:家族の心配事に、「姿勢の崩れやすさ」、「ペタペタ歩く」、「立ってズボンが穿けない」などが挙げられました。
「姿勢の崩れやすさ」は、食事の時に注意が逸れている時(環境)、学習で頑張っている時(課題)に認められました。注意が逸れる原因と考えられたテレビは、「消す」という提案をし、学習の時は姿勢の崩れが大きすぎる時のみ声掛けをしてもらうようにし、一度シャキッとできたらOKとすることを家族と共有しました。
「ペタペタ歩く」は、関節が柔らかい、扁平足などの症状があったため、靴の選び方(環境)と、足指を使う運動(個人)をお伝えしました。
「立ってズボンが穿けない」は、片足立ちが安定してきた様子があったので、壁に背中をつけて(環境)ズボンを穿く方法をご自宅で取り入れてもらいました。
理学療法の場面では、Sくんに必要な運動の要素を取り入れた全身運動を行いました。運動の介入は、運動機能の改善に留まらず、人や物を傷つける行動や衛生的に影響がある行動などの改善、生活の質の向上などの効果があると言われています。Sくんには、はいはいの動きや手押し車、片足立ちなどのバランス練習、また、サーキットのような運動遊びを行い、楽しく運動ができるよう取り組みました。
今後の対応は、Sくんの経過を観察していきながら、状況に応じて変更していく予定です。
Sくんのご両親のように身体で気になることがある際には、どこに相談すると良いでしょうか。
深澤さん:足の痛みなどの症状などがある場合は、整形外科などの病院受診をお勧めします。
身体全般の相談は、理学療法士や作業療法士が得意です。保険医療機関や、療育機関(児童発達支援センター、児童発達支援事業所など)、放課後等デイサービスに所属している場合があります。
また、以下のような教育機関に所属している場合もあります。
- 特別支援学校(理学療法士が配置されているところもあります。※都道府県や市区町村によって異なります)
- 特別支援学級、通常の学級(学外の理学療法士が学校に伺って支援する場合があります。※都道府県や市区町村によって異なります)
その他、お住まいの市区町村の福祉関係の窓口や保健センターなどにお問い合わせすることをお勧めします。
おわりに
第3回では、発達障害の身体症状のお悩み(扁平足や姿勢の崩れなど)について、原因や日頃から気を付ける点などをご紹介いただきました。靴や上履きの選び方や足指でタオルを掴む運動など今日から参考にできそうですね。
第4回では、発達障害の「日常生活の動作」や「生活面」の悩みごとに対して、関わり方や工夫点などを深澤さんにご紹介していただきます。
※1 以下を参考に作成しています。
新田修、田中治「発達障害の不思議な世界~その理解と評価から導く最適な指導法」(ヒューマン・プレス、2021年4月発行、P208)
PROFILE
深澤 宏昭(ふかさわ ひろあき)理学療法士、保育士、公認心理師
2009年理学療法士免許取得。同年、相模原療育園に入職し、現在に至る。 医療機関での外来理学療法を中心に、児童発達支援センター理学療法士訪問や特別支援学校訪問、非常勤で小児科クリニックでの個別相談、作業所巡回相談などで、発達障害(神経発達症)の方々とご家族、支援者の相談に対応している。