【第4回】発達障害を知ろう!事例と関わりから子ども達の将来の自立を育もう!~生活篇~
連載でご紹介している「発達障害を知ろう!」では、発達障害の概要や運動、身体のお悩みに応じた支援や関わり方、相談窓口などをご紹介しています。
第4回は、生活面に着目して発達障害の子ども達やご家族、支援者などの悩みや事例を通して、支援や関わり方などをお伝えします。
【特集】発達障害を知ろう!
生活場面での悩み事
深澤さんは、発達障害の子ども達やご家族、支援者などの相談にのられていますが、「日常生活の動作」や「生活面」ではどのような相談事があるのでしょうか。
深澤さん:「日常生活の動作」や「生活面」の相談事は、以下のようなものがありました。
- 食事の時に座っていられない
- 食べこぼしが多い
- 身体が洗えない
- 着替えられない
- 傘がさせない
- 手洗いが上手くできない
- 筆圧が弱い
生活場面での悩みには、さまざまなものがあるのですね。相談事に対して、深澤さんはどのように対応しているのでしょうか。
深澤さん:まずは日常生活の動作がなぜ苦手なのかを分析していきます。
相談事への対応は、身体や運動の視点で専門的にみていきますが、そのほかに認知面や手指の細かい動きなどの発達段階、感覚の過敏さや鈍感さ、こだわり、不注意、衝動性などの特性が影響していないか、多面的にみて相談に対応しています。
生活の中で、子ども達が自分でできる日常生活の動作を増やすためには、どのような関わり方や視点が大切なのでしょうか。
深澤さん:まずは、「生活リズムを整えること」、「生活の環境を整えること」、「基本的な態度(叱らない、褒めるなど)」が大切と言われています。
その上で、日常生活の動作は「子どもの発達段階に合わせる」ことを意識して、少しずつできることを増やしていくことが大切です。
子ども達の自分でできる日常生活の動作を増やすことで、感覚と運動能力が育ち、能力を発揮する場面が成長の育みや自尊心の育みへとつながります。さらに「将来、自立へと向かっていくこと」を意識しながら、今支援できることを行なうことが大切です。
「日常生活の動作」や「生活面」で、悩み事を抱えている事例をご紹介していただけますでしょうか。
PROFILE
Rくん (4歳・男の子 児童発達支援センターを利用 )
・英語の動画に夢中になっている
・診断名:自閉スペクトラム症(ASD)、中度知的障害(知的発達症)
・家族は、うまく手が洗えないこと、スプーン・フォークが使えないこと、ジャンプができないことを心配している。
Rくんの「うまく手が洗えないこと」のように生活場面で困っている場合、その動作の上達に繋げていくには、どのような支援が必要なのでしょうか。
まずは、姿勢・運動面や認知面、手先(微細運動)の発達段階を確認し、その課題が子どもにとって難しすぎないか確認することから始めます。
日常生活の動きを学習するために、どのような方法が伝わりやすいか、どのような動きが上達を促すか検討をします。
子どものペースに合わせて、日常生活の動作や基本的な動きの学習経験を積んでいくことは、手先の器用さや運動の上達に繋がっていくと考えられます。
「子どものペースに合わせる」ということが大事なのですね。日常生活の動作や基本的な動きとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
深澤さん:日常生活の動作は、個々人が日常生活で必要とする動作です。例えば、着替え、食事、整容、排泄、移動など毎日の生活に必要な動きのことです。
また、日常生活の動作を支える基本的な動きも大切です。
基本的な動きは、座る、立つ、渡るなどの「バランスをとる動き」、走る、跳ぶ、這うなどの「移動する動き」、「用具などを操作する動き」などがあり、色々な動きの経験を積んでいくことが良いと思います。
日常生活の動作や基本的な動きに支援が必要な場合、周囲はどのようなことに気を付けるとよいのでしょうか。
深澤さん:支援の基本は、子どもの状況に合わせ、スモールステップの支援が基本になります。
なるべく失敗をさせないように課題の難しさや環境を調整し、「自分でできた」経験を積み重ね、できた時はたくさん褒めてあげると良いと思います。
支援の一例として、日常生活の動作の全部を家族や支援者が行わず、日常生活の一連の動作の一部を子どもに実施してもらうことから始めると良いかもしれません(「最初の動作だけやってもらう」または、「最後の動作だけやってもらう」など)。
深澤さんは、理学療法士としてRくんとそのご家族にどのようなスモールステップの支援で関わられたのでしょうか。
深澤さん:日常生活の動作の支援は、他専門職と協力しながら進めていきました。まずはご家族のニーズに基づいて、アセスメントをしました。
手を洗う動作を分けて考えると、1)服をまくる、2)水を出す、3)水で手を濡らす、4)ハンドソープをつける、5)手の平をこすり合わせる、6)指の間を洗う、7)その他の手の部位を洗う、8)泡を流す、9)タオルで手を拭く、などの動作に分けられます。
Rくんの「今できているところ」は手を濡らす、「上手になりそうなこと」は手の平をこすり合わせることでした。
分析に基づき、手と身体の使い方が上達する支援内容を家族に提案しました。
理学療法の場面では、運動遊びを通して、ジャンプを含む全身運動や手を使う遊びを取り入れています。現在のRくんは、動作がひとつずつできるようになっており、支援は継続中です。
発達障害のある方々やご家族、支援者または今回の連載記事を通して発達障害のことを知った方など、様々な方がいらっしゃると思います。深澤さんから読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。
深澤さん:子ども達自身は、運動が苦手、手先が不器用で困っているということに自ら気付くことが少ないように感じます。周囲が気付き、ご本人に合わせた配慮があると子ども自身が過ごしやすくなると感じています。
運動は、まずは「動くことが楽しい」と思ってもらえること、その上で、少し頑張ればできることにチャレンジしてみることが大切です。また、子どもが「上手になりたい!」と思った時に、家族や支援者が子どもと一緒に「どうやったら上手になるか」を一緒に考えていけると良いのではないかと思います。
理学療法士は、支援者の一員として、子どもと家族に寄り添っていける存在であると良いなと思います。今回の記事が子ども達の生活の何かに役立てれば幸いです。
おわりに
全4回にわたり、発達障害(神経発達症)を専門とする理学療法士から、概略や事例、相談窓口などをご紹介しました。発達障害によりさまざまな場面で困っている子ども達に対しての関わり方や気遣いなどを知ることができました。子ども達は、一人ひとり特性があり、スモールステップでの支援が大切であることが印象的でした。
この連載記事が、発達障害のある子ども達への関わり方などを考えるきっかけになれば幸いです。
PROFILE
深澤 宏昭(ふかさわ ひろあき)理学療法士、保育士、公認心理師
2009年理学療法士免許取得。同年、相模原療育園に入職し、現在に至る。 医療機関での外来理学療法を中心に、児童発達支援センター理学療法士訪問や特別支援学校訪問、非常勤で小児科クリニック、作業所巡回相談などで、発達障害(神経発達症)の方々とご家族、支援者の相談に対応している。