【中編】もしバナゲーム開発者インタビュー 開発時に込めた思いと参加者からの反響

「もしバナゲーム」の開発者である3名の医師。今回インタビューにご協力くださった蔵本浩一先生(左)と、原澤慶太朗先生(中央)、大川薫先生(右)
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病気や事故などであなたに「もしものとき」が訪れたら、そのときどんな治療を望みますか?

「もしものとき」に備えて、意思決定のできるうちに自分が望む医療や介護について話し合う過程は「アドバンス・ケア・プランニング」と呼ばれています。ここ数年よく耳にする「終活」もこのアドバンス・ケア・プランニングの一環と言えるでしょう。今、多くの人々の関心を集めている活動です。

しかし、日常の中でこのような重たいテーマについて話す機会を持つのは、なかなか難しいものです。それでも、より多くの人に実際に考えてもらえたら――。

そんな思いで医師たちが作ったゲームがあります。それが、「もしバナゲーム」。

「自分の余命が半年〜1年であるとしたら……」という設定のもと、そのときに自分はどんなケアを望むか、誰に寄り添われたいかなどを考え、周囲に共有するカード形式のゲームです。

連載の前編では、このゲームの詳細や、実際に編集部のメンバーでプレイしてみた様子をご紹介しました。それを踏まえ、中編と後編では、「もしバナゲーム」開発者の1人である蔵本浩一先生へのインタビューをお届けします。中編となる今回は、「もしバナゲーム」が生まれた経緯や開発に込められた思い、活用事例などについてお聞きしました。

「もしバナゲーム」が生まれたきっかけ

早速ですが、「もしバナゲーム」が生まれた経緯についてお聞きしたいと思います。そもそも、なぜこのようなツールを作成しようと思ったのでしょうか。 

蔵本先生:私たちのいる医療の現場では、例えば高齢の方が搬送されてきた際、「人工呼吸器をつけるかどうか」などの判断を、切迫した状況で下さなければならないことが度々あります。このときに患者本人が意識不明などで意思を表明できない場合、ご家族などに判断を仰ぐことになりますが、事前にそのようなことをまったく考えてこなかったというケースもあります。

私はこのようなケースを度々目にし「病院に来ることになって、初めて話し合うのでは遅い」と、医療現場の人間としてもどかしい思いをしてきました。病院に来る必要のないうちから「もしものとき」について想像してもらいたいと感じていたのです。
そこで、病院の外の人たちに何か先回りでアプローチできることはないのかと考えたのがきっかけです。

元気な人たちにも、もしもの事態を想像してもらうきっかけを作りたかったのですね。

蔵本先生:はい。そこで、まずは15分程度の短い動画を使ったワークショップをおこないました。その動画では、ある日高齢の方が倒れ救急搬送されます。その方は、人工呼吸器を使用してなんとか快復し、退院して帰宅することができました。そして帰宅後、家族に「人工呼吸器は2度と使いたくない」と話します。しかし数ヶ月後、再び容体が悪化し搬送されてしまう。人工呼吸器がなければ延命できない状況です。このとき、人工呼吸器を使用するのか、しないのか……。

本人に意識がない中で、家族に判断が委ねられます。娘たちは「延命して欲しい」と言い、配偶者は「もういいのでは」と言います。家族の意見が割れてしまうのです。

登場人物の胸の内を想像すると、なかなか答えは出ないですね。

蔵本先生:そうですね。しかしこのワークショップでは、「だから事前準備をすべきだ」などと押し付けるつもりはまったくありませんでした。そうではなく、誰もが同様の難しい状況に陥る可能性があるのだということ、そして代理意思決定の難しさを、あくまで他人事として感じてもらいたいと考えていました。そのうえで、より身近に起こりうることとして考えてみたいと思う人に向けて、自分で考えてみるためのステップ2の講習を用意しようと考えていたのです。

そのステップ2のためのツールを探していたときに出会ったのが、「もしバナゲーム」の原型である「ゴー・ウィッシュ」というカードゲームです。サンフランシスコから来日した医師から、その存在を聞きました。すぐに入手し使ってみて、これを日本で使えるようにしようと考えました。

導入するにあたり工夫したこと

「もしバナゲーム」の原型「ゴー・ウィッシュ」と出会うまでの経緯や、先生方の願いがわかりました。日本への導入にあたって、工夫したことはありますか。

蔵本先生:日本独自のルールを追加したことです。「ゴー・ウィッシュ」のルールは、1回おこなうだけでかなりの時間がかかるうえ、1人やペアでの使用がメインで、楽しめる要素が少ないものでした。

しかし、カードゲームという形式をとる以上、楽しさやおもしろさは不可欠だと私たちは考えました。そこで、トランプの「51」という遊び方を参考に、「ヨシダルール」という4人プレイ用の日本独自のルールを作りました。これによってゲームとしてもなかなかおもしろいものになったのではないかと思っています。

より楽しめるように、ルールを追加したのですね。カードに書かれている言葉は、そのまま日本語訳したのでしょうか。それとも、日本の文化背景に合わせて修正したものもあったのでしょうか。

蔵本先生:あくまで原文に忠実になるよう、丁寧に日本語に訳しました。文化背景に合わせた修正などはしていません。でも、確かにそこは悩んだ部分です。

例えば、見ていただくとわかるのですが、神様や祈りに関連したカードもあります。このようなカードも、悩んだ末に結局残しています。日本の文化や信仰の背景を考えると不要なのではないかという声は実は今でもあるのですが、私は残してよかったと思っています。取捨選択の作業の中で、自分の価値観とは離れた選択肢を見てモヤっとするということも、このゲームにおいて大切だと考えているからです。

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