【前編】熱中症やケガを予防して野球を楽しもう!~クーリングを活用した熱中症対策編~
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クーリング
クーリングとは、体温が異常に上昇した状態を改善するために、身体を冷やすことです。冷たい水に浸かる冷水浴や氷の使用・水分補給によるクーリングなどがあります。
準備するもの
氷や保冷剤は必須です。その氷を入れる氷嚢もあると良いでしょう。氷嚢がなければ、ジップロックなどのチャック付きビニール袋も使い勝手が良く代用できます。また、前述した手を冷やすための冷たい水を溜められるバケツやクーラーボックスがあると便利です。その他に、うちわやハンディファン、タオルなどがあると良いかと思います。
クーリングの方法
クーリングする際には、頸部(首の後ろ)や腋窩(わきの下)、鼠径部(足の付け根)といった太い血管が通っている場所を冷やすことがポイントの1つです。また、冷たい飲み物が入ったペットボトルやバケツなどで、手のひらを冷やすことも効果的です。大血管や手のひらを冷やしながら、うちわやハンディファンで風を送るとなお良いでしょう。
クーリングの時間は、5~10分程度を目安にすると良いですが、選手の自覚症状や体温の変化に応じて実施しましょう。
クーリングとアイシングの違い
前段にてクーリングについてご説明しましたが、よく耳にするアイシングと何が違うのか疑問に思う方がいるかもしれません。
アイシングは、腫れや痛みを軽減させるために局所を冷やすことです。野球でアイシングをおこなう場合、投球による肩・肘の炎症症状の軽減・疲労軽減を図るために、投球後に実施されることが多いです。
それに対してクーリングは、上昇した体温を下げるために身体全体を冷やすという点で違いがあります。
全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)のクーリングタイムの取り組み
クーリングが活用されている事例として、実際に第105回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)で実施されたクーリングタイムについてご紹介します。
2023年に開催された第105回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)において、5回終了後に10分間のクーリングタイムが初めて導入されました。
クーリングタイムでは、一般社団法人アスリートケアに所属する理学療法士のスタッフが、選手たちのサポートをおこないました。一塁側・三塁側ベンチ裏の通路にそれぞれ、スポットクーラーや送風機を用意し、グラウンドより涼しい空間を作り、選手にはそこで椅子に座って休憩し、水分やアイススラリーを補給してもらいました。
また、ネッククーラーや氷嚢を用いて頸部(首の後ろ)を冷やしたり、冷たい水を溜めたバケツや瞬間冷却剤を用いて手のひらを冷やしたりして、クーリングを実施しました。アイスベストなども準備して、選手の希望に応じて使用していました。
さらに、サーモグラフィーを用いて選手の体温を確認し、熱中症になりそうな選手がいないか探すだけでなく、クーリング前後での変化も確認しました。すると、これらクーリングタイムの取り組みで、体温が十分に下がる選手が一定数確認され、熱中症発生件数が昨年度より減少しました。
一方で、クーリングタイムを設けても熱中症の症状が出る可能性はあるので、随時対策は必要です。
まとめ
前編では、中高生が野球をプレーするための熱中症対策についてご紹介しました。まとめると以下のとおりです。
- 熱中症の予防方法として、スポーツドリンクを液体と微細な氷が混ざったアイススラリーにして補給すると、身体の中から体温を下げるため、効率よく身体を冷却できる
- 氷や水などを使って、頸部(首の後ろ)や腋窩(わきの下)、鼠径部(足の付け根)といった太い血管が通っている場所や手のひらを冷やすクーリングも有効
- 全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)には2023年からクーリングタイムが設けられ、熱中症の発生件数が減少した
全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)では今年もクーリングタイムが実施される予定です。年々気温が上昇している中、今後も熱中症対策が欠かせません。全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)にも取り入れられているクーリングは、身近な方法で実施できますので、スポーツをおこなう際にぜひ取り入れてみてください。
中編では、中高生の野球選手に注意してほしいケガやその予防法などについて稲田さんにご紹介いただきます。
PROFILE
稲田 竜太(いなだ りゅうた)理学療法士
専門分野:運動器理学療法、スポーツ理学療法、膝関節鏡視下術後リハビリテーション(ACL再建術後リハなど)、障害予防(大会支援など)
2013年理学療法士免許取得。同年、運動器ケア しまだ病院に入職し、現在に至る。一般社団法人アスリートケアにも所属し、甲子園健康支援をおこなっている。スポーツ理学療法認定・専門理学療法士。
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