【後編】労働者のメンタルヘルス~今日から実践!セルフケア~

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メンタルヘルス不調に対するセルフケア

メンタルヘルス不調の要因を伺いましたが、実際に自分でできる対策はあるのでしょうか。

ポイントや注意点なども含めて、自分でできる対策をご紹介します。
※重度なうつ症状がある場合は、運動などの疲労を伴う行動が悪く作用することがあります。実施する場合には医師へ相談してください。

  • 身体活動や運動を少しでも多く取り入れよう

最近のうつ病治療の研究では、非薬物療法の一つとして運動療法の効果が注目されています。もちろん、うつ病の状態と医師の許可を得ていることが前提にはなりますが、適切な時期に行うのであれば、身体活動や運動を行うことはその内容によらず、うつ病改善に有用であるとされており、特に強度が高まるほど効果が高く、筋トレは副作用の出現も少ない※1という研究が報告されています。

また、精神・神経疾患の発症予防・改善に対して、運動習慣の違いによる効果が報告されています。身体活動や運動の量が多い者は、少ない者と比較してうつ病、認知症等を含む様々な疾病の発症・病気にかかるリスクが低いこと※2やうつや不安の症状が軽減されるとともに、思考力、学習力、総合的な幸福感を高められる※2,3ことが報告されています。その他にも運動による効果は、神経や脳機能への良い影響等、様々な報告がされています。

  • 無理のない範囲でリズム運動や歩行をしてみよう

「ではどのような運動をしたら良いのか?」ですが、例えばセロトニン神経系の活性化は、呼吸・歩行・咀嚼(そしゃく)などのリズム運動が効果的と言われています。手軽に行える歩行(ウォーキング)は、有酸素運動とリズム運動の効果があり、おすすめです。

リズム運動の実施時間は、20~30分程度が推奨されています。リズム運動をしている間のセロトニン濃度は、運動を始めて5分後くらいから高まり始め、20~30分でピークに達する※4と言われています。ただし、それ以上運動を続けて、「疲れた」と感じるレベルになるとセロトニンの機能は低下してしまいますので、「やりすぎ」は禁物です。

また、歩行は、高齢者を対象とした長期的な研究においても、4,000歩(うち中強度の活動が5分)を目安とすることで、うつ病の予防に繋がる※5と言われています。通常の日常生活の中では、1,000~2,000歩程度を歩いていると仮定すると、こちらでもやはり20~30分の歩行(2,000~3,000歩)を取り入れられると良いことになりますね。

仕事をされている方は、仕事帰りに一駅前の駅で降りて歩くなど、普段の生活動作と結びつけることで、継続しやすくなります。その他に手軽にできるケアとして、科学的にもストレスを軽減する効果があると言われている瞑想(マインドフルネス)などもあります。

ご紹介いただいた呼吸・歩行・咀嚼(そしゃく)は、普段の生活の中でも意識して行えそうですね。歩行は、一日の中でどのタイミングで行えば良いでしょうか。

それぞれの生活習慣やタイミングなどがあるため一概には言えませんが、オススメは、朝か夕方から就寝の2〜3時間前までに20~30分のウォーキングを取り入れることです。
朝は、起床後に朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、セロトニンの分泌が促進されると考えられています。

夕方の運動は、運動による体温上昇の後、自然に体温が下がっていく過程が良質な入眠へと道軸効果があるとされています。
逆に、心拍数を大きく上げる運動は交感神経を活性化する作用があるため、入眠を妨げてしまう可能性も考えられます。そのため、寝る直前の2~3時間の運動は厳禁です。
ストレッチや負荷の少ないヨガのポーズなどの心拍数をあまり変化させないリラックス効果の高い運動は、就寝の直前でも問題ありません。

川村さんからのメッセージ

メンタルヘルス対策と聞くと、「何かに耐えて心を強くする」イメージを抱かれる方も多いかもしれません。しかし、前編からもお伝えしたように、ストレスは必ずしも「心が弱いから」といった原因で起こるものではなく、いつでも誰でも起こる可能性があるものです。

私は、メンタルヘルス対策は、心だけではなく、体から心を健やかにしていくこともできると思っています。ぜひ、読者の皆さんには、身近な生活習慣の中に、今回お伝えしたような対策をうまく取り入れて、心と体の健康を育ててほしいです。楽しくポジティブな気持ちで取り組める、自分に合ったストレス解消法など、ご自身の心と体とうまく付き合っていく方法を、一人一人が見つけていけると良いですね。

※この記事は、2024年10月16日時点での情報で作成しています。
以下を参考に作成しています。
※1 Michael Noetel, et al: Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 1-17, 2024
※2 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(厚生労働省)
※3 「要約版 身体活動・座位行動のガイドライン(日本語版)」(World Health Organaization)
※4 有田 秀穂(2011).脳ストレスが消える生き方 ドーパミン的価値観からセロトニン的価値観へ.サンマーク出版
※5 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 運動科学研究室長 青栁幸利
※協力:株式会社健康長寿研究所 http://kenju-jp.com/

おわりに

前・後編にわたり、ヘルスケア領域を専門とする理学療法士から労働者のメンタルヘルスの概要や相談先、対策などをご紹介しました。
後編でご紹介いただいた対策では、帰り道に少し歩いてみるなど、生活習慣の中でも気軽に取り入れられそうですね。
これを機会にご自身の心と体の状態を確認して、症状に当てはまる場合は、周りの方や専門家に相談してみませんか。

リガクラボでは、労働者に関連する職業病の記事などもご紹介しています。ぜひご覧ください。

【前編】職業病を予防して健康に働き続けよう~産業保健の基礎知識と現状~ 【中編】職業病を予防して健康に働き続けよう~職場に必要な視点と取り組みとは?~
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PROFILE

川村 有希子(かわむら ゆきこ)

川村 有希子(かわむら ゆきこ

日本産業理学療法研究会 副理事長
大学病院等にて理学療法士臨床および大学研究機関出向を経験後、複数企業・団体を経て、企業の健康経営支援や復職支援に携わる。2020年~(独)労働者健康安全機構神奈川産業保健総合支援センターにて、企業へのゼロ災対策支援事業を運営。