【第7回:前編】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~機能訓練指導員として高齢者に向き合う二宮智貴さん~

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足と靴を見直すことは、私たちの生活の向上や健康に大きくかかわるんですね。では、現職となる特別養護老人ホーム ひかりの丘では、どのようなお仕事をなさっているのでしょうか。具体的に教えてください。

二宮さん:リハビリテーションの計画書を作る際には、疾患名にこだわらずに、できる限り詳細に評価するようにしています。ほとんどは理学的な検査ですが、呼吸や胸郭、発語、嚥下、舌、筋緊張や皮膚の色もみます。特に足の指など末梢の皮膚の色と変形はみるようにしています。また、履物を見て、いかに病態像に影響を及ぼしているかも総体的に考えます。履物はその人の状態をよく表しています。

X線やCTの検査画像を入手できれば、そちらも参考にします。そして、装具や履物・福祉用具の適否や要不要も含めて、総合的にアプローチしていくことが重要であると考えています。

かなり多くのケースで状態が良くない部分が見つかるため、その点も含めたアプローチをおこないます。食事の時の姿勢や寝る際のポジショニングを指導することもありますし、食べ物や飲み物を上手く飲み込めないなどがあれば、嚥下障害に対するリハビリテーションもおこないます。

進行したパーキンソン病の方の口腔内や顔面のストレッチをしている様子
嚥下障害が疑われる方に水分を飲ませて、ノドの嚥下音を聞いているところ

ご高齢の方々なので、複数の疾患がある方が多いです。特に診断はついていなくても筋緊張の異常があったり、振せん(ふるえ)が手先動作を阻害していたりと、診断名とは別の疾患の可能性があるケースも見つかります。それらほとんどのケースに共通しているのは、それに注目されないままで経過しているということです。

さらに、装具が必要なのに作られていない、あるいは装具が不適合で有効に使えていない。麻痺であれば、麻痺以外に多くの問題(呼吸・嚥下・発語・装具・杖・履物の不適合、うつ状態など)と多彩な問題を抱えたまま、という方もいらっしゃいます。

そういった場合は、メインの疾患へのアプローチは当然ですが、胸郭の硬さや脊柱や骨盤にもアプローチします。そして、肩や手指・足部・足指の拘縮や変形は、ストレッチで矯正(徒手療法)するなど、総合的なアプローチを心がけています。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、歩行や階段昇降、屋外歩行などを日常の中でおこなう生活リハが中心となりますが、それ以前の必要なリハビリテーションが行き届いているのか、疑問に思うこともあります。ただ、施設の機能訓練指導員は私一人だけなので、すべての人に十分なことができないのも事実です。

発症数年後の片麻痺の高齢者の硬くなった手指をストレッチしていると、「こんなことは初めてしてもらった」との言葉が出ることも珍しくありません。基本的な部分の解決に、最初の段階から向き合うべきだと私は考えています。

成果が上がるようなリハビリテーションがおこなわれていれば、その人のその後の生活も変わるのだと思います。時にリハビリテーションは、その人の人生までも左右します。その重責を、私たち理学療法士は担っているのです。

総合的なアプローチで患者さんと向き合っていらっしゃるのですね。これまでのキャリアが現職に生きていると思う点を教えてください。

二宮さん:ひと言で言えば、今までの経験がすべて融合して、今の業務内容に活かされていると思っています。頚損・神経難病・呼吸・嚥下・装具等々、多岐にわたりますが、各種学会でも、現場では経験できない多彩な知識や考え方を教わりました。

また忘れることができないのは、多くの患者さんが語ってくれた喜びや苦しみ、発した言葉や表情、生き様などです。これらの記憶は、今も私の支えであり仕事への意欲にもなっています。

これまでご経験されてきた患者さん一人ひとりとの積み重ねが、今の二宮さんの力となっているのですね。現在のお仕事で特にやりがいを感じるのは、どういった時でしょうか?

二宮さん:現在は対象者がすべて高齢者で、病気やケガから時間がたった慢性期であることがほとんどです。しかし、前述したように、個々のケースを丁寧にみていくと、まだ改善の余地があるケースを発見することがあります。そこにアプローチして何らかの改善がみられることは喜びです。

また高齢者の方が人生で途方もなく壮絶な経験をされた話を聞くことがあります。もし自分だったら到底、耐えられなかった苦難を乗り越えてきた方の発する言葉は、胸に迫るものがあります。

これは病院時代の話ですが、当時私と同じ年の30代の全身麻痺の患者さんが、「幸せかどうかはその人自身が決めるもの」と話していました。生活のほとんどを介助され、「彼はきっと苦しい思いだろう」と思い込んでいた私は衝撃を受けました。その人自身は幸せだと思っているのです。

今まで自分が治療者という優位な立場にいて、固定概念で接していたことを恥ずかしく思いました。このエピソードも今の私の指針を形成する無数の経験のひとつです。視点を変えれば、「やりがい」はいつでも見つけられると思います。

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