【第4回:前編】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~未病を治す「上医」の考え方に共感し、介護予防に取り組む東根孝次さん~

タイトルとURLをコピーしました。

リガクラボの連載「生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法」。長きにわたりお仕事をされていて、現在も生涯現役を目指して活躍されているベテラン理学療法士の方々に、前編では現在のお仕事(セカンドキャリア)について、後編では日々実践している健康管理法についてお話を伺っていきます。

第4回は、37年間急性期リハビリテーションの最前線で活躍された後、介護予防という新たな分野で活躍を続ける東根孝次さんにご登場いただきます。

PROFILE

東根  孝次さん(ひがしね こうじ)

東根 孝次さん(ひがしね こうじ

1951年徳島県生まれ。1978年に小松島赤十字病院(現 徳島赤十字病院)に入職し、37年間急性期リハビリテーションに従事。2003年より同病院リハビリテーション課長を務め、在職中は徳島県理学療法士会や養成校で心臓リハビリテーションの講師も多数務める。2014年第32回日本理学療法士協会賞、2019年徳島県理学療法士会功労賞受賞。現在は小松島市地域包括支援センターの介護予防サポーターとしてボランティア活動をおこなっている。

東根さんの現在のお仕事(セカンドキャリア)

東根さんは37年間急性期リハビリテーションの最前線で活躍された後、現在は小松島市地域包括支援センターにて介護予防サポーターをされていらっしゃいます。どういったきっかけで活動を始めることになったのですか?

東根さん:退職前の13年間は、認定理学療法士(呼吸・循環)や心臓リハビリテーション指導士の資格を取得し、心臓リハビリテーションを専門として特に急性期リハビリテーションに携わっていました。

急性期リハビリテーションは、治療の早い段階でおこなわれるので、病気や怪我をした直後の方々が対象となります。退院されるまでに再発予防のための生活指導をすることも理学療法士の仕事ですが、生活習慣と関連して発症したのではないかと思われる患者様をたくさん目にしてきました。

そんな時、ある健康雑誌を読んでいたところ、元・横浜市立大学医学部助教授の山本徳子先生が「上医は未病を治し、中医は病みかけている者を治し、下医は既に病んだ者を治す」という孫思邈(そん しばく)の『千金万』の言葉を引用されていました。この言葉に出合い、「今、おこなっている理学療法はどこに入るのだろう?」「退職後は何か予防につながることに関わりたい」と考えるようになりました。

そして退職後、小松島市地域包括支援センターより介護予防サポーターとして活動してほしいと依頼があり、ボランティア活動を始めました。

急性期リハビリテーションでのご経験を経て予防に関心を持たれるようになったのですね。介護予防サポーターとして具体的にはどのような活動をされているのですか?また、その他の活動についても教えてください。

東根さん:介護予防サポーターは、介護状態にならないためのサポートをおこなう人材として、市の地域包括支援センターが養成しています。市から認定を受けた後は、地域包括支援センターがおこなっている運動教室や各種の健康セミナー、各地域での脳トレクラブや高齢者サロンなどでボランティアとして活動します。

私は2018年より小松島市地域包括支援センター(小松島市総合福祉センター)から小松島市の生涯学習課にご紹介をいただき、市民講座「自宅でもできる運動教室」を開催しています。春と秋に各10回、1回80分のプログラムで、50〜80歳代の方が参加されています。

「自宅でもできる運動教室」では、体・運動・健康などについての座学とストレッチ、筋トレの他、マットやラダー、昇降台などを使用した有酸素運動をはじめとする多因子運動プログラムを実施しています。生活習慣病・フレイル・認知症などを予防し、健康寿命の延伸につながればと思っています。

また、市民講座の抽選にもれた方や市民講座がない期間のフォローとして、ボランティアで「ステップ運動教室」を開催し、ほぼ毎週3回、座学と運動指導を80分間おこなっています。

こうした講座の参加者からは、ご自宅等で単独で運動するのは難しいとの意見も多く、運動をおこなえる場を提供する重要性を感じています。

「ステップ運動教室」のボランティア講師を務める東根さん

東根さん:他にも、認知症の方とそのご家族を支援する認知症キャラバンメイトとして、認知症サポーター養成講座の講師も務めています。また、小松島市フレイルサポーターとして市の養成講座の補助やフレイルチェックの担当や、活動拠点の施設と在職していた徳島赤十字病院の庭園への花の提供と管理、シルバー大学院OBとして大学院での体力測定の実施など、幅広く活動しています。

講師を複数受け持つ以外にも幅広くご活躍されているのですね。退職後、新たな資格を取得されたと伺いました。

東根さん:はい、新しく2つの資格を取得しました。とくしま健康寿命マスターとレクリエーション・インストラクターです。

とくしま健康寿命マスターは、県と徳島大学の連携事業で生まれた資格で、健康寿命の延伸に必要な座学や具体的な運動プログラムを学び認定されます。退職後、地域活動での参考にしたいと思い、2年間の研修期間を経て、筆記・実技試験に合格しました。取得後、大学や取得仲間と協力し、各地域に出向き、健康寿命に関わる座学や運動の指導をおこなっています。こちらは有償となっており、ボランティア活動ではありません。

レクリエーション・インストラクターは、レクリエーション支援の理論と方法を学び、認定される資格です。「入院中であっても、患者さんには笑顔で楽しい生活を送っていただきたい。そのためには、レクリエーション的要素を含んだ理学療法プログラムの提供が必要ではないか」と在職時から感じており、退職して時間的に余裕ができたため、1年間の研修を受講した後に取得しました。どちらの資格も学んだことを運動教室などで活用しています。

学びを止めず、活動に活かしていらっしゃるのですね。講師をお務めの講座では、参加者からの反響はいかがでしょうか?

東根さん:参加者から健康面についての相談を受けることがよくありますし、介護予防サポーターのスキルアップ研修会の講師などの依頼もあり、とても充実した日々を送っています。

「ステップ運動教室」には、約100名もの方にご参加いただいており、参加率も8割程度で、新規希望者を受け入れられない状況です。やりがいも感じますし、今では私の生きがいとなっています。

講座は当然無料ですが、「お金を払ってでも来るのでやめないで」などと言われると有頂天になり頑張っています(笑)。この年齢になっても地域に貢献できるのは、理学療法士という仕事に従事してきたからこそと思っています。

小松島市の中央会館で開催された「ステップ運動教室」の様子

市民の皆さんに信頼され、講座の楽しそうな様子が目に浮かびます。理学療法士としての長年のご経験が、現在の介護予防サポーターとしての活動に活きていらっしゃるのですね。

東根さん:そうですね。在職中は急性期医療の現場で臨床のほか、新病院への移転、病院機能分化、地域医療施設との連携など様々な取り組みを実施してきました。当時はまだ少なかった心疾患リハビリテーションの導入をおこなったのを機に、県内外の理学療法士養成校から非常勤講師の依頼も受け、臨床の傍ら退職までの12年間教壇に立たせていただいたこともあります。

こういった在職時の経験は、現在の介護予防サポーターをはじめとする様々な活動に活きていると実感しています。疾病予防や健康維持の重要性を伝える際に、多くの症例から学んだ臨床経験も交えて話すことができますし、同時に理学療法士という仕事に従事してきたことに誇りを感じます。

おわりに

黎明期の急性期リハビリテーションを支え、後進育成の講師として教壇にも立たれてきた東根さん。病気になる前に予防をする「上医」の考え方を胸に、学びを止めることなく介護予防という新たな分野で活躍されていらっしゃいます。

講師を務める講座の参加者からの声や、地域に貢献できることに生きがいを感じられている東根さんにとっては、誰かの為にという気持ちこそが、日々の活力を保つポイントなのかもしれませんね。

後編では、東根さんの活動を支える健康管理法について伺っていきます。お楽しみに。