【第4回】シカクの人物図鑑 下田栄次さん:大学で教鞭を取りながら、災害リハビリテーション支援や山岳救助に尽力する理学療法士
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「シカクの人物図鑑」シリーズでは、理学療法士としてお仕事をされていて、その他にも素敵な特技をお持ちの方、別のフィールドでも活躍されている方などをピックアップして紹介していきます。
第4回目は、理学療法士として大学で教鞭を取りながら、災害時のボランティア、リハビリテーション支援や啓発活動、さらには山岳救助隊として幅広い活動をされている下田栄次さんをご紹介します。
【特集】シカクの人物図鑑
シカクの人物図鑑:プロフィール
下田 栄次(しもだ えいじ)
■年齢:42歳
■現在のお仕事:
①湘南医療大学 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 助教
②独立行政法人 国際協力機構 国際緊急援助隊 医療調整員(理学療法士)
③公益社団法人 神奈川県理学療法士会 災害対策委員会 委員長
④一般社団法人 日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)本部 広報委員
⑤一般社団法人 日本災害リハビリテーション支援協会 かながわJRAT 事務局長
⑥登山者遭難救助隊(山岳救助隊)
■今のお仕事を始めるまでの経歴:
・自動二輪車の整備士として、アメリカのバイクメーカーの代理店に勤務
・回復期リハビリテーション病院にて4年間、回復期におけるリハビリテーションに従事
・整形外科クリニックの外来にて約8年間、学童期から高齢者の運動器リハビリテーションに従事
2011年~ Physical Support Volunteer Teamを結成
2013年~ 公益社団法人 神奈川県理学療法士会 災害対策委員会に参加
2016年6月~ 同委員会 委員長就任
2015年3月~ 秦野市丹沢遭難対策協議会 登山者遭難救助隊 入隊
2016年8月~ 独立行政法人 国際協力機構 国際緊急援助隊に参加
2017年10月~ 湘南医療大学 勤務
2017年11月~ 一般社団法人 日本災害リハビリテーション支援協会 かながわJRAT 事務局長就任
■最近あったちょっと気になること:
職場でも家庭でも、大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に対する情勢がかなり気になっています。それに伴い、現在も頻発する豪雨災害や大型台風による風水害に対する対策として、「新しい生活様式」に対応した、感染症対策を強化した避難所の設置および運営にも大きな関心を寄せています。
■SNS
有事に理学療法士として何ができるのか。支援や救助、啓発活動をおこなう下田栄次さんの人物図鑑
下田さんはなぜ、理学療法士資格を取得しようと思ったのでしょうか?
下田さん:以前、自動二輪車の整備士をしていたときに、自分自身が自動二輪車で交通事故に遭い、3ヵ月ほど入院をしたことがあったんです。その際にリハビリテーションとして、理学療法を体験したことがきっかけです。
事故に遭ったことで自動二輪車に乗ることに恐怖心を抱くようになり、復職は断念することになるのですが、そのとき担当してくださった理学療法士との関わりの中で、自分自身も理学療法やリハビリテーションを学びたいと思い、目指すことを決意しました。
約8年間勤務した前職(整形外科クリニック)では、学童期のスポーツや部活動時の怪我・骨折後のリハビリテーションを経験しました。その時は、小・中学生の子どもであっても、身体の仕組みや構造をきちんと理解し、同じ怪我を再びしないために、よく説明することを心がけていました。
私が担当した高校生の女の子が、リハビリテーション後に競技復帰した経験をきっかけに、理学療法士を目指していることを知りました。その後、養成校に合格し、報告に来てくれたときは、かつて自分がそうだったように「目指そう」と思ってもらえる理学療法士になれたこと、そしてそういう仕事に就いていることに喜びを感じましたね。
下田さんは理学療法士の資格を活かし、多岐にわたってご活躍されていますね。現在はどのようなお仕事や活動に取り組んでいらっしゃいますか?
下田さん:現在は看護や理学療法、作業療法などを学ぶ大学で、教員として勤務しています。
専門分野は、運動器系理学療法学と理学療法管理学です。卒業研究では「地域に還元できる研究の実践」をテーマに、災害時における避難所生活環境支援と、登山活動における外傷・障害予防の実践に関する研究活動を、学生たちと一緒におこなっています。最近では、地域防災拠点(避難所)や訪問事業所への調査を進めています。
また、独立行政法人 国際協力機構(JICA)では、国際緊急援助隊(JDR)の隊員として、国外で大規模災害が発生し、政府より派遣要請があった際に何時でも応えられるよう、準備と研鑚を積んでいます。
このほか、神奈川県理学療法士会では、委員長として国内における災害に対して被災地での支援活動や組織対応に関わってきました。
さらに、日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)本部の広報委員として、全国研修会や災害時におけるリハビリテーション支援活動の啓発もおこなっています。神奈川県における地域JRAT(かながわJRAT)と本部との連絡調整担当としても活動しています。
とても積極的に活動されているんですね! 民間の山岳救助隊へ参加されているとも伺ったのですが…?
下田さん:そうですね。私自身が山岳競技であるトレイルランニング世界選手権へ競技者として参加した経験があり、一方では、レースの救護班として活動していたこともあるので、この経験から、平成27年に秦野市の登山者遭難救助隊(山岳救助隊)に入隊しました。
以降、地域防災アドバイザー兼山岳救助隊隊員として、地域の防災活動、ヘルスプロモーションへの取り組み、安全登山教室などを、丹沢山域のビジターセンターで定期的に開催しています。
さまざまな場所で支援・救助活動、地域防災の啓発活動に尽力されている下田さんですが、このような活動を始めたきっかけは?
下田さん:きっかけは「東日本大震災」です。震災後の2011年4月、理学療法士による災害リハビリテーション支援チーム「Physical Support Volunteer Team」を立ち上げたことが大きな契機となりました。
震災で被災した方々への支援活動を継続的に展開していくために、理学療法士をはじめ医師やアスレティックトレーナー、他業種(グラフィックデザイナーやサービス業)の有志でボランティアチームを結成し、東北3県のさまざまな災害支援事業に参加してきました。医療支援に限らず、漁業支援のボランティアにも参加したことがあります。
そこで見えてきたことは、従来、地域において課題であったことが、災害時に顕在化して大きな問題になってしまうことでした。そうした教訓を、自分が暮らす地域はもちろん、他の地域にも活かすために、現在も啓発活動を継続しています。
3.11での経験が、下田さんの現在の活動につながっているんですね。
下田さん:災害支援は、「すべては被災した方たちや地域のためになれば」という思いで続けています。自分が接した方々の笑顔や、「ありがとう」という言葉に勇気をいただいています。一人の力は微力であっても、無力ではない。そんなことを感じながら、災害支援に大いにやりがいを感じています。
今では近隣地域の自治体からもお声がけいただき、地域の防災アドバイザーや避難所運営のアドバイザーとして、学校や自治会の研修会で講師を担当しています。
今年になってからは、COVID-19をはじめとする感染症予防対策を念頭に置いた避難所・福祉避難所運営の実践について、衛生用品の備蓄品の強化から避難方法の多様化も含めて、在住地域の自治体や福祉避難所協定施設と連携して検討・協議を重ねています。
現在、理学療法士のほかにどんな資格をお持ちですか?
下田さん:活動していく中で関係のある、さまざまな資格を取得してきました。特に思い入れがあるものとしては、Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care(JPTEC)のプロバイダーコースとミニコースです。
JPTECは「外傷病院前救護ガイドライン」の略で、日本救急医学会公認のプレホスピタル(病院前)での外傷教育プログラムのこと。重症外傷傷病者に対して、早期に救命のための処置治療や搬送をおこなう技術を習得できる資格です。
資格を取得しようと思ったきっかけは、山岳救助隊に入隊する数年前に仲間と登山をしていて、偶然、滑落者のバイスタンダー(第一発見者)として対応をした経験からです。当時、BLS(一次救命処置)やACLS(二次救命処置)は取得していましたが、無我夢中で冷静な判断や的確な救急救命処置ができませんでした。この反省から、救急救命処置や搬送技術に関するトレーニング、救急に関連する勉強を始めました。
ほかにもさまざまな講習や試験を受け、以下の資格を取得しています。
- 保健医療学 修士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- BLSプロバイダー
- Wilderness Medical Associates International(WMA)認定 Wilderness First Aid(WFA)
- 一般社団法人 日本災害医学会認定 MCLSプロバイダー
- 一般社団法人 日本災害医学会認定 BHELPプロバイダー
- 一般社団法人 災害医療教育研修協会認定 EMERGOインホスピタルコースプロバイダー
- 一般社団法人 日本救急医学会 JTAS認定プロバイダー
- 東京消防庁認定 上級救命技能認定証(自動体外式除細動器業務従事者)
- 公益財団法人 日本ライフセービング協会認定 ウォーターセーフティ
- NPO法人 日本フットトレーナー協会認定 スポーツシューフィッター(SSF-B)
- 公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会 障がい者スポーツ指導員 初級
- 公益財団法人 日本スポーツ協会公認 スポーツリーダー
下田さん:病院内であっても屋外であっても、理学療法士はしっかりとした救命処置や搬送ができなければならないと考えています。目の前に困っている人や倒れている人がいれば、対応するのが医療従事者として当然の行動である思います。それが、学ぶことへのモチベーション、理由になっています。
効率よく学ぶコツは、やはり計画性と情報収集ですね。例えば山を登る際には必ず登山計画(気候や気温に基づいた水・食料の補給計画や所要時間、天候悪化時の行動計画など)を立てます。それと同じで、いきなり資格に飛びつくのではなく、さまざまな領域の情報収集をおこない、吟味して、資格を取得するまでの行動計画とスケジュールを立てることが、最も近道ではないかなと感じています。
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