バリアフリー地図アプリ開発者 織田友理子さんに聞く(2) 誰でも参加できる「WheeLog!」サービスに込めた思いとは

車椅子生活を送る多くの方の外出環境を支えるバリアフリー地図アプリ「WheeLog!」。世界中どこからでも無料で投稿・閲覧することができ、Googleマップ上に集約されたバリアフリー情報を提供しているサービスです。

本連載では、このサービスの立案・開発者である織田友理子さんにインタビューをしています。2回目の今回は、ご自身が車椅子生活を送るようになったことをきっかけに始めたYouTube動画「車椅子ウォーカー」やWEBサービス・アプリ「WheeLog!」などの活動についてうかがいたいと思います。

YouTube動画「車椅子ウォーカー」で国内や世界各国のバリアフリー情報を発信

写真:2018年6月、ワシントンD.C.にて

ご自身で立ち上げたYouTube動画「車椅子ウォーカー」についてうかがいたいと思います。車椅子で行くことのできるスポットの動画等を多数アップされていますが、どのような思いで立ち上げたのですか。

織田さん:前回お話ししたように、私は息子が生まれたタイミングで車椅子生活がスタートしました。当初は本当に戸惑うことばかりで、車椅子でどのルートを通れるのか、どの施設を利用できるのかなどが全くわかりませんでした。友人と会う約束がある時は、前日にルートを確認するための予行練習をしていたほどです。そのような不便な状況の中で、「バリアフリーに関する情報が簡単に見つけられれば安心して外出できるのに」と考えるようになりました。

「車椅子ウォーカー」では、実際に私が様々なスポットに車椅子で出かけることで、そのスポットが車椅子でも安心して利用できることを発信しています。夫や、制作会社の友人の協力で撮影しています。

車椅子ウォーカー(YouTube動画チャンネル)

動画では日本国内だけでなく海外のスポットの様子も沢山発信されていますね。日本と海外でバリアフリー環境の違いはありますか。

織田さん:バリアフリーに関する考え方が根本的に異なり、興味深い「違い」があると感じることは多くあります。例えばデンマークでは、日本のように公共交通機関のバリアフリー化に力を入れるのではなく、障害のある方一人ひとりにリフトカーを助成していると聞きました。「どなたでも使えるように」という視点ではなく、個人への補助に重点を置いているようですね。

日本は、全国どこでも多目的トイレがあり、男女用トイレと独立しているので、介助者である夫も入ることができます。海外でも設置している都市はありますが、各性別用のトイレの中に多目的用個室がある場合が多いです。また、トイレの背もたれや、介助用ベッドがあるなど、設備面でも優れています。台湾では、日本をお手本にする動きもあります。

国ごとの興味深い「違い」は沢山ありますが、日本のバリアフリー環境は比較的優れていると思っています。その一方でレストランのバリアフリーや、障がい者の社会参加といった面では日本は遅れていると感じることもあります。ただ、世間では「日本のバリアフリー化はまだまだ」という批判的な意見が多すぎるようにも思うので、優れているところはしっかり褒めて伸ばす雰囲気があって欲しいと願っています。

より充実した情報源を提供したい―バリアフリー地図アプリ「WheeLog!」を開発

写真:WheeLog!の開発会議

動画配信によって、車椅子ユーザーに役立つ情報を届けていたのですね。その後、「WheeLog!」の開発に進んでいったきっかけは何があったのでしょうか。

織田さん:「車椅子ウォーカー」の更新を続けるうちに、情報発信の限界を感じたことがきっかけです。週1回ほど動画をあげるだけだったので、これを続けているだけでは足りないと感じるようになりました。

また、私からの一方的な発信ではなく、受け取る側と双方向の情報のやり取りがしたいし、集めた情報を一覧化する場所も欲しい。そうしたことをあれこれ考えていた時、「Googleインパクトチャレンジ」というコンテストに申請してはどうかという話を知人から頂きました。

Googleが開催している「世界をよくするアイデア」のコンテストですね。そこでグランプリを受賞されたことが始まりで、「WheeLog!」が誕生したんですね。

織田さん:はい。グランプリを頂いたことで、具体的に動き出すことができました。開発には約2年を費やしましたが、今や3万人弱のユーザーが利用するまでに育ち、多くの人々が自分の持っている情報をコメントや写真で投稿してくださっています。そして、ユーザーには健常者が多くいるのもポイントです。車椅子生活をしている当事者だけでなく、周囲の人々がこのコミュニティーに属してくれているのは、とても喜ばしいことです。

多目的トイレなどの情報は誰でも登録できますし、スロープやエレベーターなどの情報は、逆にキャリーケースを持った旅行者などにも活用してもらえます。

サービスが成長し、多くの人を巻き込んだコミュニティーが築かれているのですね。今後の目標などはありますか。

織田さん:これからも多くの人にこのサービスを知ってもらい、そしてもっともっと大勢に「WheeLog!」のコミュニティーに参加してもらえればと思っています。

現在でも45カ国にユーザーがいますし、台湾の企業さんから台湾で街歩きイベントを実施したいとのお声がけも頂いています。また、日本国内でも、企業研修で紹介していただいたり、教育現場で活用してもらったりしています。そうした活動を通じて、一般の方々に関心を持ってもらい、自分たちにもできることがあるんだと気付いていただくきっかけになればいいなと思います。

私が講演会などでお話しする際によく言っているのは、バリアフリー社会を作るためには一般の人たちの視点や協力が不可欠だということです。良い街、良い国、そして良い社会は、障がい者の主張だけでは絶対に実現することができないと思っています。一般の方々や行政、民間企業を巻き込んで、「WheeLog!」を開かれたサービスにしていくことが目標です。

いつか誰かの役に立つように、情報を伝え続けていきたい

今後もどんどん「WheeLog!」コミュニティーは広がっていきそうですね。織田さん自身が「情報」というものをとても大切にしていることが伝わってきました。

織田さん:今すぐ必要な情報ではなくても、貯めておくことでいつか誰かが利用してくれるかもしれません。必要になったタイミングで、人の役に立てると信じています。そのため、常に大量の情報を流し続けることが大切だと思っています。

情報があることで、車椅子ユーザーでも諦めない社会を実現することが目標です。情報を集めるだけでなく、実社会で役立つような形で提供し続けることで、本当に生きやすい環境を作っていきたいと考えています。

今回は、織田さんが実際に生み出したサービスの内容や、その背景についてうかがいました。織田さんの強い思いが、多くの人を巻き込んだコミュニティーを作っていったことがわかりました。

さて、最終回の第3回目では、遠位型ミオパチーの患者会や、理学療法士へのメッセージなど、織田さんと関わる周囲の人々に焦点を当てたいと思います。

PROFILE

織田 友理子(おだ ゆりこ
車椅子ウォーカー 代表
NPO法人PADM 遠位型ミオパチー患者会 代表
一般社団法人WheeLog 代表

20代の時に発症した希少疾病「遠位型ミオパチー」により車椅子生活を送ることになる。患者会代表として、また、「WheeLog!」代表として国内外で活動をおこないながら、現地で車椅子の実地調査をおこなう。一児の母。