【第6回】シカクの人物図鑑 小林純也さん:脳卒中経験から「脳フェス」を主催、バンド活動もおこなう理学療法士

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「シカクの人物図鑑」シリーズでは、理学療法士としてお仕事をされていて、その他にも素敵な特技をお持ちの方、別のフィールドでも活躍されている方などをピックアップして紹介していきます。

第6回となる今回は、ご自身が脳梗塞を発症後、リハビリテーションで後遺症を乗り越えたのち理学療法士の資格を取得、さらにバンドのボーカルとして活躍するエネルギッシュな理学療法士の小林純也さんをご紹介します。

シカクの人物図鑑:プロフィール

小林 純也(こばやし じゅんや

■年齢:38歳

■現在のお仕事:理学療法士
①旭神経内科リハビリテーション病院/理学療法士
②一般社団法人 脳フェス実行委員会/代表理事

■今のお仕事を始めるまでの経歴:
2013年~ 旭神経内科リハビリテーション病院 入職
2017年~ 脳卒中フェスティバル 代表就任
2018年~ 一般社団法人 脳フェス実行委員会 設立/代表理事就任

■最近あったちょっと気になること:
2歳の娘がイヤイヤ期真っ最中なのですが、かわいさ、愛くるしさ共に過去最高の記録を日々更新し続けていることです。このまま行くと5歳くらいで私がキュン死するんじゃないかという不安があります。

■SNSなど

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病気の経験や後遺症を人生の強みに!"脳卒中患者だった理学療法士"として患者を支える、小林純也さんの人物図鑑

小林さんはなぜ、理学療法士資格を取得しようと思ったのでしょうか?

小林さん:23歳の頃、プロボクサーを目指していたんです。ジムで練習に励んでいたある日、脳梗塞を発症し、運動麻痺と感覚障害、運動失調、高次脳機能障害を経験しました。その後、懸命のリハビリテーションで競技復帰を果たしたのですが、脳に障害が残っているとプロにはなれないんです。

そのとき、目指していた夢がなくなって心にぽっかりと穴が開きましたが、「でも、やるだけやったな」という充足感もありました。すると、障害の残る右半身が誇りに思えてきて…。どうせなら、この経験や後遺症が「強み」となる仕事がしたいと思い、理学療法士の道を志しました。23歳のころの自分の近くに、もし同じ病気を経験したセラピストがいたら心強かっただろうな、という思いもあって。

小林さんはご自身の病気の経験を活かして活躍されているのですね。現在はどのようなお仕事や活動に取り組んでいらっしゃいますか?

小林さん:現在は、旭神経内科リハビリテーション病院で、常勤の理学療法士として勤務し、回復期という人生の岐路に立たされた患者さんのサポートをしています。

また、”脳卒中患者だった理学療法士”という経験から、患者さんの主観を疑似体験し、当事者理解を促進することを目的とした講演会を各地でおこなうほか、2017年には自身の経験を綴った本『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい本当のこと』を書かせていただきました。

小林さん:そのほかには、私が実行委員会代表となり、「脳卒中フェスティバル(以下、脳フェス)」というイベントも開催しています。「脳卒中・脳梗塞の当事者の方や家族・セラピストが本気で楽しむ大人の文化祭」をテーマに、みんなで楽しい1日を過ごしてもらい、当事者同士の交流や社会復帰を促すイベントです。

残念ながら今年は新型コロナウイルス感染症の流行により、9月にオンラインでの開催になりましたが、1,000名以上の方々にご参加いただき、その後のアンケートでは、約7割の方に「当事者理解が促進した」とお答えいただけました。また、脳卒中当事者さんからも「同じ障害を持った仲間と出会えて無限のパワーをもらえる」「脳卒中になっても人生楽しめるんだ」と嬉しいお言葉もいただけました。

脳卒中フェスティバル 公式サイト

書籍の執筆、フェスの開催と多岐にわたる活動をされていますね。さらに、小林さんはバンド活動もされているとお聞きしました。

小林さん:脳卒中経験者と健常者で「STROKERS(ストローカーズ)」というバンドを結成し活動しています。脳フェスの中で自然発生的に生まれた、ダンス・バンドグループです。

たまたま、脳フェスに参加してくださっているメンバーの中に、片麻痺(編集部注:体の右か左かどちらかの半身が麻痺する症状)のダンサーやドラマー、ベーシスト、理学療法士のギタリストやダンサーがいたんですね。「じゃあ、バンドやらない?」っていう軽いノリで。

最初、私は入っていなかったんですよ。代表が歌うって、なんか寒いじゃないですか(笑)
でも、ボーカルがどうしても見つからなかった。そこで「いいよもう。純ちゃん歌いなよ」という感じで、消去法でボーカルに就任しました(笑)でも、今では全力で寒いことを楽しくやっていて、作詞・作曲などもしています。

私もYoutubeで拝見しましたが、とても素敵なバンドです!最近の活動はどうですか?

小林さん:最近はコロナの影響で、対面のバンド活動やライブができていないんですね。それまでは、東京都理学療法士協会の記念パーティや、「超福祉展」という5万人規模のイベントで渋谷のハチ公前でライブをしていたのですが、全部なくなったので…。今はオンラインで曲を作ったり、「脳フェスオンライン」に出演したりしています。

最新曲「この手」by STROKERS

今後、STROKERSで叶えたい夢はありますか?

小林さん:「日本武道館でライブをする!」こう言うとすごくバカみたいですが、例えばSTROKERSが武道館で演奏できる世の中になっていたら、結果として障害を持った方に対する「心の壁」って薄くなっていると思うんですよね。だから、結構本気で妄想しています。一番のネックは私の歌唱力なのですが…(笑)

患者さんに勇気を与える素敵な夢だと思います。バンド活動でのやりがいや、これまで特に印象に残ったことはありますか?

小林さん:めちゃくちゃあるんですよね、やりがい。私は何よりSTROKERSのメンバーが大好きなんです。彼ら、彼女らがうれしそうにしていると、それだけで自分もうれしいです。印象に残っていることはたくさんありますが、どれか1つということで挙げると、「フラットぷらっと」というセラピストが主催するイベントに出演させていただいたときですね。

STROKERSに、片麻痺で踊る「Half Body Lock」を考案した鶴見和昭さんというダンサーがいるのですが、我々がパフォーマンスしたその勉強会に、彼が回復期病院に入院していたときの担当セラピストが偶然来ていたんですね。

そして、入院中から「ダンスがしたい!」と強く思っていた鶴見さんと、リスク管理との狭間で葛藤しつつも、その想いに寄り添い続けたセラピストが奇跡的に再会し、お互いの想いを打ち明けあったんです。退院した患者さんとそんなシチュエーションで再会することなんてまずないじゃないですか。もう涙腺がゆるみっぱなしでした。

ダンサーの鶴見和昭さん(写真前列左)

今の仕事や活動の中で、理学療法士の資格が活かされていると思うのはどんなときですか?

小林さん:回復期病院ではもちろん役立つことだらけですし、患者さんの現状を症候学的な視点でとらえつつも、画像やEBM(※)といった根拠に基づいて照合して関わらせていただくことは、やはり国家資格である専門性があってこそなのかな、と。

脳フェスのイベント主催者という観点から見ても、やはり当事者が多く参加されるこのイベントで、「来場者にどうしたら不自由なく過ごしていただけるか」とか、「この方はどこまでだったらリスクなく動けるのか」ということを判断するときに、理学療法士で良かったなと思います。

また、実は今、脳卒中当事者と一緒に世の中が元気になるアクション映画を作ろうということで、映画の制作にも関わっています。「ファースト・ミッション」という脳卒中サバイバーと作る“ガチアクション映画”です。ここでも理学療法士としての知識が非常に役立っています。

(※)編集部注:EBM「根拠に基づく医療(evidence-based medicine)」
個々の患者のケアに関わる意思を決定するために、最新かつ最良の根拠(エビデンス)を、一貫性を持って、明示的な態度で、思慮深く用いること。

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