【第8回】シカクの人物図鑑 河村由実子さん:ラジオ番組とウェブメディアで、予防医療の大切さや患者の声を届ける理学療法士
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「シカクの人物図鑑」シリーズでは、理学療法士としてお仕事をされていて、その他にも素敵な特技をお持ちの方、別のフィールドでも活躍されている方などをピックアップして紹介していきます。
2021年最初の記事となる今回は、集中治療室(以下、ICU)専任の理学療法士として働く傍ら、広島県のコミュニティ放送局でラジオパーソナリティを務め、自身でウェブメディアを運営・記事の執筆もされている河村由実子さんをご紹介します。
【特集】シカクの人物図鑑
シカクの人物図鑑:プロフィール
河村 由実子(かわむら ゆみこ)
■年齢:29歳
■現在のお仕事:
①県立広島病院 リハビリテーション科 主任/理学療法士
②FMはつかいち/ラジオパーソナリティ
③webメディア「リハノワ.com」/代表
■今のお仕事を始めるまでの経歴:
2016年〜 理学療法士として県立広島病院へ勤務
2019年~ FMはつかいち ラジオパーソナリティ就任、リハノワ.com代表就任
■最近あったちょっと気になること:
近所にマイクロブルワリー(編集部注:小さなビール工場)ができたことです。お酒好きな自分としては、かなりうれしいニュースでした(笑)
コロナもあってなかなか思うように外食もできないご時世ですが、落ち着いたらぜひ行ってみたいと思っています。
■SNS
予防医療を伝え、頑張っている人たちの声を届ける。理学療法士として発信し続ける、河村由実子さんの人物図鑑
はじめに、河村さんの現在のお仕事を教えてください。
河村さん:県立広島病院のリハビリテーション科で、主任として勤務しています。入職した初年度より、ICUの専任理学療法士として早期離床・リハビリテーションに従事してきました。2020年春、コロナ禍で面会禁止となった現場の状況を変えたいと、ICUにおけるオンライン面会を導入し、発起人として推進しました。
オンライン面会では、患者さんから「家族と話せて安心した、うれしかった、顔が見られてよかった」との感想をいただくことができました。ご家族からも「とても良い取り組みだと思う、孫の顔が見られるのが入院生活の励みになっているようだ、直接会えなくても顔が見られてうれしい」などの声をいただいています。
また、2019年から広島西部地域のコミュニティラジオ局「FMはつかいち」で、医療系トークバラエティ番組「医どばた食堂」のメインパーソナリティとして番組制作・広報活動をおこなっています。
同じく2019年にリハビリ当事者やセラピスト・施設など、リハビリに関わるすべての人をつなげるウェブメディア「リハノワ.com」を立ち上げました。「ひとりの元気をみんなの元気に」をモットーに、取材・編集・サイト管理をおこない、自分でも記事を書いています。
※毎月第2・3金曜日の16:00~16:30で放送中
どの活動でも企画から運営までとリーダーシップを発揮してご活躍されていらっしゃるのですね。河村さんが、理学療法士資格を取得しようと思ったきっかけは何ですか?
河村さん:きっかけは“悔しさ”でした。年上の従姉が、私が中学生のころに難病に罹ってしまったんです。
彼女は20代という若さでこの世を去りましたが、亡くなる直前に、酸素ボンベなどを携帯した状態でリハビリの先生に付き添ってもらい、親戚の結婚式に参列していました。そして、私が次にその先生に会ったのはお姉さんのお葬式のとき。先生は、ずっと従姉と一緒に作っていたという折り紙の作品を棺に入れてくれました。
お姉さん的存在で大好きな従姉だったのに、亡くなる前の1年間は病院に近づくこともできなかった私。一方で最期まで従姉のそばで支えてくれていた先生。私も本当はすごく会いたかったし、最期の最期まで寄り添っていたかった。そんな悔しさとともに、最期まで患者に寄り添い、目の前の人や家族など多くの人の “人生を支援する仕事” って素晴らしいなと思い、リハビリの道に進むことを決意しました。
理学療法士を選んだのは、高校時代テニスの部活中に足首を怪我してしまい、理学療法士と直接関わったのがきっかけです。もともと身体を動かすことが好きだったので、リハビリの中でも特に理学療法が自分には向いているのかなと思い、選びました。
大切な方の死や理学療法士との直接の関わりが、この道を目指すきっかけになったのですね。そんな河村さんが、ラジオパーソナリティを始めたきっかけは何でしょうか。
河村さん:ICUという、患者さんが生死をさまよう現場で働く中で、「もし、目の前の患者さんがこうなる前に、救えたであろう命が1つでもあったなら…」という思いが強くなりました。
私は、病気の予防をするという選択肢を「知らない」ということは不幸なことだと思っています。なので、病気が悪化して入院する前の段階の人々に、その 「選択肢を届ける」ことにチャレンジしたいと考えました。命に関わる状態になってから一人一人の命をどう救うかではなく、病気になる人を減らして社会全体の健康をいかにして守っていくかという、いわゆるポピュレーションアプローチ(※)の重要性に気づき、実践してみようと思ったんです。
医療情報を届ける(予防医療を推進する)にあたり、健康格差や教育格差を踏まえると、私が本当に届けたい人たちに伝えるためには、行動経済学でいうところのシステム1の「直感に近い判断や感情的な判断」ができる手法が適していると考えました。
そのため、医療のお堅いイメージから脱却して思わず聞きたくなるように、医療系の「トークバラエティ番組」という設定にしました。それをFMの電波にのせることで、より多くの、より広い層の方にリーチできると考えたのです。
(※)編集部注:ハイリスクの方だけでなく、集団全体に対して働きかけをおこなうことにより、その集団のリスクを全体的に下げていくという取り組みのこと。
多くの方に予防医療の大切さを届けるためのラジオ番組なのですね。ウェブメディア「リハノワ.com」についてはいかがでしょうか?
河村さん:理学療法士として病院で働く中で、患者さんが退院後に目標を失ったり、モチベーションを維持できなかったりするために、病気や再入院を繰り返す現状を何とかできないかと思うようになりました。
そして、同じようにリハビリを頑張っている人がどのような思い、方法、環境でリハビリをしているのかを記事にしてお届けすることで、モチベーションの維持につながるのではないかと考え、リハノワ.comの運営を開始しました。
また、セラピストも自分の領域を超える現場のことはあまり理解できておらず、施設の横のつながりも希薄化していると感じていました。リハノワ.comはそうしたセラピストたちをつないだり、情報を提供したりする“セラピストの連携”のプラットフォームとしても成長していきたいと思っています。
同じような境遇の仲間や同士がいると思うだけで、頑張れたり勇気をもらえたりしますよね。それぞれの最近の具体的な業務内容を教えていただけますか?
河村さん:月に2回放送中の「医どばた食堂」は、毎回ゲストをお呼びしてお話を聞いていく番組スタイルのため、キャスティングから打ち合わせ、収録まで、ほぼ全工程に携わっています。具体的には、私がゲストを選定してアポを取り、番組概要を説明しつつ依頼書を作成、事前打ち合わせをおこない、収録本番、といった感じです。
ゲストにはこれまで、救急医、スポーツドクター、なでしこジャパンのチームドクター、呼吸器内科医、感染症内科医、歯科医師、脳外科医、片麻痺のドローンパイロット、家庭医、理学療法士、旅行医の先生など、さまざまな分野のプロフェッショナルの方々が来てくださいました。
河村さん:リハノワ.comでは、1)リハビリに関連する施設や事業所・会社、2)セラピスト、3)リハビリ当事者の声、の3つのカテゴリーで記事を書いています。私がアポ取りから取材、編集、サイトの管理・デザインをすべておこなっています。
また、今年の春には、リハノワ.comの取材を通してつながった方と協力し、「種子島の空き家をバリアフリーリノベーションし宿屋にする」というプロジェクトを発足させ、バリアフリーを必要とする当事者の方々や建築家、デザイナー、職人とチームを結成し活動しました。
その道のプロフェッショナルたちが集まり、お互いにリスペクトし合いながら、1つの「建築物」を造るために自分のできる最大限の力を発揮する。私自身、「理学療法士の河村は一体何ができるだろうか?」と常に自問し続けた半年間でした。
最終的にはクラウドファンディングで230人の方のご協力を得て、344万円の資金調達に成功しました。そして、2020年9月に「境界なき宿屋 カモメ」の完成・オープンを迎えました。リハノワ.comでは、カモメに関わる方や施設に関する記事も掲載しています。
このプロジェクトを経て、私自身新たな発見が本当にたくさんありました。これからの時代はさまざまな分野の人が互いに手を取り合い活動していくことが大切だと身を持って感じましたし、それが革新的なものを生み出すきっかけになると確信しています。
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