【後編】内科医・小説家 南杏子さんインタビュー~高齢者リハビリテーション
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現役の内科医でありながら、小説家として終末期医療を題材にした『サイレント・ブレス』『いのちの停車場』などの著書がある、南杏子先生。
前回は、社会人を経て医師を目指されたきっかけや、南先生の終末期医療に対する考え方、終末期医療のあり方などについて伺いました。後編である今回は、高齢者リハビリテーションや緩和ケアについてお話を伺っていきます。
高齢者リハビリテーションは、今ある機能を維持しながら、患者さんができる限り自立した生活を送れるようにするために、非常に重要な役割を持ちます。南先生の高齢者リハビリテーションへの思いとはどのようなものでしょうか。
【特集】内科医・小説家 南杏子さんインタビュー
南先生が考える、高齢者リハビリテーションのあり方
高齢の方ができるだけ自分らしく暮らしていくために、身体機能の維持・改善を目指すリハビリテーションの役割は大きいと思いますが、南先生が高齢者医療病院の医師としてかかわる中で、リハビリテーションについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。
南先生:人の身体は常に動かしていないと、やがて衰えていってしまうものです。今ある機能を維持するためにも、リハビリテーションは非常に重要だと考えます。寝たきりなのでリハビリテーションをしても無駄、ということはありません。
「寝姿を美しく」という風に病院では言っていますが、身体が固まって姿勢や動きが悪くならないよう、着替えの際に関節の曲げ伸ばしなどをおこなったりしています。このように、看護師や介護士に関わらず、患者さんに触れるスタッフ全員が患者さんの最期の時まで「リハビリテーションマインド」を持って日々接することを心がけるだけでも、患者さんの状況はかなり変わってきます。
誰にでもいつか死は訪れますし、逃れることはできません。加齢による筋肉の衰えや、老眼で目が悪くなったり皮膚が薄くなって弱くなるなどは、死に向かっていく変化であって避けることのできない身体の衰えなので、抗うことはできません。そうした衰えに対して、その身体で快適に過ごすためにはどうするか。その1つがリハビリテーションだと思います。機能維持を手助けしつつ、「死」というゴールに対して、快適に、そして一番良い形で向かっていけるようにする大事な治療だと思って、患者さんに接しています。
実際にリハビリテーションをおこなう職種の1つである理学療法士のことはどう思われますか。
南先生:もともとリハビリテーションにはとても興味があって、研修医時代にリハビリテーション病院で勉強させてもらったこともあるんです。理学療法士さんは歩けなかった人を歩けるようにするだけでなく、意欲をアップさせるために笑いや好奇心をそそる要素を取り入れるなどエンターテイナーとしての役割も高いと知りました。「目に見えて良くなっていく」を叶えられる仕事で、患者さんのQOLを上げる、そんな身体の機能をきちんと治すことができるところに憧れますね。
リハビリテーションをおこなう理学療法士も、終末期の緩和ケアにかかわる際にさまざまな悩みにぶつかることがあります。先生はそのようなとき、患者さんやご家族に対して、医療者としてどのようにかかわっておられるのですか。
南先生:たとえ自分がいくつになったとしても、やはり家族の死は予想外な出来事なんですよね。家族の死を認めたくない…というご家族は、それだけ辛い気持ちを抱えているということです。私の場合は、緩和ケアに移る際、ご家族が納得して落ち着くまで説明を尽くすようにしています。
そのときに気をつけているのが、「家族がどうしたいか」ではなく、「患者さん本人だったらどうしたいと思うか」をご家族に問いかけることです。例えば、家族は直接胃に栄養剤を注入する胃瘻でも良いから、とにかく生きられるようにしてほしい…と思っていたとしても、患者さん本人は食べられなくなったらそれ以上の医療を希望しない、という意思を持っているかもしれない。そういった話し合いのときに、医師だからこそわかる患者さんの状態をご家族に説明して情報提供するようにしています。
患者さんを看取った後に、家族に「良い死でした」「良い最期を迎えることができました」と言ってもらえることがあるんです。患者さんの最期を家族にも納得してもらえる、そんな医療を提供し続けていけたら良いのではないかと思います。
最期まで自分らしく過ごすために。南先生からのメッセージ
現在、ご家族が終末期を迎え、いろいろな思いを抱えながら日々過ごしている方もいらっしゃると思います。誰もが自分らしい終末期を過ごすために、先生から読者のみなさんへメッセージをお願いします。
南先生:無理をさせ過ぎなくても良いと思います。高齢の患者さんを見ていると、「歩けるようにならなくては」という気持ちで一日中リハビリテーションを頑張る方がいる一方で、車いすを自在に操って好きなときに好きな場所へ移動して、大画面のテレビを見に行ったり、大きな水槽の中で泳ぐ熱帯魚を見に行ったりと、楽しそうに好きなことをしている方もいるんですよね。前者の方のように歩けるようになるためにリハビリテーションを頑張る姿はもちろん素敵ですが、後者の患者さんのように、その環境で無理せず幸せそうに暮らしている姿も素敵に見えます。
つまり、終末期を過ごすことは、必ずしも「健康な状態に戻るように頑張る」ということだけではないと思っています。せっかくの大切な時間なので、今の状態を維持しながら、今の身体能力で楽しみを見つけることも、幸せな終末期を送るためには大切なのではないでしょうか。
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