【前編】 パーキンソン病とは?パーキンソン病の症状が与える影響と対策をご紹介!

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皆さんは、パーキンソン病という病気をご存じですか?
日本や世界では、パーキンソン病者は増えており、実は身近な病気です。パーキンソン病の診断初期では症状が軽いことや日常生活への支障が少ないため、専門家による日常生活や転倒リスクに関するアドバイスを受ける方は多くありません。
今回リガクラボでは、神経難病を専門とされ、多くのパーキンソン病者の方と携わったことがある近藤 夕騎先生(理学療法士)にパーキンソン病について伺いました。
近藤先生から解説していただいた内容は、前編と後編の全2回でご紹介します。前編では、パーキンソン病の概要、日常生活への影響、転倒予防などについて近藤先生にお話を伺います。
【特集】パーキンソン病
パーキンソン病とは?
まず、パーキンソン病はどのような病気か教えてください。
近藤先生:パーキンソン病は、50〜60歳代から増え始める神経の病気です。世界的に患者数が増加傾向で、日本では、65歳以上の100人に1人程度の割合で発症するといわれています。
パーキンソン病では脳の中の「黒質」という場所にある「ドーパミン」を作る神経細胞が徐々に減少することで発症します。「ドーパミン」は、やる気や幸福感を得られる神経物質として知られていますが、運動機能や認知機能など脳の中枢機能を調節して体の動きをスムーズにするために大切な物質です。

神経細胞が徐々に減少し、ドーパミンが減ることで、どのような症状が起こるのでしょうか。
近藤先生:“手足のふるえ(振戦)”、“筋肉のこわばり(筋強剛)”、“動作が遅くなる/小さくなる(無動)”、“姿勢が保ちにくくなる(姿勢保持障害)”などの体の動きの症状(運動症状)が現れます。また、体の動きの症状だけでなく、便秘、トイレが近くなる、睡眠の問題が生じる、気分が落ち込みやすくなる、立ち上がった時に血圧が下がる、においが感じにくくなるといった症状(非運動症状)も現れます。
パーキンソン病はゆっくりと症状が進んで行く病気で、長く付き合っていくことになります。大切なことは、早めに専門医に相談し、処方された薬を正しく服用すること、運動を続けること、そして、日常生活の中で動作や環境を症状に合わせて少しずつ調整していくことです。実際、適切な治療を受けている方の寿命は、健康な方とほとんど変わらないと言われています。
パーキンソン病は、長く付き合っていく病気とのことですが、症状の進行度はどのように把握するのでしょうか。
近藤先生:医療の現場では「Hoehn&Yahr(ホーエン・ヤール)の重症度分類」という5段階の分類方法が進行の程度を把握するうえで、よく使われています。
1度では手足の症状が体の片側のみ、2度になると症状が両側に現れますが、日常生活への支障はほとんどない状況です。3度では姿勢の不安定さが目立ち始め、一部の活動に制限が出てきます。ただし、一人での生活は可能です。4度になると日常生活での支援が必要となりますが、何とか自力で立ったり歩いたりすることはできます。5度は最も進行した状態で、介助がないとベッドや車椅子での生活を余儀なくされます。
医療者は、この分類を「Early」(1-2度)、「Mid」(3-4度)、「Late」(5度)の3つの時期に大きく分けて考えることがあります。これにより、その時期に必要な治療やケアの方針を立てやすくなります。
この分類は、あくまで目安としてお考えください。症状の現れ方や進み方には個人差があります。同じ段階でも症状の組み合わせは人によって異なることがあり、適切な治療により、長期間にわたって同じ段階を維持できることもあります。
あくまでも目安であるという認識がポイントなのですね。 ご自身やご家族など症状が気になる方は、早めに受診して症状の進行度を把握することはその後の生活にとって望ましいでしょうか。
近藤先生:はい。早期の受診は、その後の生活の質を維持する上で大変重要です。
大規模な臨床研究(ELLDOPA study(イーエルドパ試験)※1)により、早期からの適切な薬物治療の有効性が確認されています。さらに、医療者と早い段階から関係を築くことで、症状の変化にも適切に対応でき、必要な場合はタイミングよく治療法の調整を行うことができます。こうしたことから、早期からの医療機関との関わりは、長期的な視点で見るとより良い生活を送るための重要な第一歩となります。
日常生活への影響は?~運動症状・非運動症状~
先ほど、パーキンソン病は、手足のふるえなどの運動症状や便秘や気分の落ち込みなどの非運動症状があるとお話いただきました。
これらの症状は、日常生活にどのような影響があるのでしょうか。
近藤先生:パーキンソン病は、運動症状と非運動症状の両方が日常生活に大きな影響を与えます。以下のような例があります。

これらの症状は転倒にも影響を及ぼします。
運動症状では、バランスを崩した際に、無動によってステップが遅れたり、十分なステップ幅が確保できず、体勢を立て直すことがしにくくなります。非運動症状では、頻尿による移動機会の増加は転倒の危険性を高め、それに加えて、起立性低血圧による立ちくらみによって転倒を引き起こします。さらに、治療に関連して、パーキンソン病に対する薬を服用することによって生じる症状の変動やジスキネジアといった不随意運動(薬が効いている時間に、勝手に体がクネクネ動いてしまう症状)も転倒の要因となります。
図のように、体のバランスがとりにくくなることや、立ちくらみが起きやすくなること、また、その他の症状が組み合わさることで、日常生活における転倒の危険性が一層高まる特徴があります。

パーキンソン病はさまざまな症状があり、それらの症状や組み合わせが転倒につながる要因となるのですね。
近藤先生:そうですね。パーキンソン病は、健常な高齢者と比べて転倒のリスクが高く、実際に1年間で約60%の方が転倒を経験するとの報告があります。一度転倒を経験すると再度転倒するリスクが高くなることも知られています※2。さらに、転倒による大腿骨骨折のリスクも3.2倍以上に高まります※3。半数以上が移動時における転倒であったことが報告されています※4。
また、転倒は、方向によって異なるメカニズムが示唆されています※5。前への転倒は歩行中や方向転換時に多く、すくみ足(歩こうとしているのに足が前に出なくなる症状)との関連が強いことが報告されています。一方、前以外(横や後ろ)への転倒は、座った状態からの立ち上がりや立っている時、方向転換時に多く、バランスの障害や動作が遅くなる、または、小さくなるといった無動、筋肉のこわばりといった筋強剛があるといわれています。
最後に先程ご紹介いただいた非運動症状に対して、ご自身やご家族ができることを教えてください
近藤先生:非運動症状の治療に関しては、対症療法(病気や症状によって引き起こされる苦痛を和らげたり、一時的に楽にしたりするための治療法)が選択肢となり、以下のような対策が挙げられます。

なお、服薬による副作用が日常生活に影響を与えている場合は服薬の調整が対応方法となるため、主治医にご相談ください。運動症状やそれがもたらす二次的な運動機能の低下(柔軟性や筋力、体力の低下)に対する対応については後半で詳しくご紹介します。
※この記事は、2025年4月9日時点での情報で作成しています。
以下を参考に作成しています。
※1: Fahn S, Oakes D, Shoulson I, et al. Levodopa and the progression of Parkinson’s disease. N Engl J Med. 2004;351(24):2498-2508. doi:10.1056/NEJMoa033447
※2: Allen NE, Schwarzel AK, Canning CG. Recurrent falls in Parkinson’s disease: a systematic review. Parkinsons Dis. 2013;2013:906274. doi:10.1155/2013/906274
※3: Melton LJ 3rd, Leibson CL, Achenbach SJ, et al. Fracture risk after the diagnosis of Parkinson’s disease: Influence of concomitant dementia. Mov Disord. 2006;21(9):1361-1367. doi:10.1002/mds.20946
※4: Okuma Y, Silva de Lima AL, Fukae J, Bloem BR, Snijders AH. A prospective study of falls in relation to freezing of gait and response fluctuations in Parkinson’s disease. Parkinsonism Relat Disord. 2018;46:30-35. doi:10.1016/j.parkreldis.2017.10.013
※5: Youn J, Okuma Y, Hwang M, Kim D, Cho JW. Falling Direction can Predict the Mechanism of Recurrent Falls in Advanced Parkinson’s Disease. Sci Rep. 2017;7(1):3921. Published 2017 Jun 20. doi:10.1038/s41598-017-04302-7
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