【第5回】私と理学療法〜後ろ足が麻痺していた愛犬が理学療法で歩けるように~

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連載「私と理学療法」では、ご自身やご家族が、ケガや病気の治療で理学療法を受けた方の体験談をご紹介していきます。
第5回は、愛犬が、がんになり、その延長で後肢麻痺を発症、下半身が動かなくなってしまったため、愛犬が理学療法を受けたという方のエピソードです。
【連載】私と理学療法
PROFILE
金井 慶子さん(66歳・女性 )
東京都在住
理学療法を受けた方:チップちゃん(ジャック・ラッセル・テリア、15歳10カ月・男の子)
理学療法のきっかけ:がんの治療中、発作重積および後肢麻痺を発症。下半身が動かなくなった
後ろ足が麻痺していた愛犬が理学療法で歩けるように
後肢麻痺で足腰が麻痺、歩けない状態に
愛犬「チップ」が理学療法を受けたときの体験談です。2021年10月に複数のがんが見つかりました。絶望的な思いでしたが、初診の際、獣医師に「これからはがんと共生です」と言われ、少しだけ救われた思いがしました。
チップが、がんの治療を受ける中、一時はてんかんになり生死をさまよいましたが、獣医師の手厚い治療により一命を取り留めることができました。
その後後肢麻痺により下半身を動かすことができなくなりました。回復の兆しが見えず、チップはいよいよ車椅子を装着する状況になり、獣医師主導のもと治療の一環として理学療法を受けることになりました。
理学療法で少しずつ歩けるように

チップが元気に歩き回っていた姿を見ていただけに、歩けなくなった姿を目の当たりにした時は、受け止めることができず辛かったです。しかし、そのような状況でも、理学療法士や愛玩動物看護師の方が手厚く理学療法を続けてくださり、まったく動かなかったチップの足腰が少しずつ動くようになりました。
最初は後ろ足の関節が硬くならないよう、痛みのない範囲で関節を動かす運動(関節可動域運動)からスタートしました。その後、介助してもらいながら立ち座りの練習、バランスディスクで不安定な環境をあえて作り出しておこなう立位バランス練習、さらにボールを用いてモチベーションを高めながら歩く練習などをおこないました。
理学療法の際は、チップの緊張を和らげるよう、愛玩動物看護師の方々が優しく温かく声をかけてくださいました。



理学療法の内容は、その日のチップの状態に合わせて調整していただきました。入院中は平日、午前・午後それぞれ30分ずつ、立ち座り練習や立位バランス練習、さらに介助歩行等のメニューを組み合わせて訓練していました。
チップは、一つの訓練がミスすることなくできた時には、得意気な顔をしていました。治療日は朝からうれしい様子で「早く行こう!」と言っているようでした。治療も嫌がることなく、治療日が楽しみの一つになっていたように思います。


理学療法を開始した当初は、車椅子の利用も検討するほど、チップの下半身の麻痺が重度でした。しかし徐々に動けるようになり、発症から1カ月弱で退院する際には、チップ自身の足で歩いて退院することができました。
退院後の生活とチップとの別れ
退院してからは、週に1回病院に通い、毎回1時間程度の理学療法を受けていました。散歩に連れて行くと、得意げな顔で自由に歩けることを楽しんでいるように見えました。
しかし、がんからの快復も共生も叶うことはなく、辛い治療が続きました。それに耐えているチップがあまりにもかわいそうで、あるとき獣医師から安楽死の提案をいただきました。悩んだ末、夫と二人、チップとの別れを決意しました。
退院から約半年後、2022年6月にチップは旅立ちました。チップが亡くなった直後は気持ちが塞ぎ、何をしても心ここにあらずで、なかなか前を見ることができませんでした。お世話になった理学療法士や愛玩動物看護師、スタッフのところに伺い、話を聞いていただく中、時間はかかりましたが徐々に前向きになり、何事もまずはやってみようと思えるようになりました。
同じような経験をしている方に寄り添いたい
これまで支えていただいたことに感謝し、何か私でも役に立てることを見つけていきたいと思います。例えば、同じように辛い体験をしている方々に寄り添い、お話を聞かせていただくボランティア活動の機会があれば、体験したいです。
また、同じようにペットのリハビリを経験される方に対しては、「最初は不安もあるかと思いますが、まずどのような理学療法をするか説明を聞いていただき、愛犬が少しでも快復することを願い、思い切ってチャレンジしてみてください」とお伝えしたいです。
辛いがんの治療に理学療法を取り入れてくださった病院のスタッフの皆さん、先生方、ありがとうございます。日々の生活が平穏であることの大切さを教えていただき、感謝しております。皆さんにお会いでき、楽しい犬人生だったと思います。
担当理学療法士からの応援メッセージ
お名前:吉川和幸さん(公益財団法人 日本小動物医療センター)
チップちゃんの理学療法を担当させていただき、日々その生命力とご家族の深い愛情に心から感銘を受けました。チップちゃんが数々の困難を乗り越え、一歩ずつ前進する姿は、まさに希望そのものでした。歩けるようになった瞬間の喜びや、理学療法を通じてご家族とともに過ごされた時間の尊さに触れ、私自身も多くのことを学ばせていただきました。
がん治療の最期まで関わらせていただけたことは、私にとってかけがえのない経験です。このご縁に心より感謝申し上げます。今後は、このような活動をさらに多くの方々に知っていただき、困っている動物とそのご家族のお力になれるよう努めてまいります。金井さんにもご協力をいただきながら、少しずつ活動の輪を広げていければと考えております。
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