三浦豪太さんインタビュー(1)楽しみながらトレーニングできる。三浦さんが語る登山の魅力

写真:アコンカグア登頂を目指す三浦雄一郎さん(左)と豪太さん(右)

2019年1月、南米大陸の最高峰アコンカグア(標高6,961メートル)に、父である三浦雄一郎さんとの親子登頂を目指して挑んだ三浦豪太さん。雄一郎さんはイタリアのキロメーターランセで時速172.084キロメートルの世界記録を樹立。2013年には80歳で自身3度目のエベレスト登頂に成功し、世界最高齢記録を更新しています。
アコンカグア登頂の際には、雄一郎さんは惜しくも6,000メートル地点でドクターストップにより登頂断念となりましたが、豪太さんはアコンカグア登頂に成功されました。

リガクラボを運営する公益社団法人 日本理学療法士協会では、80代を超えてなお登山を続ける三浦雄一郎さんのアコンカグア挑戦にあたり、全国の皆様から頂いたメッセージを書き込んだ特製フラッグを贈り、登山を応援してまいりました。

そこで今回は、プロスキーヤーであり登山家の三浦豪太さんに、登山の魅力、そして三浦ファミリーの子育て方法や、日本の未来を担う子どもたちへのメッセージなどをお伺いしました。

第1回は、「登山の魅力」についてお伝えします。

※インタビューの文中に登場する健康法などは、ご本人の体験に基づくものですので、リガクラボとして効果等を保証するものではございません。

エベレスト・アコンカグアで見た景色

―豪太さんはアコンカグア登頂の前に、二度に渡ってエベレスト登頂に成功されていますが、エベレストの山頂の景色はどんな感じでしたか?

三浦さん:まず、空の色が濃い。黒に近いくらいの青ですね。僕が見た山頂からの晴れた景色は2013年でしたが、天気が良く、はるか彼方まで見渡せました。目を凝らせばそのまま日本まで見えるんじゃないかってくらい。

―本当によく見える、はっきりした景色という感じなんですね。

三浦さん:エベレストはネパールとチベットにまたがっていますが、かつてのインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかった、いわば分水嶺のようなところに位置しています。世界一高いから、分水嶺と言ってもかなりの高さですが…。

北側を向くとチベット高原が広がっていますが、比較的山が少なく、ただものすごく標高のある高原地帯になっています。かたや南側を向くと、かつてインド亜大陸がぶつかった衝撃…何億年もかけてできた山並みの蛇腹のようなものがごつごつとしています。地球規模の歴史が、よく分かる感じがしました。

―聞いているこちらまで景色が浮かんでくるようです。世界一のエベレストに次いで、南米大陸最高峰のアコンカグアにも今年1月に登頂されましたね。アコンカグアの景色はいかがでしたか?

三浦さん:それが、アコンカグアもエベレストと同じような景色でした!どちらの山も大陸同士の造山運動でできているからか、地球の裏側にある山なのに同じような印象を受けました。

写真:黒に近い青空(アコンカグアで登山中の様子)

三浦さん:アコンカグアの場合、西側を見ると高原地帯、東側を見ると切り立った山。ただし、アコンカグアは山頂が結構広かったですね。まるで富士山の山頂のように、人が沢山いて、とても大衆的な感じがしました。景色自体はきれいだけど、人が多いなって。おそらく、アルゼンチンの国民にとっての富士山なんだろうなと思います。

三浦さんに聞く、山登りの魅力と女性も登りやすいおすすめの山は?

―三浦さんが考える山登りの魅力とは?

三浦さん:山登りの魅力は、楽な気持ちで登って、山頂までの風景を楽しんだり、友人たちと自然の中でお弁当を食べたりすることだと思いますね。ちなみにお弁当は3割増しに美味しく感じます。運動選手に対する味覚の鋭敏化に関するテストがあったのですが、運動の種類に関わらず、甘みやうま味が数倍から10倍程度も敏感になったというんですね。

そもそも舌は、体にとって毒なのかそうでないか、あるいは食べられるものかを判断する器官であって、常に生存と共にありました。狩猟採集の時代から運動とセットになっていたものなので、舌が運動の後に敏感になるのは正しいことなんです。だから山登りの後の食事はおいしく感じるし、体が欲しているというのもわかります。

また安全面でいうと、山は自然なので確実に保証はできない部分もありますが、その点を補うくらい山登りは楽しく、どんな年齢からでもできる健康的ないい運動であると思いますよ。

―普段なかなか運動できない、運動不足になりがちな女性にもおすすめの山はありますか?

三浦さん:関東は山に恵まれているんですよ。最近、高尾山に行きましたが、神社や茶屋などもありますし、しかもかなり安全です。そして何より、『とろろそば』や『ビアガーデンで飲む一杯』がおいしい!

まずは山登りをトレーニングと考えるのではなく、楽しみ、ご褒美と考えてほしいですね。きっかけはファッションでもいいし、ビアガーデンでもいいし、そばでもかき氷でもいいんです。そうやってトレーニングではなく一つの楽しみとして山登りを考えてみてほしい。

女性の凄いところは、一度山登りをして気に入ったら、どんどん積極的に山へ行くようになるところだと思います。男性の場合、山登り自体が目的になっている人も多く、そういう人はつらいことばかりやっているうちに長続きしなくなってしまう。その一方で女性は、きっかけこそ「山ガール」のようにファッションだったものの、続けるうちに山登りの楽しみを見出す人も多いようですね。楽しいと感じられるようになったら「次の山どうしよう?」って次第に計画的な考えになりますからね。

健康を意識して、日常に山登りを取り入れるメリット

―健康を意識したトレーニングとして、山登りを取り入れる場合のポイントは何でしょうか

三浦さん:山登りにトレーニング目標を設定するのだったら、1か月に累計標高(注:登山において、上りで獲得した標高の合計のこと。)2,000メートル分の高さを登ってみることですね。ビル1階の高さが3メートルとすると、10階登ったらだいたい30メートルくらいになります。標高差を利用するトレーニングは。実はすごく効率がいいんです。駅の階段を上がると結構疲れますよね。横に1メートル移動するよりも標高で1メートル上がるエネルギーは全然違うんです。標高1メートルは横の距離に換算すると30倍、つまり30メートル歩くのと同じエネルギーともいわれています。

つまり、累計標高2,000メートルを横の距離にすると、約60キロメートル走るのと同じとも言えます。1か月60キロメートル走ることは、フルマラソンで4時間切るランナーがトレーニングの目標にするくらいの距離です。それと同等のエネルギーということですね。

でも普段の生活では、累計標高2,000メートルって結構大変ですよね。ビルを10階まで上がって30メートルと考えると、平日に毎日上っても1か月で900メートルにしかなりません。ところが「山登り」だと、標高差が最低でも500メートル以上はありますから、週末に2回登れば1,000メートル以上になるわけです。

―1メートル登るのに、すごいエネルギーを使っているんですね。山登りをするうえで、初心者の方が気をつけることはありますか?

三浦さん:『上り』よりも『下り』に気をつけてほしいですね。山下りにはそのための技術があるので、下りで使う筋肉をいかに働かせるかが大事です。膝を曲げずに、勢いよく下っていってしまう人がいますが、そうするとわずか20㎝くらいの段でも1トンくらいの重さがかかってしまうんです。そんなことをしたら膝が壊れてしまうので、体重を移す前になるべく衝撃がかからないように、後ろ足を深く曲げて、つま先から着地します。関節内は血管が無く、一度傷がつくとなかなか治らないので大事に使いましょう。

このように、山登りは理想的な有酸素運動である上りと、理想的な筋力運動の下りの組み合わせです。山登りをしっかりできるということは、筋肉の特性を理解して生かしているとも言えますね。

―ありがとうございました。山登りをするときは、上りと下り、使う筋肉をしっかり意識して挑みたいと思います!

次の記事では、「三浦豪太さんが父・雄一郎さんから受け継いだものとは?」をお伺いします。

PROFILE

三浦 豪太(みうら ごうた

1969年8月10日生まれ。プロスキーヤーであり登山家である三浦雄一郎さんを父に持ち、自身もスキーのモーグル競技において長野オリンピック13位、ワールドカップ5位になるなど活躍。その一方で、米国ユタ大学スポーツ生理学部を卒業、順天堂大学大学院で博士課程を取得した医学博士でもある。11歳で最年少のキリマンジャロ登頂を達成。2013年には、雄一郎さんと2度目のエベレスト登頂を果たし、世界初である親子で2度の登頂記録を樹立した。ソチオリンピックでの、独特な解説も話題に。NPO法人ナスターレース協会理事長。慶應義塾大学特任准教授。