【第10回】シカクの人物図鑑 高橋浩平さん:リハビリテーション栄養の第一人者として活躍する理学療法士

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「シカクの人物図鑑」シリーズでは、理学療法士としてお仕事をされていて、その他にも素敵な特技をお持ちの方、別のフィールドでも活躍されている方などをピックアップして紹介していきます。

第10回目となる今回は、理学療法士として勤務する傍ら、日本リハビリテーション栄養学会や日本栄養・嚥下理学療法研究会の理事としてリハビリテーションにおける栄養の重要性を啓発する高橋浩平さんをご紹介します。

シカクの人物図鑑:プロフィール

高橋 浩平(たかはし こうへい

■年齢:43歳

■現在のお仕事:
①田村外科病院で理学療法士として勤務
②日本リハビリテーション栄養学会 理事
③日本理学療法士学会連合 日本栄養・嚥下理学療法研究会 理事
④日本臨床栄養代謝学会学術評議員

■今のお仕事を始めるまでの経歴:
2001年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科 卒業
2001年 原田病院リハビリテーション科 勤務
2003年 戸田中央医科グループ(八王子山王病院、田園調布中央病院、戸田中央リハクリニック) 勤務
2014年 田村外科病院リハビリテーション科 勤務
2016年 日本理学療法士学会 栄養・嚥下理学療法部門 運営幹事 就任
2017年 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学部教育・管理分野専攻 卒業
2019年 日本リハビリテーション栄養学会理事 就任
2021年 日本理学療法学会連合 日本栄養・嚥下理学療法研究会理事 就任

■資格
栄養サポートチーム専門療法士(※1)、3学会合同呼吸療法認定士(※2)
※1 日本臨床栄養代謝学会が認定をおこなう、静脈栄養・経腸栄養を用いた臨床栄養学に関する優れた知識と技能を有するとされる資格。
※2 (一社)日本胸部外科学会、(一社)日本呼吸器学会、(公社)日本麻酔科学会から選出された委員により構成されている「3学会合同呼吸療法認定士認定委員会」が施行する認定試験において一定の合格基準に達した者に与えられる資格。

■最近あったちょっと気になること:
サッカーが大好きで、今も現役でプレーしています。今年からシニアサッカーリーグのチームに所属しました。コロナ禍で活動が制限されていることもありますが、サッカーを楽しむとともに、今でも上手くなるべくサッカーに関するさまざまな勉強をしています。

リハビリテーション栄養の専門家として、理学療法と栄養面から患者をサポート。高橋浩平さんの人物図鑑

はじめに、高橋さんの現在のお仕事を教えてください。

高橋さん:田村外科病院で理学療法士として勤務しています。主に高齢の整形外科疾患患者、呼吸器疾患患者などに対して、管理栄養士、看護師と一緒に食事回診をおこない、食事摂取量や食欲、食事姿勢、ご本人の嗜好を確認しています。そのうえで、リハ栄養カンファレンスをし、適切なリハ栄養管理を多職種で検討しています。

また、リハビリテーション栄養や栄養理学療法の講演、執筆、学術大会の企画などをおこない、リハビリテーションにおける栄養の重要性を啓発しています。

病院で勤務されている一方、リハビリテーション栄養の啓発活動にも力を入れていらっしゃるのですね。「リハビリテーション栄養」とは、どのようなものなのでしょうか?

高橋さん:リハビリテーション栄養は、下記のように定義されています。

『国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)による全人的評価と、栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、診断、ゴール設定を行ったうえで、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し、機能・活動・参加、QOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である』

若林秀隆著『PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養(第3版)』医歯薬出版.2020より引用

つまり、患者さんや高齢者の機能・活動・参加、QOL(生活の質)をより高めるために、栄養状態を考慮してリハビリをおこなう、そしてリハビリの内容を考慮して栄養管理をおこなうということです。「リハからみた栄養管理」と「栄養からみたリハ」の2つの視点を持つことが重要で、管理栄養士のみならず理学療法士もチームに加わり、多職種のメンバーが一緒に治療を進めていきます。

リハビリテーション栄養は、他職種と連携してさまざまな視点で考えていくことが重要です。そのためには、いろいろな職種の方とうまくコミュニケーションを取っていくことが大切なんです。

高橋さんが理学療法士資格を取得しようと思ったきっかけについてお聞かせください。

高橋さん:高校生の頃、サッカー部のキャプテンを務めており、練習メニューは顧問と相談しながら主に私が決めていました。

どうすればサッカーに必要な体力がつくのか、良いプレーをするにはどういった身体機能が必要なのか、怪我をした部員にはどのようなトレーニングをするべきなのか、と日々考え調べているうちに、身体運動学やリハビリテーションに興味を持つようになったんです。そして、このようなことを仕事にできたらいいなと思うようになりました。

その後、大学進学を検討する際に職業図鑑のような本を読んだのですが、そこで理学療法士という資格・仕事があることを知り、目指すことにしました。

長年続けていらっしゃるサッカーがきっかけだったのですね。リハビリテーション栄養を学び始めた理由についてもお聞かせください。

高橋さん:2007年頃、当時勤めていた病院で、栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)のメンバーになったことがきっかけです。その頃はまだ“リハビリテーション栄養”という言葉はなく、私自身も栄養に関する知識はありませんでした。

しかし、NSTに参加していくうちに、入院患者さんに低栄養の方が多いことや、栄養サポートを併用すると身体機能やADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)が向上しやすいことを実感していきました。そこで、理学療法士として栄養に関する知識を身につけ、栄養評価や多職種と連携した栄養管理を実践すべきだと思い、勉強し始めました。

そして、2010年にリハビリテーション栄養を提唱した若林秀隆先生(東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授)と出会い、さらに勉強を進めました。

栄養管理とリハビリ、両面からのアプローチが重要だと臨床で経験されたのですね。現在の理学療法士としての仕事や活動において、やりがいがあるのはどんなところですか?

高橋さん:やはり患者さんが元気になることが一番うれしく、やりがいを感じます。
以前、60代の脳性麻痺患者さんが頚椎症性脊髄症を患ったことで四肢麻痺が生じ、約3カ月間寝たきり状態になってしまいました。術後に当院でリハビリを開始し、麻痺は改善傾向でしたが、過度な安静で活動性が低下していたことや低栄養により体重や筋肉量が減少し、思うように筋力やADLが回復しませんでした。

そこで、多職種で “攻め”のリハビリテーション栄養を実践しました。すると、予想以上に回復し、体重や筋肉量が増え、最終的に歩けるようになりました。患者さん自身の頑張りによるものが大きいと思いますが、リハビリだけではここまで回復しなかったのではないかと感じています。患者さんは回復したことに喜んでくれ、我々スタッフもとてもうれしく思い、リハビリテーション栄養を学んでよかったと強く思いました。

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