【後編】スポーツと理学療法~理学療法士のスポーツ分野での役割とは~

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アスリートのケアに理学療法が提供できること

河合選手は、先生方のメンテナンスを受けて、自身の身体について気づいていなかったことに気づくことができたとおっしゃっていました。理学療法は、アスリートが身体の痛みや悩みを解決し、客観的に自分の身体の状態を知ることに役立てるようです。先生方にアスリートのケアをする場合に配慮されていることや、理学療法が提供できることについて、さらに詳しく伺っていきます。

河合選手のように世界を目指すアスリートのケアをする際の配慮として、メンタルケアやコミュニケーションの側面で、どのようなことを心がけていらっしゃるか、またどんなことを提供できるとお考えでしょうか?

福井先生:理学療法士の意味ある特徴の一つは、動作の評価だと思っています。選手にそのフィードバックを上手におこない、肯定的にお互いを尊重しあえるコミュニケーションや、客観的に自分を認知する能力の幅を広げることが重要だと思います。また、理学療法士自身が自分の技術に当然自信を持っていなければなりません。寄り添っていることを自然に表すことができる態度も必要に思います。

柿崎先生:プロフェッショナルのアスリート選手は、技術そのもののスキルは言うまでもなく高い状態にあります。しかしながら、時として自身の持っている感覚とフィジカルとの間に誤差が生じ、その状態から抜けられなくなることがあると感じています。理学療法士はその技術をもって問題解決することにより、間接的にメンタルケアに関わることができ、コミュニケーションを深められると考えます。結果ありきだと考えます。

多くの学生の前で理学療法の実技をおこなう柿崎先生

上田先生:アスリートを含めて症状を有する方は、自身の症状の原因が分からず不安になっていることが多い印象を受けています。そのためメンタルケアやコミュニケーションでは、症状の原因について可視化できるよう骨格模型や解剖書などを用いた説明、専門用語を使わず平易な言葉での説明を心がけています。また「運動療法」や「セルフケア」を実施して、即時的な効果を感じていただき、この人に任せても大丈夫だと安心していただけるよう配慮しています。

アスリートに寄り添う気持ちや信頼感などが大切なのですね。アスリートは特に怪我などの困難に直面することが多いと思います。怪我を起こさないために、どのようなことを日頃から意識し、おこなうことが大切でしょうか。

福井先生:自分のボディイメージが大切だと思います。またそういう感覚を普段から持つためには、競技特性に合わせたトレーニングは当然ですが、トレーニング前後に簡単に確かめられる評価方法を自分で持つ必要があると思います。そういった内観的な自己フィードバック能力と、さらに言えばアスリートの方に、自己フィードバック能力に基づいた自己評価に気づかせてあげることだと思います。

大学で学生に理学療法を指導中の福井先生

柿崎先生:河合選手もそうでしたが、自分自身の身体の中心の感覚のズレが生じていました。その中心の感覚のズレを自己評価し、自己修正できることが大切であると考えます。日常で生活をしているだけでも身体の中心の感覚はずれてくることがありますが、競技で生じる身体的負荷、そして心理的負荷などはことのほか大きいものといえると思います。自分でできる日頃のコンディショニングは欠かせないと考えます。

上田先生:怪我を起こさないためには、自身の「身体の特徴」を知って、症状がある場合は早期発見・早期治療や障害予防をすることが重要だと考えます。そのため日頃より、症状の有無を意識して確認することが大切です。症状が改善しない場合は、できるだけ早く医療専門職(医師や理学療法士など)の助言を受けることが望ましいと思います。症状が悪化する前に、早期発見・早期治療ができれば、ベストなコンディションで早期に競技復帰することが可能です。またベストなコンディションを維持できるように、障害予防のセルフケアを取り入れることも大切です。

大学で理学療法の実技を学生に指導中の上田先生

アスリートが自分自身で、身体の特徴や状態を評価できるようになることが大切なのですね。読者の中にはアスリートを目指されている方や、日常的に運動をおこなっている方がいると思います。最後に、理学療法士の視点で、読者へアドバイスをお願いできますか?

福井先生:日頃から運動されている方は、ただ運動するだけではなく、自分の体の内側の変化を感じることが大事だと思います。iPhoneのヘルスケアアプリのように、自分の変化を客観視できるツールを使うと、より変化が実感できるようになります。

柿崎先生:思っている以上に体幹は不安定になっています。「日々鍛えている」「自分にとって不調はない」と思っていても、胸郭においては、左右の非対称性は必ず存在し、お腹周りの筋肉を正しく使えなくなっていることが多いです。そのまま放っておかず、定期的にコンディショニングを受け、最良の運動機能を養ってください。

上田先生:理学療法士は、「身体の特徴」に合わせた個別の運動指導(動作能力の回復)、運動器の機能障害に伴う症状の緩和(痛み、動きの制限の改善)ができる医療専門職です。パフォーマンスを含めた運動や症状でお悩みの場合は、近隣の医療機関にぜひご相談ください。きっと一緒になって悩みを解決してくれると思います。私自身もアスリートや運動をおこなっている皆さんに、ベストなコンディションを提供できるよう技術を磨きたいと思います。

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