【第6回:前編】生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法~在宅生活に向け患者さんを支える門脇明仁さん~

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リガクラボの連載「生涯現役!理学療法士に聞く、キャリアと健康管理法」。長きにわたりお仕事をされていて、現在も生涯現役を目指して活躍されているベテラン理学療法士の方々に、前編では現在のお仕事(セカンドキャリア)について、後編では日々実践している健康管理法についてお話を伺っていきます。

第6回は高度急性期の理学療法に携わった経験を活かし、退院後に在宅生活を目指す患者さんを支える門脇明仁さんにご登場いただきます。

PROFILE

門脇 明仁さん(かどわき あきひと)

門脇 明仁さん(かどわき あきひと

1956年高知県生まれ。21歳で高知リハビリテーション学院を卒業し奈良県立奈良病院(現:奈良県総合医療センター)に就職。37歳で奈良県理学療法士会会長に就任。士会法人化や奈良県理学療法士学会、近畿理学療法学術大会、全国研修会を担当。60歳で定年退職、縁あって平和会吉田病院に再就職。最近の趣味は料理やキャンプ、歴史巡りなど。

門脇さんの現在のお仕事(セカンドキャリア)

門脇さんの現在のお仕事について伺います。門脇さんは、奈良県立奈良病院(現:奈良県総合医療センター)を定年退職された後、現在は平和会吉田病院の一般科リハビリテーション室に勤務されていらっしゃいます。現在の主な仕事内容について教えてください。

門脇さん:60歳から平和会吉田病院 一般科リハビリテーション室の教育担当として、学会発表のアシストや職場勉強会の開催などを含め、若いスタッフの公私の相談にあたってきました。65歳からは非常勤職員として週4日勤務しています。

平和会吉田病院は、在宅生活に向けて徹底的に患者さんを支える、 面倒見の良い病院です。在宅に向けた退院前カンファレンスや退院前在宅訪問の実施、また、訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーションなどをおこなっています。

現在役職はなく、ごく普通の理学療法士として働いています。当院のモットーは「心も身体も診ます。そして“自分らしく生きる”を支えたい」です。私も「心と身体を支える」を指針に、日常業務にあたっています。

現在は平和会吉田病院で、職員の皆さんを教育面で支えられているのですね。前職では高度急性期医療に関わっていらっしゃいましたが、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?

門脇さん:奈良県立奈良病院(現:奈良県総合医療センター)には救急救命センターがあり三次救急に対応していました。三次救急とは、生命に関わる重症患者を24時間受け入れる救急体制のことです。

私が勤務していたころは多発外傷、脳卒中、心筋梗塞などの患者さんが搬送され、可能な限り早期にリハビリテーション介入をしていました。また、計画的に実施される予定手術で入院する患者さんも多く、そうした方に対しては状態管理をしながら手術翌日の離床(ベッドから離れて、起き上がる、座る、立つ、歩くなどの動作をできる状態に移行させること)を目指します。ここでは、高度急性期からの理学療法士の役割を学びました。

一方で、祝日や休日、年末年始をはさむと離床が遅れることがありました。これでは理学療法の役割が果たせないということで、交代で休日の出勤体制を作りました。その後は365日対応できる理学療法を目指し、その体制づくりに努力しました。また、士会法人化を実施し、奈良県理学療法士学会や近畿理学療法学術大会、第39回日本理学療法士協会全国研修会なども担当しました。

これまでのご経験があるからこそ、新しいフィールドでも柔軟にご活躍されているのですね。現職での業務は、前職とは異なるようですが、具体的にどのような業務をおこなっているのでしょうか。

門脇さん:現在は、週4日勤務のうち、3日は病院勤務、残り1日は訪問リハビリテーションをしています。

前職では自宅退院を視野に入れることは少なく、多くの患者さんが転院する病院でした。今関わっているのは、理学療法の集大成とも言える在宅生活への理学療法で、私にとって興味津々の世界です。

平和会吉田病院の特徴は、精神科病棟の患者さんと認知症を背景にした患者さんが多いことです。当初は精神疾患や重度認知症の方と関わったことが少なく、どのように対峙したら良いのか不安がありました。

しかし、実際に向き合ってみると、精神疾患の方は心が純粋な方が多いことに気づかされました。嫌なことは嫌と言い、好きなことは過剰なまでにやろうとします。それゆえに相手の気持ちを推し量ることが苦手だったり、社会経験が少なかったりということが共通しており、自身を守ろうとする行動や言動が周囲に誤解を与えているのではないかと感じました。

入院している精神疾患の患者さんは高齢化が進み運動機能が低下し、また薬物治療の影響で筋肉が硬くなるため、独特の歩き方をします。症状を理解すると不安がなくなり、理学療法の効果が出やすいことがわかりました。

訪問リハビリテーション先の患者さんと門脇さん

門脇さん:一方、とある重度の認知症の患者さんに接したときには急に大声を出され、身体を固くされ、強く拒否されました。座ってもらおうとしても、さらに拒否が強くなるばかり……。そこで学んだことは、患者さんは伝えられた言葉が理解できず、何をされるかわからないと、不安や恐怖心が強く出て、拒否という形で現れるということでした。

車いすに移ってもらう場合、まずベッドを起こし、車いすを見てもらいます。シートを叩いて、「ここに座る」ということを伝えます。また、靴を顔の近くで見せると何をするのか理解してもらえました。認知症の方は視野が狭くなっていることが多いのですが、しっかり見てもらうと移乗することが伝わり、楽に立ち上がりができるようになりました。

年齢を重ねても学びは多いと感じています。精神疾患の方も認知症の方も、理解を深めることでうまく付き合えるようになりました。

実際に患者さんと真摯に向き合われているからこそ得られる気づきや学びだと感じます。現在のお仕事で、印象的に残っているエピソードはありますか?

門脇さん:三十数年前に「心が動けば、体は動く」という言葉に出会い、それ以来気に入って使っています。しかし逆に言えば、「心が動かないと体は動かない」という言葉が在宅リハビリにはぴったりあてはまります。

私が訪問した、あるパーキンソン病の男性利用者さんは、訪問するたびに「こんなものを作りました」と言っていろいろなものを見せてくれます。ドアを開くと音が鳴るセンサー、手すりが滑らないように貼ったラバーなど様々です。定期検診に行くときも「おしゃれして出かけるんですよ」と楽しそうに語ってくれます。

この男性利用者さんは、犬の散歩を日課にし、毎日30分間歩いていました。しかし、犬が高齢化で弱ってしまったことを境に散歩をしなくなり、その方も歩かなくなってしまいました。幸い自宅でできることはたくさんありましたが、私はこの方と接していて、心を動かすことの大切さを改めて教えられました。

また、若いスタッフの方々と接していると「なるほど、こんな考え方があるのか」という気づきを得ることがあります。私の定型的思考を修正してくれる指摘もありがたいです。

患者さんや同僚との関わりで得られる刺激や興味が、門脇さんのセカンドキャリアを豊かにしているのですね。特に現職に活きていると感じる、前職でのご経験はありますか?

門脇さん:前職で3つの認定資格を取りました。3学会合同呼吸療法認定士、糖尿病療養指導士、ダウン症赤ちゃん体操指導員の資格です。残念ながら最近は更新せず失効してしまいましたが、資格を取ったことは小さな誇りになっています。

私の場合、業務上の必要性に応じて取得したものですが、最近の若い理学療法士に認定資格取得をすすめると、「取ると給料が上がりますか?」と聞かれます。確かに給与に直結するといいのですが、他の職種においても多くの場合、給与に影響することはないと思います。

しかし、資格を取ることは勉強してきた証明です。そしてその知識と技術は、理学療法士人生を生涯にわたって助けてくれると感じています。

お仕事への向き合い方に関するお話がありましたが、門脇さんが理学療法士になられた頃と現在で、世の中の理学療法士についての認識が変化してきている実感などありますか?

門脇さん:1977年に就職したときには、理学療法士という仕事をなかなか理解してもらえませんでした。亡き母は「息子はビリビリテーションの仕事をしている」と周囲に話をしていましたし、当時医師から指示される理学療法のほとんどはマッサージで、運動療法の指示もありませんでした。

そのときに感じたのは、「名は体を表す」ということです。看護師、薬剤師、検査技師、放射線技師など名前を聞くと何をする仕事か理解できます。しかし、理学療法士の「理学」の意味がわかりにくいのではないでしょうか。

私は患者さんに初めて挨拶するとき「理学療法士の門脇です」と言います。そして、理学療法士はどんなことをするのか説明させていただきます。最近は多くの方が説明しなくともわかってくださるようになってきました。

理学療法士も、やっと「名は体を表す」ようになったのだなと感じています。

おわりに

門脇さんは、在宅生活で患者さんをサポートすることは「理学療法の集大成」とおっしゃいます。高度急性期医療の理学療法士から、在宅生活を目指す患者さんを支える理学療法士になった門脇さんですが、変わらずに学びを続ける姿勢と患者の方々に対する真摯な姿勢が印象的でした。

また、理学療法士の認知が広がってきたように思うとのお話がありましたが、門脇さんのように、長年のキャリアを通して患者さんの心と身体に向き合う理学療法士の地道な積み重ねがあったからこそ、社会に広く伝わるようになってきたのではないでしょうか。

後編では、門脇さんの活動を支える健康管理法について伺っていきます。お楽しみに。