【後編】有安諒平選手インタビュー パラスポーツ・理学療法士・研究…人生を突き動かす「思い」とは?

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パラローイングの日本代表選手、理学療法士、そして大学院生と「三足のわらじ」で活躍されている有安選手。

前回のインタビューでは、パラローイングという競技の醍醐味について、また、視覚障害を持ちながらも日々精力的に乗り越えて活動する有安選手についてお伝えしました。

インタビュー後半となる今回は、理学療法士としての顔や、多忙な日々を送る有安選手を突き動かす「思い」に迫っていきます。

選手、理学療法士、大学院での研究…三足のわらじで活躍

有安選手が理学療法士を目指した動機を教えていただけますか。

有安選手:キャリアとして「理学療法士」という選択肢が浮かんだのは、高校卒業を前に進路を決めるタイミングでした。

高校生の頃は、まだ自分が視覚障がい者であるという現実をなかなか受け入れられずにいましたが、そんな気持ちがある一方で、だからこそ、同じ境遇の人たちの役に立てる仕事はないか、と考えたのです。

役に立てそうな医療系の職種で、障害を持っていてもできる仕事ということで辿りついたのが、理学療法士でした。

大学で学んで資格を取得し、その後は研究員として3年ほど大学に在籍しました。その後には、非常勤スタッフとして病院や施設で勤務し、臨床も経験しています。研究を続けるため大学院に進学し、現在は、理学療法士として勤めながら、パラローイングの練習に取り組む毎日です。

スポーツ選手として活動しながら、大学院で研究、さらには理学療法士として仕事もされているということですが、大変ではないですか?

有安選手:視覚障害者柔道をやっていた頃から、大学での研究の傍らで、非常勤スタッフとして働き、仕事が終わった深夜に練習していました。練習しよう思って道場に行ったらすでに閉まっていた、なんてこともよくありましたね(笑)。

今は、所属企業が「東京パラリンピック出場に向けて、競技優先にして良い」と言ってくれて、時間の融通を利かせやすい部署に配属してもらっています。競技をメインにした生活ができているおかげで、競技成績も上がっているんですよ。忙しい毎日ですが、やりがいがありますね。

働くために選んだ理学療法士という職種ですが、その資格を活かして競技生活に理解のある企業に就職でき、選手としては自身のケアに活かせる場面もあって、取得して良かったと思いますね。例えばトレーニングのハウツーや、目指すべき身体の作り方なども、理学療法士の知識によってよりわかることがあります。

勤務しながらの練習に対して協力体制があるわけですね。理想的な就職先にはどのように出会ったのですか。

有安選手:視覚障害者柔道をしていた頃に知り合った方が人材紹介会社を起業されて、その縁もあって紹介していただきました。

障がい者の就職というと、「障がい者雇用」という枠がありますが、あらかじめ決まった障がい者向けの仕事をするだけという企業も多く、なかなかその枠を超えた仕事をするのは難しいと聞きます。私の場合は、企業にとっても初の障がい者アスリート枠での雇用で前例がないこともあり、相談しながら競技活動をやらせて頂いています。パラローイング選手としての活動を優先させてくれる所属企業に感謝しています。

伝えたいことがあるから、全てを頑張れる。

写真:明るい笑顔も有安選手の魅力のひとつ

選手と仕事を両立し、とても充実した日々を送られていることがわかります。有安選手には、大きな原動力がありそうですね。

有安選手:2020年という1つの大きなゴールはありつつも、「パラリンピックに出たいから選手をする」というだけではなく、長い目で人生を見ているから、このエネルギーが湧くのだと思っています。

パラローイングはライフワークとして取り組んでいきたいと思っていますし、いずれは教育現場に携わったり、ボート協会に所属して活動したりもしていきたいという思いを持っています。

というのも、私が障害を受け入れるきっかけがスポーツだったので、障害を持つ人たちにとっても、スポーツがそういう「希望」となるように自分の経験や思いを伝えていけたらいいな、と思います。

また、スポーツ選手を続けていくことと、理学療法士の仕事や大学院での研究は、お互い密接に繋がっているように感じています。私にとってパラリンピックに出場することも、理学療法士としてキャリアを積むことも、そして医学博士号を取得することも、どれも人生における大切の目標なのです。

教育にも思いがあるのですね。有安選手は、小学校などで講演されることもあるとお聞きしました。どのようなお話をされるのですか。

有安選手:パラローイングの話もしますが、障がい者の目線で今の社会について話すことも多いですね。例えば、街や駅など公共の場での、障がい者との関わり方についてなどです。

障害のある人を特別視せずに、もっと気軽にコミュニケーションを取り合う雰囲気ができればいいなと思っています。そういう社会になったらいいなという話を、子どもたちに伝えています。

海外に行くとハード面が整備されていなくて苦労することも多々あるのですが、困っていると、誰かが「どうしたの?」と気軽に声をかけてくれます。日本の場合、国民性かもしれませんがそういった意識は薄いように思うのです。

日本は、ユニバーサルデザインなどのハード面が整備されているという部分では、障がい者にとってかなり過ごしやすい国と言えますが、一方で障がい者を取り巻く「人と人の繋がり」はすごく弱いなと感じています。

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